「確定申告って、自分には関係ないと思っていた」——そういう人が、実は損をしていることがあります。
会社員であれば年末調整を会社がやってくれるから、確定申告は「フリーランスや自営業の人がやること」というイメージが根強くあります。でも実は、会社員でも確定申告すると税金が戻ってくるケースが意外と多いのです。医療費が年間10万円を超えた、年の途中で転職した、副業で20万円を超えた……こうした場面で確定申告を知らずに過ごすと、本来取り戻せたはずの税金を国に渡したままになります。
怖いのは「難しそう」というイメージです。でも仕組みさえ理解すれば、確定申告は非常にシンプルな手続きです。言いかえれば、確定申告とは「1年間に自分が稼いだお金の合計を国に報告して、払いすぎた税金は取り戻し、足りなければ追加で払う手続き」です。それだけのことです。
- 確定申告とは何か、年末調整とどう違うのか
- 誰が確定申告しなければならないのか
- 所得税はどうやって計算されるのか
- 確定申告で取り戻せる控除と還付金の仕組み
- e-Taxの使い方と2026年の変更点
確定申告とは何か?「税の精算」をひとことで言うと
日本の所得税は「申告納税方式」をとっています。つまり、「あなた自身が税額を計算して国に申告する」のが原則です。ただし、会社員については会社が代わりに計算してくれる「年末調整」という仕組みがあり、多くの人は年末調整だけで完結します。
年末調整は「会社が代行する簡易申告」
会社員の場合、毎月の給与から源泉徴収税が天引きされます。源泉徴収はあくまで「概算」で徴収する仮払いです。年末に「実際の年収・控除」が確定したら、過不足を精算するのが年末調整です。会社が書類を集めて精算まで代行してくれるため、多くの会社員は確定申告をする必要がありません。
確定申告は「年末調整でカバーできない場合」に使う
年末調整では対応できない控除や収入がある場合に確定申告が必要です。言いかえれば、年末調整は「給与だけの人向けの簡易版」で、確定申告は「全ての所得・控除を正確に計算する完全版」です。
2026年(令和8年)の確定申告対象期間は、2025年1月1日〜12月31日の1年間の所得です。申告期間は2026年2月16日(月)〜3月16日(月)、e-Taxでは2026年1月5日から受付が始まっています。
誰が確定申告しなければならないのか
| ケース | 対象者 | 申告の目的 |
|---|---|---|
| 申告義務あり | 個人事業主・フリーランス、給与収入2,000万円超の人、副業収入年20万円超の会社員 | 税額を正確に計算・納付 |
| 申告した方が得 | 医療費が年10万円超、住宅ローンを組んだ初年度、寄附金控除(ふるさと納税)、年の途中で退職した | 払いすぎた税金の還付を受ける |
| 不要 | 給与所得のみで年末調整済み、副業収入が年20万円以下の会社員 | — |
| ※ 副業収入が20万円以下でも住民税の申告は市区町村が必要とする場合がある。 | ||
「副業20万円以下は申告不要」の例外に注意
会社員の副業収入が年20万円以下の場合、所得税の確定申告は不要です。しかし医療費控除や住宅ローン控除など確定申告が必要な別の理由がある場合は、副業収入も合わせて申告しなければなりません。「20万円以下だから大丈夫」と思って医療費控除だけを申告しようとすると、実は副業収入も申告対象になっているケースがあります。
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所得税はどうやって計算されるのか
確定申告の本質は「所得税額の計算」です。計算の流れをシンプルに理解しましょう。
所得税の計算フロー
給与・副業・不動産など全所得
基礎・給与・社会保険料・医療費など
税率(5〜45%)を掛ける
復興特別所得税(2.1%)を加算
所得税は「超過累進課税」——収入が増えるほど税率が上がる
日本の所得税は課税所得に応じて5〜45%の7段階の税率が適用されます(超過累進課税方式)。たとえば課税所得200万円なら10%、500万円なら20%(500万円全体に20%ではなく、各区分に対してそれぞれの率が適用)。これが「収入が増えると税率が上がる」と言われる理由です。
控除が「節税の鍵」になる
社会保険料(健康保険・厚生年金など)は全額控除され、課税所得から引かれます。2026年の基礎控除は合計所得金額によって変化し(2,400万円以下は48万円→引き上げ議論が続いています)、給与所得控除の最低保障額は65万円に引き上げられました。
確定申告で取り戻せる控除はこれだけある
「申告すれば税金が戻ってくる」ケースの主な控除を確認しましょう。あなたの状況に当てはまるものはありませんか?
医療費控除(年10万円超で使える)
1月〜12月の医療費の合計が年10万円(総所得の5%のいずれか少ない方)を超えた分を控除できます。病院の窓口負担・薬代・通院交通費が対象です。美容整形・健康診断(病気が見つかった場合は対象)・市販のサプリは原則対象外。医療費控除の詳しい仕組みについては別記事で解説しています。
住宅ローン控除(初年度は確定申告が必須)
住宅ローンを組んで家を購入した場合、最大13年間にわたって年末のローン残高の0.7%を所得税から控除できます。2年目以降は年末調整で処理できますが、初年度だけは必ず確定申告が必要です。
ふるさと納税のワンストップ特例との違い
ふるさと納税は「ワンストップ特例制度」を使えば確定申告不要ですが、6自治体以上に寄附した場合・別途確定申告が必要な場合はワンストップ特例が無効になります。その場合は確定申告で寄附金控除を申告しなければなりません。
🎣 実用シーン:確定申告で戻ってくる「還付金」の使い道
確定申告の結果、払いすぎた税金があれば還付金として口座に振り込まれます。e-Tax申告なら申告後約3週間で振り込み、書面申告なら1〜2か月かかります。たとえば年収500万円の会社員が医療費を年15万円払った場合、所得税の還付は(15万−10万)×20%=約1万円(復興特別所得税含む)が目安です。少額に見えますが、複数の控除を組み合わせると数万〜十数万円の還付になるケースも珍しくありません。
e-Taxはどうやって動くのか——申告の手順
e-Taxは国税庁が運営するインターネット申告システムです。自宅にいながら24時間いつでも申告でき、還付金の処理も書面より大幅に速くなります。
マイナンバーカード方式が最も手軽
スマートフォン(Android/iOS)にマイナポータルアプリをインストールし、マイナンバーカードをかざして本人認証。その後、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」から申告書を作成→e-Tax送信、という流れです。源泉徴収票のXMLデータを使えば、入力の手間がほとんどなくなります。
「医療費」のデータ自動連携
2026年時点では、マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)が普及し、医療費の自動取り込み機能が改善されています。マイナポータルから医療費データを連携すれば、手動でレシートを集計する手間が大幅に省けます。
📅 2026年(令和8年)の確定申告の変更点
2026年の確定申告には、従来と異なるポイントがあります。
給与所得控除・基礎控除の見直し
2025年分(令和7年分)から給与所得控除の最低保障額が55万円→65万円に引き上げられました。また基礎控除も合計所得金額による段階設定が細かく調整されています。これにより、中低所得層を中心に課税所得が減少し、税負担が軽くなっています。
扶養親族の所得要件が緩和
2026年分から、扶養控除の適用要件が合計所得62万円以下(給与収入のみの場合136万円以下)に変更されます。パートや短時間労働の扶養家族を持つ世帯には、実質的な減税になります。
💡 意外な切り口:日本の確定申告は「戦後の民主主義的税制」の産物
日本が現在の「申告納税方式」を採用したのは1947年(昭和22年)の税制改革からです。戦前は官僚が税額を決める「賦課課税方式」が主流でした。シャウプ勧告(1949年)以降、「国民が自ら計算して申告する」民主的な税制が確立されました。現在の確定申告制度は、この70年以上前の設計思想を継承しています。日本全体の所得税収は年間約20兆円規模で、確定申告によって徴収される分も毎年数兆円を占めます。
確定申告のデメリットと注意点
確定申告には手間とリスクも伴います。事前に把握しておきましょう。
①記入ミスや申告漏れにはペナルティがある
期限内に申告しないと「無申告加算税」(15〜20%)が課されます。申告はしたが内容に誤りがあって後から指摘された場合は「過少申告加算税」(10〜15%)が加算されます。故意の隠蔽は重加算税(35〜40%)の対象です。ただし、申告ミスを自分で発見して「修正申告」すれば加算税は発生しません(調査前に自主修正した場合)。
②領収書・書類の保管義務がある
確定申告に使った書類は最低5年間の保管義務があります(個人事業主は7年)。医療費領収書・源泉徴収票・控除証明書などをスキャンしてデジタル保存しておくことを推奨します。
③副業を会社に知られる可能性
副業収入の確定申告をすると、住民税の計算が変わります。「普通徴収(自分で払う)」を選ばないと、住民税が会社の給与天引き(特別徴収)に含まれ、会社に副業収入の存在が示唆されることがあります。確定申告書の「住民税・事業税に関する事項」欄で「自分で納付(普通徴収)」を選択することが副業バレを防ぐポイントです。
よくある誤解3選
誤解①「確定申告は難しい手続きで、専門家でないとできない」
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」は質問に答えるだけで申告書が自動生成されます。会社員が医療費控除のために申告する程度であれば、数十分〜1時間でe-Taxによる申告が完結します。税理士への依頼が必要なのは、複雑な事業所得・不動産所得・相続・法人関係がからむケースです。
誤解②「確定申告は2月16日から3月16日の間しかできない」
e-Taxでは1月5日から申告書の送信が可能です。還付申告(税金が戻るケース)は、翌年1月1日から5年間いつでも申告できます。給与所得者で2年前の医療費控除を申告し忘れていた場合でも、5年以内なら申告して還付を受けられます。
誤解③「会社員は絶対に確定申告する必要はない」
年末調整で完結する会社員でも、「住宅ローン控除の初年度」「医療費控除」「寄附金控除(ふるさと納税を6自治体以上)」「株・FXの確定損失」などでは確定申告が必要かつ有利になります。「自分には関係ない」と決めつける前に、自分のケースを確認してみてください。
まとめ——確定申告の仕組みを知れば「損しない選択」ができる
確定申告は「1年間の所得を正確に計算して国に申告し、払いすぎた税金は取り戻す」というシンプルな仕組みです。年末調整はその簡易版であり、すべてをカバーしてはいません。
- 申告義務:個人事業主・副業年20万超・給与2,000万超
- 還付チャンス:医療費10万超・住宅ローン初年度・ふるさと納税6自治体以上
- 申告期間:2026年2月16日〜3月16日(e-Taxは1月5日から)
- 還付金振込:e-Taxなら申告後約3週間、書面は1〜2か月
- 2026年変更点:給与所得控除最低保障65万円・扶養控除の所得要件緩和
- 「難しそう」は昔の話。国税庁のe-Taxは質問に答えるだけで申告書が完成する
2026年8月時点の情報に基づいていますが、税法・控除額は改正される場合があります。最新の情報は国税庁公式サイト(nta.go.jp)でご確認ください。
📚 参考文献・出典
- ・国税庁「確定申告書等作成コーナー」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/index.htm
- ・国税庁「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」 https://www.e-tax.nta.go.jp/
- ・財務省「令和8年度税制改正の大綱」 https://www.mof.go.jp/
- ・国税庁「所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
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