「シニアの旅行離れが加速している」――今朝、そんな見出しのニュースがヤフーコメントで大きく伸びていました。私は正直、意外でした。祖父母の世代こそ、時間もお金の余裕もあって旅行に行きやすいのでは、と思い込んでいたからです。ところが観光庁の「令和7年版観光白書」を開いてみると、70代以上の国内宿泊旅行経験率はこの10年でほぼ半減していました。しかも「もう旅行には興味がない」という単純な話ではなく、むしろ旅行を「一番大切な趣味」と答える割合はシニアの方が高いという、ねじれた現実がありました。この記事では、公式統計をもとに「なぜ旅行に行けなくなるのか」という仕組みを追っていきます。
- 70代以上の宿泊旅行経験率は2014年38.6%→2024年30.7%まで低下
- 全体では旅行「0回」と「5回以上」が両方増える二極化だが70代以上は一方的に減少
- 旅行をしない理由は20〜60代の「休暇・家計」から70代以上の「健康上の理由」へ変わる
- 「旅行が一番大切な趣味」と答えた割合は70代が32.9%で全世代トップ
- 1 シニアの宿泊旅行経験率は10年でここまで下がった
- 2 なぜ旅行をしない理由は「休暇がない」から「健康上の理由」に変わるのか
- 3 なぜ「行かない人」と「たくさん行く人」が同時に増えるのか|二極化の仕組み
- 4 実は「旅行が一番大切な趣味」なのはシニアの方だった
- 5 体力の衰えは旅行のどこを難しくするのか|宿泊施設のバリアフリー化の遅れ
- 6 シニアが本当に求めている旅行とは|温泉と家族の親睦
- 7 旅行業界や地域はどう動いているのか|ユニバーサルツーリズムの仕組み
- 8 よくある誤解
- 9 デメリット・注意点|シニア旅行を計画するときに気をつけたいこと
- 10 選び方・判断基準|家族や本人はどう旅行を選べばいいか
- 11 まとめ:シニアの旅行離れが加速する理由
シニアの宿泊旅行経験率は10年でここまで下がった
結論から確認します。観光庁「令和7年版観光白書」によると、2024年の国内宿泊旅行経験率は20代以下が64.0%、30〜40代が54.1%、50〜60代が47.3%なのに対し、70代以上は30.7%にとどまります。若い世代の2分の1以下です。
観光庁「令和7年版観光白書」が示す数字
しかも70代以上は元々そこまで低かったわけではありません。2014年の時点では38.6%あった経験率が、2024年には30.7%まで下がっています。
計算:38.6%→30.7%で7.9ポイントの低下。7.9÷38.6×100≒20.5%減。つまり10年で「5人に1人」の割合で旅行経験者が減った計算になります。
若い世代との差はむしろ広がっている
一方で20代以下の経験率は2014年62.8%から2024年64.0%へとわずかに伸びています。つまり若い世代は横ばいか微増、70代以上だけが下がっている構図です。
計算:世代間の差は2014年が62.8%−38.6%=24.2ポイント、2024年が64.0%−30.7%=33.3ポイント。10年で9.1ポイント広がった計算です。
| 年代 | 2014年 | 2024年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 20代以下 | 62.8% | 64.0% | +1.2pt |
| 30〜40代 | 55.1% | 54.1% | -1.0pt |
| 50〜60代 | 48.8% | 47.3% | -1.5pt |
| 70代以上 | 38.6% | 30.7% | -7.9pt |
| 出典:観光庁「令和7年版観光白書について(概要版)」図表Ⅰ-48 | |||
なぜ旅行をしない理由は「休暇がない」から「健康上の理由」に変わるのか
年代によって旅行をしない理由はまったく違います。観光白書はこの点をはっきり示していて、「宿泊旅行実施の主なハードルは、20〜60代では休暇がとれないことや家計制約、70代以上では健康上の理由等」とまとめています。
20〜60代のハードルは休暇と家計
現役世代にとっての壁は、突き詰めれば「調整できるもの」です。休暇は会社と交渉すれば取れるかもしれませんし、家計も貯金や計画次第でなんとかなる場合があります。つまり本人の努力や工夫の余地が残っている壁です。
70代以上で最多になる「健康上の理由」
ところが70代以上になると、最大のハードルは「健康上の理由」に置き換わります。これは休暇や貯金のように、本人の意思だけではどうにもならないタイプの壁です。私は身近な70代の知人が「行きたい旅館はあるのに、長時間座っているのがつらくて新幹線を諦めた」と話していたのを思い出しました。旅行したい気持ちがあっても、体がそれを許してくれないという状態です。
この体力面の負担は、家族が担う介護保険の仕組みが支える「要介護認定」の対象になる状態とも重なってきます。旅行の壁と介護の壁は、実は同じ「加齢による身体機能の変化」という根っこでつながっているわけです。
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なぜ「行かない人」と「たくさん行く人」が同時に増えるのか|二極化の仕組み
観光白書は、国内旅行全体の傾向を「二極化」と表現しています。年間の宿泊旅行回数で見ると、「0回」の人と「5回以上」の人がどちらも増えているのです。ただし、70代以上だけはこの二極化のパターンに当てはまりません。
全体では二極化、しかし70代以上は一方的に減っている
2014年から2024年にかけて、全体では「0回」が46.8%→50.6%に増え、「5回以上」も5.3%→7.6%に増えています。旅行に行かない人と行きまくる人の両方が増えているわけです。ところが70代以上では「0回」が58.2%→69.3%に増える一方、「5回以上」は5.5%→3.6%に減っています。増えているのは「行かない」側だけです。
計算:全体の「0回」増加幅は50.6−46.8=3.8ポイント。70代以上の増加幅は69.3−58.2=11.1ポイント。11.1÷3.8≒2.9倍。つまり「旅行をやめる」動きは、70代以上に約3倍集中して起きている計算になります。
旅行に行ける人と行けない人を分ける「しきい値」
私はこの数字を見て、旅行の壁は坂道のようになだらかに現れるのではなく、階段の段差のように、ある地点を境に急に立ちはだかるのではないかと感じました。健康上の理由は「ちょっと不安だから減らそう」という調整弁ではなく、「行ける」か「行けない」かをはっきり分ける、しきい値に近い性質を持っているのかもしれません。だからこそ70代以上では、日帰りや軽い旅行への移行ではなく、「0回」への集中という形で表れるのだと思います。
実は「旅行が一番大切な趣味」なのはシニアの方だった
ここで白書のもう一つのデータを見ると、驚く結果が出てきます。旅行を「最も大切な趣味」と答えた割合は、10代17.9%、20代23.4%、30代18.9%、40代17.2%、50代16.1%、60代24.1%、70代32.9%でした。もっとも高いのは70代なのです。
私は最初、「シニアの旅行離れ」というくらいだから、旅行への関心自体が薄れているのだと思い込んでいました。ところが実際には、旅行を人生でいちばん大事な趣味だと考えている割合は70代がいちばん高い。行きたい気持ちはむしろ強いのに、体がそれについていかない――そういう構図だったわけです。
体力の衰えは旅行のどこを難しくするのか|宿泊施設のバリアフリー化の遅れ
「健康上の理由」というと漠然としていますが、実際に旅行の現場で何が壁になっているのでしょうか。国土交通省がホテル・旅館606施設を対象に行った調査(回答期間2017年10〜12月)を見ると、宿泊施設側の受け入れ体制にも課題が見えてきます。
車いす対応客室があるのはわずか12.9%
調査対象606施設のうち、「高齢者、障害者等の利用しやすい客室がある」と答えたのは12.9%(78施設)にとどまり、「ない」が82.7%(501施設)を占めました。
計算:100÷12.9≒7.75。つまり、車いすでも使いやすい客室があるのは約7.8軒に1軒という計算になります。宿泊先を選ぶ時点で、選択肢そのものが大きく絞られてしまう状況です。
共用部分は比較的整っていて、エントランスからフロントまで車いすで到達できるルートが「ある」施設は77.4%ありました。ところが車いす使用者が利用できるトイレが「ある」施設は54.3%にとどまり、「ない」が44.4%を占めます。入口までは行けても、その先で困る場面が残っているということです。
5年以内に整備予定がある施設は1割未満
さらに気になるのは今後の見通しです。同じ調査で「高齢者、障害者等の利用しやすい客室」について、今後5年以内の整備予定を聞いたところ、「整備予定はない」が86.1%を占めました。バリアフリー客室の稼働率は「不明」と答えた施設が35.9%と最も多く、需要がどれだけあるのか事業者側が把握できていない状況もうかがえます。
需要が見えにくいから投資が進まず、投資が進まないから利用実績も積み上がらない。この循環が、バリアフリー化がゆっくりとしか進まない構造的な理由になっているようです。似たような「見えづらい需要に応える設計」という点では、点字ブロックの仕組みにも通じるものがあります。
シニアが本当に求めている旅行とは|温泉と家族の親睦
それでも、シニア層の旅行への意欲そのものが低いわけではないことは、白書の別のデータからも読み取れます。「自由時間が増えた場合にしたいこと」を聞いた設問では、「旅行」が61.8%でトップでした。世代を問わず、多くの人が旅行を望んでいるのです。
「増やしたい旅行」トップは温泉
「過去と比べて増えた又は今後増やしたい宿泊旅行」の内容を見ると、温泉が全年代を通じてもっとも高い割合を集めています。白書は「高齢層は温泉や自然、家族の親睦等を志向」とまとめており、若年層が趣味のイベント参加や現地の人との交流を重視するのとは対照的です。
若い世代とは違う旅の目的
私の親戚にも、温泉宿に着いたらもうそこから一歩も動きたくないというタイプのシニアがいます。観光地を歩き回るタイプの旅行ではなく、移動や体力の負担が少ない場所でゆっくり過ごす旅行こそ、シニア層が求めているスタイルなのかもしれません。旅行会社側が「宿泊先そのものを目的地にする」商品を増やせるかどうかが、今後のカギになりそうです。
旅行業界や地域はどう動いているのか|ユニバーサルツーリズムの仕組み
観光庁は、高齢者や障害者が安心して旅行できる「ユニバーサルツーリズム」の推進を国内交流拡大の柱の一つに掲げています。
パーソナルバリアフリー基準とは
三重県のNPO法人・伊勢志摩バリアフリーツアーセンターは、利用者一人ひとりの身体状況や希望に応じて宿泊施設や旅行プランを提案する「パーソナルバリアフリー基準」に基づく取り組みを行っています。画一的に「バリアフリー対応施設かどうか」で判断するのではなく、個々の事情に合わせて選択肢を組み立てる発想です。
おもてなしヘルパー利用者数の推移
同センターが伊勢神宮参拝などをサポートする「伊勢おもてなしヘルパー」の利用者数は、2019年度の88件から2023年度には134件に増えています。
計算:134÷88≒1.52。4年間で約1.5倍、52%の増加です。バリアフリー観光の受け皿は、まだ小規模ながら着実に利用が伸びていることがわかります。
同じ「移動の負担を下げる」という発想は、旅行費用を抑える仕組みにも共通しています。旅行会社がツアー料金を安くできる背景を知りたい方は、航空券の価格が変動する仕組みの記事もあわせて参考にしてください。
よくある誤解
誤解1:シニアはお金がないから旅行しない
観光白書が示す通り、70代以上で最も多い理由は「健康上の理由」であり、お金の制約が主な理由として挙がるのは20〜60代です。世代によって壁の種類が違うことを踏まえずに「シニア=お金がない」と一括りにするのは実態に合いません。
誤解2:旅行離れは高齢化のせいで仕方ない
70代の32.9%が旅行を「最も大切な趣味」と答えているように、意欲自体が失われているわけではありません。宿泊施設のバリアフリー化やユニバーサルツーリズムの充実次第で、実現できる旅行はまだ増やせる余地があります。
誤解3:シニア向けの旅行商品はどれも似たようなもの
個々の体調や希望に応じてプランを組む「パーソナルバリアフリー基準」のような取り組みが出てきており、画一的な「シニア向けパッケージ」から一歩進んだ提案も広がりつつあります。
デメリット・注意点|シニア旅行を計画するときに気をつけたいこと
シニア世代の旅行を後押ししたい場合、良い面だけでなく気をつけるべき点も正直に見ておく必要があります。
- バリアフリー客室は数が少なく、繁忙期は早めの予約が必須になりやすい
- 「伊勢おもてなしヘルパー」のようなサポートは1週間以上前の予約が必要な場合が多く、思い立ってすぐには利用できない
- 健康上の理由で旅行を控える人が多い分、混雑を避けた閑散期に需要が偏ると、逆に個別対応の予約が集中してしまう可能性がある
- 旅行保険や持病の薬の携行など、若い世代の旅行より事前準備の負担が大きい
選び方・判断基準|家族や本人はどう旅行を選べばいいか
ここまでの内容を踏まえると、判断の軸は次のように整理できます。
- 移動時間が長い旅行より、宿泊先でゆっくり過ごせる温泉旅館タイプを優先する
- 予約時に「車いす使用者が利用可能なトイレ・客室があるか」を電話で直接確認する(ホームページ掲載だけでは情報が不足している場合がある)
- 個別サポートが必要なら、伊勢志摩バリアフリーツアーセンターのようなユニバーサルツーリズムの相談窓口を早めに探しておく
- 本人が「最も大切な趣味」と感じている可能性を前提に、体力面のハードルを下げる工夫(車移動・付き添い・短い行程)を検討する
まとめ:シニアの旅行離れが加速する理由
シニアの旅行離れは、旅行への関心が薄れた結果ではありませんでした。観光庁の統計が示すのは、70代以上で旅行をあきらめる最大の理由が「健康上の理由」という、本人の努力だけでは超えにくい壁に変わっているという事実です。そして皮肉なことに、旅行を「最も大切な趣味」と考えている割合は70代がもっとも高く、意欲は失われていません。宿泊施設側のバリアフリー客室はまだ12.9%にとどまり、5年以内の整備予定がある施設も1割に満たないのが現状です。行きたい気持ちと、それを受け止める仕組みとの間には、まだ大きな差が残っています。2026年9月時点でこの状況を確認しており、制度や統計は今後更新される可能性があるため、最新の数字は観光庁の公式発表で確認してください。
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📚 参考文献・出典
- ・観光庁「令和7年版観光白書について(概要版)」(2025年5月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001890451.pdf - ・国土交通省「ホテル・旅館のバリアフリー化の現状等に関するアンケート調査結果」(2017年調査、606施設回答)
https://www.mlit.go.jp/common/001223223.pdf - ・ダイヤモンド・オンライン「若者より深刻…『シニアの旅行離れ』を加速させる『お金だけじゃない』理由」
https://diamond.jp/articles/-/399554










































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