なぜカメムシは臭いのか|竜王戦に現れた虫の防御物質と、秋に家へ入ってくる理由

竜王戦の対局中にカメムシが出て、僧侶が捕まえた。そんな見出しが、11月に入ってニュースに出ていました。経緯の詳しい中身は、私は元の記事で確かめられていないので、この記事では触れません。確かめられたのは、カメムシの臭いそのものについてです。臭いの成分、なぜ出すのか、そして秋に家へ入ってくるのはなぜか。日本におい・かおり環境学会誌に載った野下浩二氏の解説と、千葉市保健所の資料を読んで整理しました。2026年11月時点の内容です。

  • カメムシの臭いは、体の分泌腺にためた不飽和アルデヒド類などの化学物質です
  • 臭いは敵を遠ざけるだけでなく、毒としても働くとされ、仲間への警報にもなります
  • 9〜11月は、交尾を終えたカメムシが越冬する場所を求めて集団で移動する時期です
  • カメムシの種類によって、臭いの成分も、臭いの感じ方も違います

カメムシの臭いは、体の分泌腺にためた化学物質です

葉の上にとまる茶色のカメムシ
Photo by Erik Karits on Unsplash

私は、臭いは体全体から出ている汗のようなものだと思っていました。資料を読むと、ためておく専用の器官があり、そこから放出する仕組みでした。

成分は不飽和アルデヒド類で、炭化水素に溶かされています

野下氏の解説によると、いわゆるカメムシ臭として知られる成分は、2-ヘキセナール、2-オクテナール、2-デセナールといったα,β-不飽和アルデヒドです。これらが還元されたアルコールなど、よく似た成分も分泌腺から見つかります。

分泌腺の中には、トリデカンなどの炭化水素が入っていることもあります。解説は、この炭化水素について、アルデヒドを溶かす溶媒の役割があるだけでなく、不飽和アルデヒドが敵を遠ざける力や毒性を高める役割もあると言われている、と書いています。同じ秋の臭いでも、ギンナンは酪酸とエナント酸という酸でした。成分の違いはギンナンの臭いの記事で書いています。

分泌腺の位置は、幼虫と成虫で違います

カメムシは、さなぎの時期を経ずに幼虫から成虫になる不完全変態の昆虫です。解説によると、多くの種で、幼虫の分泌腺は腹部の背中側にあり、成虫では胸の後ろの腹側、中脚と後脚の間にあります。幼虫の分泌腺は成虫では働かなくなり、脱皮殻に残ります。

このため、羽化すると臭いの成分も変わる例が知られています。解説は、羽のない幼虫と羽のある成虫では出会う捕食者の種類が違うので、成分の組成が違うと考えられている、と書いています。成虫になっても加齢で成分が変わる種があり、その理由は、まだよく分かっていないそうです。

臭いは追い払うだけでなく、毒としても働きます

臭いが嫌われるのは、敵にとっても同じです。ただ、資料を読むと、嫌な臭いでは済まない面がありました。

防御物質には、忌避型と毒性型があります

解説によると、防御物質には、敵が嫌がって遠ざかる忌避型と、敵に毒として働く毒性型があります。一般に、忌避型の揮発成分は、鳥などの哺乳類より捕食性の昆虫に効き、毒性型は、捕食性の昆虫より鳥などの哺乳類に効くと言われています。カメムシの臭いが嫌がられることは想像しやすい一方、瓶にカメムシを閉じ込めておくと自分の臭いで死んでしまうことがあるので、生き物に毒性を示す成分もあることがうかがえる、という説明です。

コオロギは麻痺し、カマキリは死にました

解説は、ヘリカメムシの一種 Thasus neocalifornicus の幼虫の臭いの成分で、実験をした例を紹介しています。成分の1つ、4-オキソ-2-ヘキセナール(OHE)をコオロギに作用させると、徐々に脱力して麻痺しました。0.8mg/Lを4時間では影響がなく、1.2、2.0、4.0mg/Lと濃度が上がるほど、麻痺するコオロギが増え、高濃度で長時間さらすと死ぬものも出ました。麻痺したコオロギを新鮮な空気の中に出しても、回復しませんでした。

0.8mg/Lから4.0mg/Lまでは、4.0÷0.8=5倍の濃度の範囲です。

OHEを塗ったコオロギをカマキリに与えると、ほとんどのカマキリが食べませんでした。食べてしまったカマキリは死んだそうです。同じように2-ヘキセナールだけを塗ったコオロギは、カマキリに食べられました。成分によって、効き方がかなり違います。

私は、カメムシの臭いは、人間にとっての嫌な臭いが全てだと思い込んでいました。相手を殺すことがある、という話は、読んで驚きました。ただし、この実験はアメリカ南西部の種の幼虫でのものです。日本で身近なカメムシが同じ成分を持つかどうかは、確かめた資料に書かれていません。

秋に家の中や洗濯物でカメムシを見かけたことはありますか?

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臭いは仲間への警報にもなります

臭いを出す目的は、敵に向けたものだけではありません。

集団が一斉に散るとき、青リンゴのような臭いが残ります

解説によると、カメムシの臭い成分は、性・集合・警報のフェロモンとして、同じ種の間の連絡にも使われます。研究例として挙げられているのが、オオツマキヘリカメムシです。この種はイタドリやギシギシなどタデ科の植物の上で集団をつくり、交尾中の雄と雌が集団に混じっています。手でいじると、青リンゴのような酸っぱい臭いを残して、集団が散らばることがあります。

臭いを抽出して別の成虫に嗅がせると、逃げ出しました

解説は、成虫をヘキサンに漬けて臭い成分を取り出し、生きた別の成虫に嗅がせると、反対向きに逃げる様子が見られた、と書いています。成虫の臭い成分の中に警報フェロモンがある、という結果です。臭いの成分には、ヘキサナールや、その近縁のヘキサノール、酢酸ヘキシルがあり、青リンゴのような良い香りを持つカメムシもいると説明されています。カメムシの臭いは、種によって、全部が悪臭というわけではないのです。

秋に家へ入ってくるのは、越冬する場所を探しているからです

若葉にとまる灰色のカメムシ
Photo by Jan Allbeck on Unsplash

臭いの仕組みが分かったところで、なぜ秋に家の壁や洗濯物にとまるのかを調べました。

千葉市は、4〜6月と9〜11月の集団飛行を挙げています

千葉市保健所の資料によると、カメムシは年に数回、天気が良くて暖かい日を選んで集団で飛ぶことがあります。この時に洗濯物や家の壁にとりつき、家の中に飛び込んで、悪臭が問題になります。時期は2つに分かれていて、4〜6月は、越冬したカメムシが餌になる植物を求めて飛び立つ時期、9〜11月は、交尾をしたカメムシが越冬する場所を求めて集団で移動する時期です。今の11月は、後者の終わりごろにあたります。

不快害虫として相談が多い種は、マルカメムシ、クサギカメムシ、スコットカメムシです。マルカメムシは、クズ、フジ、ハギなどのマメ科の雑草や農作物を餌にしています。餌は種類によって違い、樹液や草の汁を好む傾向があります。

なぜ家が選ばれるのかは、確かめた資料に書かれていません

資料は、越冬する場所を求めて移動することまでは書いていますが、家屋のどこが選ばれるのか、集まる理由が集合フェロモンなのかは、書いていませんでした。この記事でも、推測では書きません。冬を越す動物の仕組みは、クマの冬ごもりの記事やメダカが水底でじっとする記事のように、種類によってまったく違います。

見つけたときは、素手で触らず入ってくる道を減らします

臭いが出る仕組みを知ると、見つけたときの動き方も決めやすくなります。

千葉市の資料は、家の近くに雑草が多ければ刈り取って、カメムシの餌を減らすことを勧めています。雑草が茂っている面の窓は、閉め切るか防虫網をつけて、侵入を防ぎます。光に集まる習性を利用して、電撃殺虫器を置く方法も挙げています。死んだカメムシに触れても独特の臭いがつくので、素手では触らないようにとも書いています。

生きたカメムシは、手で触ると簡単に臭い成分を放出してしまうことがあると、野下氏の解説も書いています。触った刺激で臭いが出ることがあるので、見つけたときは、むやみに触らないほうが安全です。

死んだカメムシの臭いは、変わることもあります

解説には、死んで間もないカメムシの成分を調べた例が載っています。前に出たヘキサナールがほとんど見つからず、それが酸化されたヘキサン酸が多く見つかりました。著者は、生きているうちは、臭いの成分が酸化されにくい仕組みがあると考えている、と書いています。千葉市は死んだものにも臭いがつくと書いているので、死後にどれだけ臭いが残るかは、種や状態で違う可能性があります。

カメムシの臭いに関するよくある誤解

臭いは、人を狙って出しているのでしょうか

解説は、カメムシの臭いは防御物質として働くとよく言われる、と書いています。効果が説明されている相手は、カマキリのような捕食性の昆虫や、鳥などの哺乳類です。

カメムシは、全部が悪臭を出すのでしょうか

全部ではありません。解説によると、ヘキサナールやその近縁の成分を持ち、青リンゴのような良い香りのカメムシもいます。種や、幼虫か成虫かによって、成分は違います。

死んだカメムシは、臭わなくなるのでしょうか

解説は、死んだカメムシでは臭いがなくなってしまうこともあると書いています。一方で千葉市は、死んだカメムシに触れても独特の臭いがつくと書いています。どちらが当てはまるかは、種や死んでからの時間で変わると考えられます。

まとめ:カメムシの臭いは防御と連絡の化学物質で、秋は越冬場所を探して家に来ます

カメムシの臭いは、分泌腺にためた不飽和アルデヒド類などの化学物質です。敵を遠ざける働きに加えて、実験では、コオロギを麻痺させ、食べたカマキリを死なせる成分も確かめられています。仲間への警報にも使われ、種によっては青リンゴのような香りもあります。

9〜11月は、交尾を終えたカメムシが越冬する場所を求めて集団で移動する時期です。家に入られたくないなら、雑草を刈り、雑草の茂る側の窓を閉めるか防虫網をつけます。見つけたら素手で触らず、刺激を与えないようにします。竜王戦の見出しがきっかけでしたが、調べてみると、臭いは防御から警報、毒まで、1つで何役もこなす成分でした。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。