結婚式の344日前キャンセルで128万円の請求が棄却された理由|キャンセル料の「平均的な損害」とは

結婚式を挙式の344日前にキャンセルしたカップルに、式場側が約128万円のキャンセル料を請求していました。東京地裁は9月29日付の判決でこの請求を棄却しています。契約書にキャンセル料が書いてあっても、事業者に生じる「平均的な損害」を超える部分は、消費者契約法で無効になります。理由は、一年近く前なら同じ日を別のカップルに売り直せるのが通常だからです。

私は、契約書にサインした以上、書いてある金額は払うものだと思い込んでいました。判決を読むと、その前提のほうが怪しかったことが分かります。この記事では、報道された数字と条文を並べて、なぜ請求が退けられたのか、日数によって結論がどう変わるのかを整理します。2026年10月時点の報道に基づくもので、式場側は控訴する方針です。

  • 344日前のキャンセルに対する約128万円の請求を東京地裁が棄却した
  • 解約料は「申込金と実費」を超える部分が無効と判断された
  • 決め手は「180日以上前なら通常は再販売できる」という考え方
  • 同じ東京地裁でも、3日前のキャンセルでは約79%が認められた例がある
目次

結論:契約書の解約料でも、平均的な損害を超える部分は無効

消費者契約法9条1項1号は、消費者が契約を解除するときに支払う損害賠償額や違約金について、同種の契約の解除で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分を無効とします。契約書に書いてあるかどうかは関係ありません。書いてあるからこそ、この条文が働きます。

東京地裁の判決で争われたこと

報道によると、カップルが契約したのは2023年に申し込んだ2泊3日の宿泊付き結婚式プラン(平日挙式)で、申込金は10万円、見積額は税込で約428万円でした。カップルは挙式の344日前に、電話とメールで解約を伝えています。式場側は契約書の条項に基づき、約128万円を請求しました。

裁判所は、平均的な損害は逸失利益と実費で、申込金と実費を超える部分は消費者契約法により無効だと判断しています。式場側が主張した再販売のための広告費と内覧会の費用は、恒常的に支出する販売管理費だとして、損害への加算を認めませんでした。

クーリングオフとは別の話

勘違いしやすいのですが、これは契約から一定期間なら無条件で解約できるクーリングオフの話ではありません。解約そのものは自由にできる前提で、そのとき請求される金額が妥当かどうかを問う条文です。結婚式のように、日にちを押さえてもらう契約で特に問題になります。

128万円はどう計算された?契約条項を数字で読む

数字が多いので、先に表で整理します。判決の理屈も、この数字の関係を押さえると追いやすくなります。

項目 内容
プラン 2泊3日の宿泊付き結婚式(平日挙式)、2023年に契約
申込金 10万円
見積額 約428万円(税込)
キャンセルの時期 挙式の344日前(電話とメール)
契約条項 364日前から181日前までの解約は、申込金と見積額(税抜)の30%
式場の請求額 約128万円
※出典:弁護士ドットコムニュース(2026年10月3日配信)。金額は報道による概数

請求額は申込金の何倍にあたるか

請求額の約128万円は、最初に払った申込金10万円の12.8倍です(128÷10で計算)。見積額の約428万円に対しては、約30%にあたります(128÷428で計算)。条項は税抜の見積額を基準にしているので、税込の428万円で割った数字とは数万円ずれます。ここでは規模感をつかむための目安です。

区分は日数の「帯」で決まる

この条項は、364日前から181日前までを1つの帯として、同じ料率を当てはめています。帯の幅は184日です(364−181+1で計算)。344日前は、帯に入ってから20日目にあたります。挙式まで約11か月も残っていたのに、見積額の3割が上乗せされる区分に入っていたことになります。

結婚式や旅行などの契約で、キャンセル料の条項を契約前に読みましたか?

  1. 細かい日数まで読んだ
  2. 金額だけ見た
  3. 説明を聞いただけで読まなかった
  4. そもそも契約したことがない

📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・8票)

そもそも契約したことがない:75%
金額だけ見た:25%
細かい日数まで読んだ:0%
説明を聞いただけで読まなかった:0%

「平均的な損害」とは何か:逸失利益と実費

平均的な損害という言葉は、日常ではまず使いません。条文の中身は、解除の理由や時期などの区分ごとに、同種の契約が解除されたときに事業者に生じる損害額の平均値です。ここで効いてくるのが「区分」という考え方です。

逸失利益と実費に分けて考える

損害は大きく2つに分かれます。ひとつは逸失利益で、本来その契約で得られたはずの利益のうち、別の客で埋められなかった分です。もうひとつは実費で、その契約のために実際に支出して戻らない費用です。今回の判決は、この2つが平均的な損害の中身だと整理しています。

逸失利益は、同じ日を別の客に売れるかどうかで大きさが変わります。売り直せるなら、式場に残る損害はほとんどありません。この点は次の章で詳しく見ます。

広告費が加算できなかった理由

式場側は、キャンセルされた日程をもう一度売るための広告費や内覧会の費用を、損害に加えるべきだと主張しました。裁判所は、広告費は恒常的に支出する販売管理費だとして、これを退けています。

言い方を変えると、広告はそのカップルのために特別に出した費用ではなく、キャンセルがあってもなくても毎年かかる費用です。損害として請求できるのは、その契約が解除されたことで新たに生じた分だけ、という整理になります。私は、広告費まで解約料に混ぜてよいと考える業者側の発想にも、一定の筋はあると思いました。ただ、それを認めると、どの契約にも一律の上乗せができてしまいます。

なぜ344日前だと「再販売できる」と言えるのか

挙式の日程は一年近く前なら再び売れるのが普通(席札を置いた挙式会場の椅子)
Photo by Jonathan Borba on Unsplash

判決の核心は、180日以上前のキャンセルなら、式場はその日を通常は再販売できる、という判断でした。一年近く前なら、まだ日程を探している別のカップルに売り直せる余地があるというのが、判決の見方です。

売り直せるなら損害はほぼ残らない

挙式の日程は在庫に似ています。使われなければ価値がゼロになる点は、飛行機の座席や宿泊の部屋と同じです。ただ、日程が空いたまま残るのは、売り直せなかったときだけです。344日前なら、その日に新しい契約を入れる時間がまだたっぷりあります。

見積額の3割を最初から確定させる条項は、売り直せる前提を考えていません。裁判所は、その部分が平均的な損害を超えていると見たことになります。

契約後すぐの解約でも同じ理屈が使える?

ここは私にも分かりません。今回の判決が扱ったのは344日前の解約で、判断の理由も180日以上前という線を示しています。もっと短い期間や、式場が日程を押さえるために特別な費用を出していた場合まで同じ結論になるかは、報道からは読み取れません。

3日前なら約79%が認められた:時期で結論が逆になる

見出しだけ見ると、式場が負けたように見えます。同じ東京地裁には、逆の結論になった判決もあります。2021年9月27日の判決は、挙式の3日前にキャンセルした男性が返金を求めた訴訟で、請求を退けました。

比べる点 344日前の判決 3日前の判決(2021年)
キャンセル時期 挙式の344日前 挙式の3日前
契約・見積の総額 約428万円 615万円
解約料 約128万円(請求) 485万円(差し引き)
差額(615−485で計算) — 130万円
結論 申込金と実費を超える部分は無効 約79%の解約料を妥当と判断
※出典:弁護士ドットコムニュース。3日前の判決は新型コロナ流行初期の挙式をめぐる訴訟

解約料の割合は何%になるか

3日前の判決で差し引かれた解約料は485万円、契約総額は615万円です。割合を計算すると約79%になります(485÷615)。残りは130万円で、差額を引いた金額です(615−485で計算)。裁判所は、直前のキャンセルでは再販売ができないため、この割合が平均的な損害の範囲に収まると判断したと報じられています。

見出しの熱と数字の温度差

「128万円請求を棄却」と聞くと、キャンセル料は払わなくていいという話に聞こえます。私はそこに少し温度差を感じました。2つの判決を並べると、キャンセル料が無効になるかどうかは、金額の大きさよりも「いつ」キャンセルしたかで決まっています。時期によって、同じ裁判所でも結論が逆になります。

判決は確定していない:控訴と、これから起きること

式場側は控訴する方針だと報じられています。民事の裁判では、一審の判決に不服があれば上級の裁判所で改めて争えます。手続きの違いは民事と刑事の違いの記事にまとめています。

控訴審で判断が変わる可能性もあり、今回の判決を「結婚式のキャンセル料は344日前なら払わなくてよい」という一般的なルールとして読むことはできません。控訴審でどうなるかは、現時点では分かりません。

解約料を請求されたら、まず確認したいこと

解約料の通知を受けたら、まず契約書の日数区分を確認する(契約書に署名する手元)
Photo by Romain Dancre on Unsplash

解約料の請求書が届いたとき、その場で振り込む前にやれることがあります。法律の判断は専門家に任せるとして、自分で確認できる事実を先にそろえておくと、相談がスムーズです。

契約書の日数区分と料率を書き出す

まず、契約書のキャンセル条項を探します。今回のように「364日前から181日前まで」「180日前から」といった区分があり、区分ごとに料率が違うはずです。自分のキャンセルがどの区分に入るのか、連絡した日付をメールや通話履歴で確定させます。

算定の根拠を尋ねる

消費者契約法9条2項は、事業者は消費者から説明を求められたとき、損害賠償額や違約金の算定根拠の概要を説明するよう努めなければならない、と定めています。請求額が何の費用で構成されているのかを、書面で聞いてみる価値はあります。努力義務なので、答えが返ってこないこともあります。

払う前に消費生活センターへ

払った後に取り戻すのは手間がかかります。払う前に、お住まいの地域の消費生活センターに契約書を持って相談するのが現実的です。京都府の相談事例ページも、条項の一部を無効にできる可能性はあるものの、個別の事案ごとの判断になると説明しています。

結婚式のキャンセル料で注意したい限界とデメリット

ここまで読むと、キャンセル料はたいてい取り戻せるように見えるかもしれません。実際はそう単純ではありません。

  • 無効になるのは「平均的な損害を超える部分」だけで、解約料が全額ゼロになるとは限りません。今回も、申込金と実費は損害として認められる前提です
  • 平均的な損害は、解約の時期などの区分ごとに判断されます。直前になるほど式場側に有利になります
  • 実費の中身は個別に争われます。報道では、今回の実費の額までは確認できませんでした
  • 裁判になれば時間と費用がかかります。話し合いで済ませるほうが現実的な場面も多いはずです

式場側にも事情があります。人気の日程を長く押さえる以上、他のカップルに断った分の機会損失があるのは確かです。だからこそ、日程を売り直せたかどうかが議論の中心になります。

結婚式のキャンセル料をめぐるよくある誤解

誤解1:契約書に書いてあれば、全額払う義務がある

書いてあっても、平均的な損害を超える部分は消費者契約法9条1項1号で無効になります。無効かどうかは個別に判断されるので、書いてあるから安心、という立場は事業者側にも成り立ちません。

誤解2:早く解約すれば、いつでも解約料はゼロになる

今回の判決でも、申込金と実費は損害として残る前提です。ゼロになるとは限りません。

誤解3:この判決で、結婚式のキャンセル料のルールが決まった

一審の判断で、式場側は控訴する方針です。確定した一般ルールではなく、同じ東京地裁でも3日前のキャンセルでは約79%が認められた判決があります。

自分のケースで考える判断の目安

判決の数字を、これから結婚式を予約する人、すでにキャンセルを考えている人の判断にどうつなげるか。使えるのは次の3点です。

状況 確認すること
これから契約する 日数ごとの料率の表があるか。申込金は返金されるのか。説明は書面でもらう
キャンセルを迷っている 今日解約した場合にどの区分に入るか。区分が変わる日付を契約書で確認する
すでに請求書が届いた 請求の内訳を書面で尋ねる。払う前に消費生活センターへ相談する

まとめ:キャンセル料の「妥当な額」は日数で変わる

東京地裁は、挙式の344日前にキャンセルしたカップルへの約128万円の請求を棄却しました。契約書に解約料が書いてあっても、消費者契約法9条1項1号により、平均的な損害を超える部分は無効です。損害の中身は逸失利益と実費で、広告費は加算できないと判断されました。

同じ東京地裁でも、3日前のキャンセルでは約79%の解約料が認められています。解約料が妥当かどうかは、金額の大きさよりも、日程を売り直せる時間が残っていたかで決まります。今回の判決は一審で、式場側は控訴する方針です。手元の契約書の日数区分を確認し、請求を受けたら払う前に消費生活センターに相談する。それが現時点で取れる、いちばん確実な判断材料です。

この記事の内容、読む前から知っていましたか?

  1. 知っていた
  2. なんとなく知っていた
  3. 初めて知った
  4. 誤解していた

📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・9票)

誤解していた:44%
初めて知った:33%
なんとなく知っていた:22%
知っていた:0%

参考文献・出典

この記事について 本記事は、社会の制度や法律の“仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。個別の法的判断を示すものではなく、制度は改正されることもあります。実際の契約や手続きは、お住まいの消費生活センターや弁護士など専門家、公的機関の最新情報をご確認ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。