夫婦関係に溝ができる仕組み|小さな歩み寄りと「ありがとう」を研究の数字で読む

夫婦の溝は、大きな喧嘩1回で生まれるというより、毎日の小さなやりとりへの応じ方の積み重ねで広がっていく——夫婦関係の研究は、そう示しています。心理学者ジョン・ゴットマンの研究所によると、新婚夫婦を6年後に追跡した調査で、結婚を続けていた夫婦は相手からの小さな「歩み寄り」に86%応じていたのに対し、離婚した夫婦は33%でした。

先に書いておくと、私は結婚していません。なので、これは外から研究と統計を読んだ話です。調べる前の私は、夫婦の危機は「決定的な出来事」で決まるものだと思っていました。浮気や大げんかのような、ドラマになる場面です。この記事では、公的統計と研究機関の発表を読み比べながら、その思い込みがどうなったかも書きます。

  • 2024年の離婚は18万5,904組。前年より2,090組増えた(厚生労働省)
  • 婚姻件数で割ると約38%。ただしこれは「3組に1組が離婚する確率」ではない(自分で計算)
  • 6年後も結婚していた夫婦は、相手の歩み寄りに86%応じていた。離婚した夫婦は33%
  • 感謝の表現は、結婚生活の質をもっとも安定して予測する要因だった(468人の調査)

「3組に1組が離婚」は本当か

屋外で向き合って話している男女の後ろ姿
Photo by Matheus Câmara da Silva on Unsplash

厚生労働省の人口動態統計(確定数)によると、2024年(令和6年)の婚姻件数は48万5,092組で、前年より1万351組増えました。離婚件数は18万5,904組で、前年より2,090組増えています。人口千人あたりの離婚率は1.55で、前年の1.52より上がりました。

38%という数字の正体

離婚件数を婚姻件数で割ると、185,904÷485,092で約38%になります。「3組に1組が離婚する」という言い方は、だいたいこの計算から来ています。

ただ、この割り算には注意が要ります。分子の離婚は、何年も前に結婚した夫婦も含めた「その年の離婚」です。分母は「その年に結婚した夫婦」です。違う集団どうしを割っているので、「結婚した夫婦のうち何%がいずれ離婚するか」という確率にはなりません。結婚する人の数が減れば、離婚の数が同じでもこの割合は上がります。

「3組に1組」という見出しの熱と、統計の数字が言えることの間には、けっこうな距離があります。私はこの38%を、「離婚が珍しくない」ことの目安として読んでいますが、確率として使うのはやめました。

溝は小さな「歩み寄り」から始まる

ゴットマン研究所は、日常の中でパートナーに向ける小さな働きかけを「ビッド(bid)」と呼んでいます。「見て、あの雲」「今日こんなことがあって」のような、注意や共感を求める一言です。これに応じるのが「ターン・トゥワード(向き合う)」、無視したり流したりするのが「ターン・アウェイ(背を向ける)」です。

研究所の説明では、新婚夫婦を6年後に追跡したところ、結婚を続けていた夫婦は86%の割合で相手に向き合っていました。離婚した夫婦は平均33%でした。

ここで、私の思い込みがひっくり返りました。夫婦を分けていたのは、浮気や大げんかのような「事件」の有無ではなく、「見て、あの雲」に顔を上げるかどうか、という地味な差でした。決定的な出来事で決まると思っていたのは、私がドラマの見すぎだったからかもしれません。

地味な差でも、積み重なると相手の見え方は少しずつ変わっていくのだと思います。相手の一言を悪いほうに受け取りはじめると、それを裏づける材料ばかりが目に入るようになります。人が自分の思い込みに合う情報を集めてしまう確証バイアスは、夫婦の会話でも働きます。

言い争いの最中の「5対1」

ゴットマン研究所が「マジック・レシオ(魔法の比率)」と呼んでいる数字があります。安定して幸せな夫婦は、言い争いの最中でも、否定的なやりとり1回に対して、肯定的なやりとりを5回以上している、というものです。研究所は、夫婦を9年後に追跡した調査で、この肯定と否定のバランスから、その後離婚するかどうかを90%を超える精度で予測できたとしています。

大事なのは「言い争いの最中の」比率だという点です。喧嘩をしないことではなく、喧嘩をしながらも笑ったり、相手の言い分を認めたりしているかどうか。ゴットマン自身も、うまくいっている夫婦は大事な話で言い争っていても、笑ったり、からかい合ったり、愛情のしるしを見せたりしていると語っています。

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関係をむしばむ4つのサイン

ゴットマン研究所は、関係を壊していく話し方のパターンを「黙示録の四騎士(フォー・ホースメン)」と名づけています。

サイン どんな話し方か
批判 行動ではなく、相手の人格そのものを責める
侮辱(軽蔑) 見下す、あざける。相手より上の立場から攻撃する
防御(言い訳) 指摘を受け止めず、言い返して責任を押し返す
無視(ストーンウォーリング) 会話から心を閉ざし、黙り込む

出典:The Gottman Institute「The Four Horsemen」

研究所はこの中でも、侮辱(軽蔑)が離婚をもっとも強く予測する要因だとしています。同時に、4つのサインにはそれぞれ打ち消す行動(解毒剤)がある、とも書いています。サインが出たら終わり、ではありません。

「ありがとう」が効く理由

自宅のテーブルで向き合って話し合う夫婦
Photo by Vitaly Gariev on Unsplash

米ジョージア大学の研究チームは2015年、既婚者468人への電話調査の結果を学術誌 Personal Relationships に発表しました。お金の悩み、話し合いのパターン、配偶者から感謝を伝えられているかどうかを尋ねたものです。

研究チームによると、配偶者からの感謝の表現は、結婚生活の質をもっとも安定して予測する要因でした。さらに、感謝をよく伝えられている人ほど、言い争いの最中の話し合いがうまくいかなかったときでも、離婚を考える気持ちが強まりにくかったとされています。筆頭著者のアレン・バートンは、この結果を「ありがとうの力」を示すものだと語っています。

ここでいう感謝は、特別な贈り物ではありません。「やってくれて助かった」と言葉にすることです。一緒に暮らす時間が長くなるほど、相手がしてくれることは「当たり前」になりやすい。当たり前を言葉にし続けることが、言い争いのダメージを和らげる緩衝材になっている、というのがこの研究の読み方です。

愛着スタイルは、一生変わらないのか

大人の恋愛関係を説明するときによく使われるのが「愛着スタイル」です。心理学者のヘイザンとシェイバーは1987年、乳児と養育者の関係を分類した研究(エインズワースの愛着のタイプ)が、大人の恋愛にも当てはまるかを、新聞の読者から集めた「恋愛クイズ」で調べました。

安心して相手に頼れる「安定型」、見捨てられることを強く心配する「不安型」、親密になることを避けようとする「回避型」といったタイプは、ここから広まりました。ただ、Simply Psychology の解説によると、ヘイザンとシェイバー自身は、子どものころのタイプが大人になってもそのまま続くと言い切ることに慎重でした。その後の関係の中で、人は自分の見方を修正していけるからです。

「自分は回避型だから」と決めつけるより、「いまの二人の間で、どんな反応のくせが出ているか」を見るほうが、実際には役に立ちそうです。

溝を広げないためにできること

ここまでの研究から引き出せる、日常でできることをまとめます。研究結果をもとにした私の整理です。

  • 小さな一言に顔を上げる:相手の「見て」「聞いて」に応じること。6年後に夫婦を分けていたのは、この応じ方の割合でした
  • 「ありがとう」を言葉にする:感謝の表現は、言い争いのダメージを和らげる要因として働いていました
  • 言い争いの最中こそ、肯定を混ぜる:否定1回に肯定5回。相手の言い分の一部を認める、笑う、といった小さな肯定です
  • 人格ではなく、行動と気持ちを話す:「あなたはいつも」ではなく「私はこう感じた」。批判や侮辱のサインを避ける話し方です

一度の話し合いで全部を解決しようとするより、毎日の小さな応じ方を変えるほうが、研究の示す方向に沿っています。つらさが続くときは、夫婦カウンセリングなどの専門家に相談するのも選択肢です。

よくある誤解

誤解1「3組に1組の夫婦が離婚する」

2024年の離婚件数を婚姻件数で割ると約38%ですが、分子と分母は別の集団で、結婚した夫婦がいずれ離婚する確率ではありません。統計の数字としては、2024年の離婚は18万5,904組、人口千人あたりの離婚率は1.55です。

誤解2「喧嘩が多い夫婦ほど危ない」

ゴットマン研究所が重視しているのは、喧嘩の回数より、言い争いの最中の肯定と否定のバランスです。安定した夫婦は、言い争いの最中でも否定1回に対して肯定を5回以上していました。

誤解3「愛着スタイルは子どものころに決まり、一生変わらない」

大人の恋愛に愛着の考え方を当てはめたヘイザンとシェイバー自身が、そのまま続くと言い切ることには慎重でした。その後の関係の中で、見方や反応は変わりうるとされています。

まとめ:2026年9月時点の研究と統計から

夫婦の溝は、決定的な出来事よりも、毎日の小さなやりとりの積み重ねで広がります。ゴットマン研究所の追跡では、6年後も結婚していた夫婦は相手の歩み寄りに86%応じ、離婚した夫婦は33%でした。言い争いの最中の肯定と否定のバランス、感謝を言葉にすること、侮辱を避けることが、関係を保つ手がかりとして示されています。

統計では、2024年の離婚は18万5,904組でした。婚姻件数で割った約38%は、離婚が珍しくないことの目安にはなりますが、確率ではありません。

結婚していない私が言うのもおかしな話ですが、読み終えていちばん残ったのは、「見て、あの雲」に顔を上げるかどうか、という地味な差でした。研究や統計は更新されていくので、最新の情報は各研究機関や厚生労働省の公式発表で確認してください。

📊 「夫婦関係に溝ができる仕組み|小さな歩み寄りと「ありがとう」を研究の数字で読む」はこんな人に読まれています

2026年9月24日 〜 2026年10月24日
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この記事について

この記事は夫婦関係・人間関係の心理についての一般的な情報提供を目的としています。個別の夫婦関係の問題や、暴力・ハラスメントを伴う状況については、カウンセラーや専門の相談窓口にご相談ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。