トタンは傷がついても錆びにくいのはなぜか|亜鉛めっきの犠牲防食と鉄との電位の差を資料で確かめる

トタンの屋根や物置は、角がこすれて下の鉄が見えていても、すぐには赤く錆びません。表面の亜鉛が鉄より先に溶けて、露出した鉄を守っているからです。この働きを犠牲防食と呼びます。

私は新潟で育ったので、トタンの物置や小屋は見慣れた景色でした。ただ、なぜ傷があっても長持ちするのかを考えたことはありませんでした。この記事では、大阪産業技術研究所(ORIST)の技術シートと日本製鉄の資料を中心に、鉄と亜鉛の電位の差から仕組みを確かめます。

  • トタンは鉄板に亜鉛をめっきしたもので、傷で鉄が出ても亜鉛が先に溶けて鉄を守る
  • 鉄と亜鉛では、海水中の腐食電位に0.42Vの差がある
  • ブリキ(スズめっき)は逆で、傷から鉄が先に錆びる
  • 亜鉛にも苦手な環境があり、pH6〜12の外や60℃付近では腐食が速くなる
目次

トタンが傷でも錆びにくいのは亜鉛が鉄より先に溶けるからです

トタンは、鉄の板に亜鉛をめっきしたものです。九州電化(めっき加工会社)の解説では、鉄素地の上に亜鉛めっきをしたものがトタンと呼ばれています。亜鉛めっきに傷がついて鉄が見えても、亜鉛が優先的に腐食されることで、鉄は腐食から守られます。

犠牲防食とは、鉄より溶けやすい金属を先に溶かす方法です

犠牲防食は、守りたい金属よりもイオン化傾向の大きな金属をめっきして、素地を保護する方法です。九州電化の説明では、トタンがその代表例とされています。守られる鉄の側から見ると、亜鉛が自分を減らしながら守ってくれる形です。

大事なのは、亜鉛が鉄の表面を覆うだけでなく、傷で覆いが破れた後も働き続ける点です。傷の周りの亜鉛が溶けることで、露出した鉄が錆びる反応を抑えます。

鉄が錆びる反応は、使い捨てカイロの熱と同じ種類の反応です

鉄が錆びるのは、鉄が酸素や水と反応して酸化する変化です。使い捨てカイロも、鉄粉が酸素や水と反応するときの熱を使っています。カイロでは反応を速めたいので鉄粉を細かくしていますが、トタンでは同じ反応をできるだけ遅らせたいわけです。

トタンの亜鉛は、この反応を鉄の代わりに引き受けます。亜鉛が先に酸化されるので、その間は鉄の酸化が進みません。

鉄と亜鉛の電位の差が、どちらが先に溶けるかを決めます

どちらの金属が先に溶けるかは、電位で決まります。電位が低い(卑な)金属ほど、電子を手放して溶けやすくなります。名古屋工業大学の講義資料には、標準電極電位の一覧が載っています。

標準電極電位の表で、鉄と亜鉛を並べてみます

金属 標準電極電位(V) 鉄と比べると
アルミニウム Al -1.66 鉄より低い(溶けやすい)
亜鉛 Zn -0.76 鉄より低い(溶けやすい)
鉄 Fe -0.44 基準
銅 Cu 0.34 鉄より高い(溶けにくい)
※名古屋工業大学の腐食に関する講義資料の表から抜粋。標準水素電極(SHE)を基準にした値。

表の値から、亜鉛は鉄より0.32V低い位置にあります(-0.76-(-0.44)=-0.32)。亜鉛と鉄が同じ水膜でつながると、電位の低い亜鉛が先にイオンになって溶け出します。

海水中の腐食電位でも、亜鉛のほうが低くなります

ORIST の技術シートは、実際の水中に近い値を載せています。海水中の腐食電位(飽和カロメル電極 SCE 基準)は、鉄が-0.65V、亜鉛が-1.07Vです。

傷がついたトタンで起きていること

1. 傷で鉄が露出
周りは亜鉛のまま
→
2. 雨水の膜でつながる
亜鉛と鉄が電気的に接続
→
3. 亜鉛が先に溶ける
鉄は赤さびが出にくい

差は-0.65-(-1.07)=0.42Vです。乾電池1本の電圧を1.5Vとすると、0.42÷1.5=0.28で、その3割に届きません。

0.42V。乾電池の3割にも届かない差で、鉄が錆びるかどうかが分かれるのかと、数字を並べて少し驚きました。電圧としては小さくても、亜鉛が先に溶ける向きを決めるには足ります。ORIST は、鉄素地に届くピンホールや引っかき傷があっても、鉄より卑な電位を示す亜鉛がアノードとして溶解し、鉄はカソードとなって陰極防食されると説明しています。

身近にトタンの屋根や物置、亜鉛めっきの金具はありますか?

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溶融亜鉛めっきは、溶かした亜鉛に鋼材を浸して作ります

トタンのように厚い亜鉛皮膜をつける代表的な方法が、溶融亜鉛めっきです。日建連(日本建設業連合会)の鉄骨工事Q&Aでは、高温で溶かした亜鉛に鋼材を浸し、表面に亜鉛皮膜(合金層)をつくる技術と説明されています。建築の現場では「どぶ漬け」とも呼ばれます(Panasonic の電設資材向け用語集に載る職人用語です)。

道路脇のガードレールのビームにも、この溶融亜鉛めっきが使われています。

覆って守る働きと、傷を守る働きの二つがあります

日建連のQ&Aによると、溶融亜鉛めっきは、さびを防ぐ保護被膜の作用と、鉄の腐食を防ぐ犠牲防食作用の二つで錆を防ぎます。合金層ができるため密着性がよく、剥がれにくく、耐きず性も高いとされています。

日本製鉄の資料では、溶融めっき被覆は表面の純亜鉛層と、鉄と亜鉛の合金層からできており、両者の腐食速度はおおむね同じ程度です。

膜厚が厚いほど、赤さびが出るまで長く持ちます

ORIST の技術シートには、塩水噴霧試験で赤さびが出るまでの時間が、亜鉛めっきの膜厚にほぼ比例して増えると書かれています。

比例とみなすと、膜厚が2倍なら赤さびが出るまでの時間もおよそ2倍が目安です。これは比例関係を読み替えた計算で、実際の環境での保証値ではありません。

同じシートでは、亜鉛-鉄、亜鉛-ニッケルの合金めっきが、亜鉛めっきの約3倍の防食性能を持つとされています。合金めっきは電位が鉄より低く亜鉛より高いので、犠牲防食の作用が亜鉛よりも緩やかで、皮膜の溶ける速度が小さくなると説明されています。

ブリキはトタンと逆で、傷から鉄が先に錆びます

同じ鉄板にめっきをしたものでも、スズをめっきしたブリキは傷への強さが逆になります。九州電化の解説では、スズは鉄よりイオン化傾向が小さく錆びにくい金属です。ところが鉄素地が露出すると、トタンとは逆に、鉄素地の腐食が優先的に起こってしまいます。

スズは鉄より錆びにくいので、覆っている間だけ守ります

ブリキは、スズをめっきした鉄板です。缶詰などの缶に広く使われ、現在は帯状の鋼板を連続的に電気めっきする方法がほとんどだと、百科事典マイペディアに載っています。

全面を覆っている間はスズが鉄を守ります。傷でスズが破れて鉄が出ると、鉄のほうが先に腐食します。トタンでは傷が亜鉛に助けられ、ブリキでは傷が弱点になります。

屋外では、亜鉛が先に溶ける効果は思ったほど広がりません

ここまで読むと、傷の周りは亜鉛がいつまでも守ってくれるように思えます。私もそう思って資料を探しました。ところが日本製鉄の亜鉛めっき鋼管の資料には、少し違う説明がありました。

屋外では、亜鉛が先に溶ける効果は思ったほど広がりません
Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

大気中では、水の膜(電解質)が連続していない場合に犠牲防食の及ぶ範囲が狭まります。さらに、亜鉛の表面に腐食生成物の皮膜ができると、亜鉛が犠牲になって溶け出す量も抑えられます。そのため日本製鉄の資料は、大気中では犠牲陽極効果はあまり期待できないと書いています。

水膜がつながる範囲でだけ、亜鉛は鉄を守ります

犠牲防食は、亜鉛と鉄が水でつながっている範囲で働きます。乾いていれば電流は流れません。傷の大きさと守られる範囲の関係を示す数字は、今回開いた資料にはありませんでした。

実際に守っているのは、亜鉛の表面にできる皮膜でもあります

日本製鉄の資料では、亜鉛を大気中にさらすと表面に腐食生成物の皮膜ができ、その皮膜の耐食性、緻密さ、定着度で耐用年数が決まると説明されています。耐用年数は環境によって違うため、一概に何年とは言えないとも書かれています。

私は、トタンの傷は亜鉛がいつまでも守ってくれるものだと思っていました。実際には、傷の周りの限られた範囲を水膜と皮膜が守っていて、傷が広がれば鉄は錆びます。間違っていたのは亜鉛の働きではなく、守られる範囲の想像でした。

亜鉛めっきが苦手な環境と、使うときの注意点

亜鉛はどんな環境でも強いわけではありません。日本製鉄の資料には、亜鉛めっき鋼管が使いにくい条件がまとまっています。

環境 亜鉛めっきで起きること
pH6〜12の水 常温で有効な耐食性を示す
pH6より酸性 水素の発生を伴って著しく侵される
pH12.5以上 溶解性の亜鉛酸塩ができて急速に侵される
温水 50℃以下で有効、60℃付近から急激に腐食される
※日本製鉄「亜鉛めっき鋼管の腐食」より。

高温の温水では、亜鉛と鉄の電位の上下が入れ替わることがあります

日本製鉄の資料には、多量の空気を含む温水(約60℃以上)で、炭酸塩や硝酸塩を含む水質の場合、亜鉛と鉄の極性が逆転すると書かれています。亜鉛が犠牲陽極にならず、鉄より貴な電位になるため、めっきの下の鉄が孔食を起こすことがあります。同じ資料は、温水配管に亜鉛めっき鋼管を使うことを好ましくないとしています。

酸性の土や、塩類の多い水では使いにくくなります

土中の腐食は、土壌の比抵抗、pH、バクテリア、水分、通気性、塩類濃度などで決まります。日本製鉄は、pH6以下の酸性土壌で亜鉛めっき鋼管を使うことを避けるべきとしており、地中に埋める配管にはそのまま使わず、外面を樹脂で被覆した鋼管を勧めています。

また、土中や水中の塩類(塩化物、硫酸塩、硝酸塩)や炭酸の濃度が高いと、腐食生成物の保護作用が消えて腐食速度が大きくなります。井戸水には炭酸が多く含まれるものがあり、亜鉛が溶け出して水が白く濁ることがあると、同じ資料に書かれています。

雪の多い地域では、冬に亜鉛への負担が増えます

10月の終わりは、雪の多い地域が冬を意識し始める時期です。私の実家がある新潟県長岡市も、雪の多い地域です。

雪の多い地域では、冬に亜鉛への負担が増えます
Photo by Erik Mclean on Unsplash

ORIST の技術シートは、亜鉛めっきが締結部品や自動車部品、建築用金具に広く使われてきた一方で、寒冷地での凍結防止剤の散布や雨水の酸性化、自動車の軽量化のための薄肉化が進んだと書いています。その結果、より薄い皮膜でより高い防食性能が求められ、亜鉛-ニッケルや亜鉛-鉄の合金めっきが開発されました。

凍結防止剤と亜鉛の関係は、今回の資料では数字で確かめられませんでした

凍結防止剤の成分が亜鉛をどのくらい減らすのかという数字は、今回開いた資料には載っていませんでした。ここでは、散布が進んだことで防食性能への要求が高まったという記述までを、確かめた事実として書きます。

トタンの先にあるアルミ入りのめっき鋼板

亜鉛だけのめっきには限界があるため、アルミニウムを加えためっき鋼板が作られています。

ガルバリウム鋼板は、アルミニウムと亜鉛の合金めっきです

日本製鉄のガルバリウム鋼板のページによると、めっき金属の組成はAl55%、Zn43.4%、Si1.6%です。アルミニウムの長期耐久性と耐熱性に、亜鉛の犠牲防食効果を併せ持つ鋼板で、日本では日本製鉄が他社に先駆けて製造販売している、と説明されています。

高耐食めっき鋼板の保証は、条件つきです

日本製鉄は2022年6月に、高耐食めっき鋼板「ZEXEED」の30年間の耐用年数保証を始めました。同社の試験では、同じめっき付着量の平面部で、溶融亜鉛めっき鋼板の約10倍、同社の従来の高耐食めっき鋼板の約2倍の耐食性があるとされています。

保証の対象は、腐食による穴あきで、めっき付着量が両面300g/㎡の商品です。腐食環境の分類(ISO9223)のC1からC5の環境で使われた製品が対象で、すべてのZEXEEDに保証が付くわけではありません。数字はメーカー自社の試験結果であることも踏まえて読む必要があります。

亜鉛めっきに関するよくある誤解

亜鉛めっきなら、傷があっても絶対に錆びませんか

いいえ。Panasonic の用語集は、亜鉛めっきは一般の鋼材より腐食に強いものの、完璧に腐食しないわけではないと注意しています。作業中に傷をつけると、そこから腐食することもあるため、補修が必要です。

トタンもブリキも、鉄板にめっきしたものなら傷への強さは同じですか

同じではありません。トタンは亜鉛が先に腐食して鉄を守りますが、ブリキは鉄素地が露出すると鉄の腐食が優先的に起こります。

亜鉛めっき鋼管は、どこにでもそのまま使えますか

使えません。日本製鉄の資料によると、pH6以下の酸性土壌や、約60℃以上の温水配管には向きません。地中に埋める配管にも、そのまま使うことは避けるべきとされています。

傷や穴を見つけたときの判断の目安

ここまでの内容を、判断の目安として整理します。確かめた事実に基づく考え方で、個別の施工や補修は製造元や施工業者に確認してください。

状況 考え方
トタンの小さな傷 周りの亜鉛が先に溶けて鉄を守るが、守られる範囲は限られる。傷が広がる前に補修する
亜鉛めっき品に穴をあけた 穴からの錆や腐食を防ぐため、スプレータイプや塗装タイプの亜鉛めっきで処理する(Panasonic)
ブリキの缶の傷 傷から鉄が先に錆びる。傷を広げないよう注意する
温水や酸性の土に触れる場所 亜鉛めっき鋼管のままでは向かない。別の材料や被覆を検討する

穴をあけたら、その場所を補修してから使います

Panasonic の用語集は、亜鉛めっきした材料に穴をあけて加工した場合、その穴の場所から錆や腐食が出ないよう、スプレータイプや塗装タイプの亜鉛めっきでしっかり処理すると書いています。また、施工する場所の環境を見て、流通している通常の亜鉛めっきでよいか、オーダーメイド品を使うか判断する必要があるとしています。

まとめ:トタンの傷は、亜鉛が先に溶けることを前提に見ます

トタンの傷が錆びにくいのは、鉄より電位の低い亜鉛が先に溶けて、鉄を守るからです。海水中の腐食電位では、鉄が-0.65V、亜鉛が-1.07Vで、0.42Vの差があります。

ブリキは逆で、傷から鉄が先に錆びます。トタンの亜鉛も万能ではなく、大気中では守る範囲が限られ、pH6〜12の外の水や約60℃以上の温水では腐食が速くなります。

身の回りのトタンや亜鉛めっきの金具を見るときは、傷そのものより、傷の周りに亜鉛が残っているか、水が溜まる場所か、酸性や温水に触れていないかを見るのが目安です。ガルバリウム鋼板のようなアルミ入りのめっき鋼板は、亜鉛だけの鋼板より耐久性を高めたものとして作られています。最新の仕様や保証条件は各社の公式ページで確認してください。2026年10月時点の情報です。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。