個人情報が流出したときの見舞金はなぜ500円なのか|ベネッセ2895万件と慰謝料1,000円から読む損害賠償との違い

個人情報が流出した会社が、お詫びとして配る見舞金は、裁判で認められる慰謝料とは別の、謝罪のために会社が自分で決める金額です。過去の大きな流出では、ベネッセ(約2895万件)もYahoo! BBも、お詫びは500円の金券でした。一方で、ベネッセの裁判で最終的に認められた慰謝料は1,000円で、請求は10万円でした。この記事では、見舞金・慰謝料・会社が決算で計上する特別損失の違いを、判決や決算の公表資料で確かめて、2026年11月時点で整理します。

  • 見舞金は会社が決めるお詫びで、慰謝料は裁判所が認める賠償です
  • ベネッセは500円の金券、Yahoo! BBも500円相当の金券でした
  • ベネッセの裁判は最高裁で差し戻され、差戻審で慰謝料1,000円が認められました
  • 会社にとっては、見舞金より調査・対策費を含む特別損失のほうが大きな支出です
目次

見舞金は損害賠償ではなく、会社が決めるお詫びです

私は最初、見舞金は「賠償金の前払い」だと思っていました。調べてみると、この2つは出どころが違います。

見舞金は会社が自分で決めて配るお金です

ベネッセホールディングスは2014年9月10日に、流出した顧客情報は約2895万件だったと発表し、お詫びとして500円の金券を用意すると公表しました。金券は電子マネーギフトか図書カードで、情報流出が確認された顧客には10月下旬までに手紙を送るとされています(ITmedia)。この金額は、裁判で決まったものではなく、会社が公表して決めたものです。

Yahoo! BBは、流出していない会員にも配りました

2004年のYahoo! BBの事件では、個人情報が漏えいした顧客に連絡したうえで、漏えいしていないユーザーも含めた全会員に500円相当の金券を送ると発表されました。すでに解約した人や無料キャンペーン期間中の人にも同じ措置を取るとされています(Internet Watch)。流出した本人だけでなく、会員全体への謝罪として配る形でした。

個人情報の流出が起きたとき、会社が国に報告する義務や期限は、個人情報が漏えいしたら企業は誰に何をいつまでに報告するのかを解説した記事に書いています。この記事は、報告ではなく、お金の話に絞ります。

500円の金券は、どこまで配られたのか

お詫びの案内が入っている封筒の写真
Photo by Siora Photography on Unsplash

金額が同じ500円なので、同じ規模の対応に見えます。ただ配る範囲は事件ごとに違い、数字から会社の負担も違って見えます。

ベネッセの件数は、3504万件と2895万件の2つがあります

ITmedia によると、顧客情報を不正に取得した委託先の元社員は、約3504万件分の個人情報を名簿業者3社に売っていました。このうち、実際に被害を受けた件数は約2895万件と発表されています。ニュースで見る件数が違うのは、売られた件数と被害を受けた件数を別に数えているからです。

金券が全員に渡ったとしたときの、会社の負担を計算します

2895万件の全員が500円の金券を受け取ったと仮定すると、2895万×500円=144億7,500万円で、約145億円です。実際は、金券の代わりに基金への寄付を選べるため、この金額はあくまで上限の目安です。件数は人数ではなく件数なので、1人が複数の件に当たることもあり、正確な人数ではありません。

ベネッセは、用意した200億円の原資の一部で「ベネッセこども基金」を設立し、経済的な理由などを抱える子どもたちへの学習支援に使うと発表しました。500円の金券は、この基金への寄付に充てることも選べました(ITmedia)。

個人情報の流出を知らせる連絡を受け取った経験はありますか?

  1. 何度かある
  2. 一度ある
  3. ない
  4. 覚えていない

📊 読者投票 受付中(現在0票)。あと5票で結果を公開します。

裁判では、慰謝料はいくらと判断されたのか

慰謝料の判断を示す裁判所の木槌の写真
Photo by Tingey Injury Law Firm on Unsplash

見舞金とは別に、流出した本人が会社を訴えて、慰謝料を求めた裁判があります。判断された金額は、見舞金と同じくらいか、それより低い水準です。

Yahoo! BBの裁判は、1人6,000円でした

2006年5月19日、大阪地方裁判所は、ソフトバンクBB(現BBテクノロジー)の元契約社員が不正にサーバーへ入って約1,100万件の個人情報を取得した事件で、BBテクノロジーに1人あたり6,000円の支払いを命じました。原告は会員ら5名で、1人10万円の慰謝料を求めていました。ヤフーに対しては、流出した情報を同社が管理していなかったことなどから、請求は棄却されました(Internet Watch)。

この裁判の金額は、資料によって5,000円と書かれているものもあります。私は報道で確認できた6,000円を使います。5,000円との差の理由は、今回は原典で確かめられませんでした。

ベネッセの裁判は、最高裁が差し戻しました

ベネッセの裁判では、原告の男性が慰謝料10万円を求めていました。立命館法学の判例研究によると、高裁は、不快感や不安を超える損害を受けたという主張や立証がないとして、請求を退けていました。2017年の最高裁判決は、この判断には法令の違反があるとして原判決を破棄し、ベネッセの過失の有無、精神的損害の有無と程度について、さらに審理を尽くすよう、高裁に差し戻しました。

差戻審の慰謝料は、1,000円でした

差し戻された大阪高等裁判所は、令和元年11月20日の判決で、ベネッセと、システムの運用を受託していた会社の責任を認め、慰謝料を1,000円としました。請求は10万円だったので、認められたのは請求額の100分の1です。裁判所はその理由として、従業員が故意に、本人の承諾もないまま個人情報を回収できないほどに流出させたことは、私生活の平穏を害する態様の侵害であり、精神的苦痛を慰謝するには1,000円が相当と判断しました(裁判所)。

請求額10万円に対して認められた金額が1,000円なので、1,000÷100,000=0.01、つまり100分の1です。金券の500円と比べると、認められた慰謝料は金券の2倍(1,000÷500)です。

私は、もっと高い金額だと思っていました。慰謝料は、流出した情報の種類や、その後の被害の有無などを総合して決まります。氏名・住所・電話番号のような情報では、金額が小さくなりやすいということです。

会社の決算では、見舞金より大きな支出が出ます

個人が受け取る金額が数百円から数千円でも、会社の支出はそれより大きくなります。決算の数字を見ると、見舞金は支出の一部だとわかります。

特別損失260億円の中身は、補償200億円と対策60億円です

ベネッセホールディングスは2014年7月31日に、2015年3月期の第1四半期決算を発表し、顧客情報漏えいに伴う特別損失として260億円を計上しました(ScanNetSecurity)。東洋経済によると、その内訳は顧客への補償費用が200億円、お詫び文書の発送や調査・情報セキュリティ対策にかかる費用が60億円です。この決算で、最終損益は136億円の赤字になり、東洋経済は「初めて赤字に転落した」と書いています。

1件あたりに直すと、補償費用と特別損失はいくらになるか

被害を受けた約2895万件で割ると、補償費用200億円は200億÷2895万=約691円、特別損失の260億円は260億÷2895万=約898円です。500円の金券を全員に配った場合の約145億円は、200億円の補償費用の中におさまる計算になります。

特別損失は、毎年ある損益とは分けて、そのときだけ出る損失として計上するものです。個人が受け取る見舞金に比べて、会社が負担する額が大きい理由は、見舞金のほかに、調査、再発防止、問い合わせ対応、お詫び文書の発送といった費用があるからです。

見舞金と慰謝料と特別損失の違いを表で比べる

ここまでの3つの言葉を、誰が決めて、誰に向けたお金なのかで整理します。数字は、ベネッセの事件で確かめたものです。

言葉 決める人 お金の向かう先 ベネッセの例
見舞金(お詫び) 会社 被害を受けた顧客 500円の金券、または基金への寄付
慰謝料 裁判所 訴えた本人 請求10万円のうち1,000円
特別損失 会社の決算 補償・調査・対策などの全体 260億円(補償200億円+対策60億円)
※出典:ITmedia、裁判所、東洋経済、ScanNetSecurity(2026年11月時点で確認)

自分の情報が流出したと連絡が来たら、確かめること

流出の連絡は、メールや手紙で届くことが多く、公表資料でも対象者への連絡方法が決まっています。

連絡は、会社が出す公式の案内で確かめます

Yahoo! BBの事件では、個人情報が漏えいした顧客にはメールで連絡し、対象かどうかは専用のサイトで確認できるとされました(Internet Watch)。ベネッセは、手紙を送ると発表しています。まず、届いた連絡が会社の公式サイトに載っている案内と一致しているかを見ます。

流出した情報が、その後どう悪用されるかも知っておく

流出した氏名や住所が、別の詐欺に使われることがあります。免許証が流出したときに、知らないうちに契約される仕組みを解説した記事に、情報の種類ごとの危険を書いています。

金券の期限や使い道は、案内の文面を確かめる

金券の種類や受け取り方は、会社ごとに違います。ベネッセの場合は、電子マネーギフトか図書カードで、基金への寄付も選べました。受け取る前に、案内に書かれた期限と使い道を確かめます。

見舞金の限界と、受け取る前に知っておく注意点

見舞金には、いくつか限界があります。

見舞金の金額は、損害を埋めるためのものではありません

500円は、流出したことへの謝罪の気持ちを示す金額です。実際に詐欺の被害を受けたときの損害を、この金額で埋めることはできません。被害が出たときは、別に相談します。

慰謝料を請求するかどうかは、費用との兼ね合いになります

ベネッセの裁判は、1,000円が認められるまでに、最高裁を経て、令和元年までかかっています。個人情報の流出で認められる金額は大きくないため、訴える費用と手間が、得られる金額を上回ることがあります。請求を考えるときは、弁護士や、自治体の法律相談などの窓口に、費用の見通しも含めて相談するのが確実です。

見舞金についてよくある誤解

見舞金をもらうと、慰謝料を請求できなくなりますか?

金券を受け取ったかどうかで、裁判を起こせなくなるという規定を、今回確かめた資料の中では見つけられませんでした。会社が出す案内に条件が書かれていることもあるため、受け取る前に案内の文面を確認します。

見舞金が500円なのは、会社がケチだからですか?

ベネッセの場合、500円という金額そのものより、200億円の補償原資と、260億円の特別損失という総額のほうが、会社の負担を表しています。200億÷2895万で1件あたりに直すと約691円で、金券より大きな金額です。金額の高い低いを決める基準が公表されていないため、500円が妥当かどうかは、この記事では判断できません。

裁判で勝てば、大きな金額がもらえますか?

ベネッセの裁判では、請求10万円に対し、認められたのは1,000円でした。Yahoo! BBの裁判も、請求10万円に対して6,000円です。個人情報の流出では、認められる金額が請求を大きく下回った例があります。

まとめ:見舞金・慰謝料・特別損失は、決める人が違うお金です

個人情報の流出で出てくるお金は、決める人で分けると整理できます。見舞金は会社が謝罪として決める金額で、ベネッセもYahoo! BBも500円でした。慰謝料は裁判所が認める金額で、ベネッセの差戻審では請求10万円に対して1,000円でした。特別損失は、会社が決算に載せる補償・調査・対策の合計で、ベネッセは260億円でした。

個人としては、連絡が届いたら公式の案内で内容を確かめ、金券の条件を確認するのが先です。被害が出たときや、請求を考えるときは、弁護士などの窓口に費用の見通しも含めて相談します。最新の事件の対応や金額は、各社の公式発表で確認してください。

今回は、ニュースで報じられた最近の流出事件そのものの金額や件数は、公式の発表を原典で確かめられなかったため、取り上げていません。過去に公表資料が残っている2つの事件で、仕組みを読みました。

この記事について 本記事は、個人情報の流出で出てくる見舞金・慰謝料・特別損失の違いを紹介する読み物で、個別の事案での請求の可否や金額についての法律上の助言をするものではありません。数字は2026年11月時点の公表資料によるものです。請求や手続きは、弁護士や自治体の法律相談などの窓口にご確認ください。

この記事の内容、読む前から知っていましたか?

  1. 知っていた
  2. なんとなく知っていた
  3. 初めて知った
  4. 誤解していた

📊 読者投票 受付中(現在0票)。あと5票で結果を公開します。

📚 参考文献・出典

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。