EUのサマータイムはなぜ廃止されないのか|時計を戻す仕組みと緯度による昼の長さの差

ヨーロッパでは、サマータイム(夏時間)が10月の最終日曜日(指令の定め)に終わります。今年は2026年10月25日(10月の最終日曜日、暦で数えた日付)でした。EUの廃止の話は何度も聞いたのに、なぜ今年も時計を動かしたのか、というのがこの記事の出発点です。

私はこの記事を書くまで、EUでは議会が廃止を決めたのだから、もう終わった話だと思っていました。欧州議会の手続き記録、欧州委員会の提案、2001年のEU指令、国立天文台の暦Wikiを開いて確かめると、思っていた形とは違いました。使った資料は参考文献に載せています。

  • EUの夏時間は、2001年の指令で、春と秋の最終日曜日の午前1時(GMT)にそろえられた
  • 欧州委員会は2018年に廃止を提案し、欧州議会は2019年3月に決めたが、加盟国側の手続きは止まっている
  • 夏至の昼の長さは、那覇と東京の差が約1時間、東京とストックホルムの差が約4時間(自分で計算)
  • 日本にも1948年から1951年まで夏時刻があり、その後に法律で廃止された
目次

EUの夏時間は、なぜ秋の最終日曜日に終わるのか

決まりは2001年のEU指令にある

EUの夏時間のルールは、2001年1月19日付けの指令2000/84/ECにあります。指令は、夏時間を「1年のうち、時計を他の期間より60分進める期間」と定義しています。2002年以降、夏時間はすべての加盟国で「3月の最終日曜日の午前1時(グリニッジ標準時)」に始まり、秋は最終日曜日の同じ午前1時(グリニッジ標準時)に終わります。

午前1時の基準がグリニッジ標準時(GMT)であることが大事なところです。各国の現地時刻ではなく、世界で同じ瞬間を指しているので、加盟国が同じ瞬間に時計を動かします。国ごとに時計を動かす時刻がずれて、一時的に隣国との時差が変わる、ということが起きません。

今年の切り替え日に、ドイツやフランスでは午前3時が2時に戻る

2026年の10月の最終日曜日は10月25日です。ドイツやフランスなどの中欧の夏時間は協定世界時(UTC)より2時間進み、冬時間は1時間進みです。午前1時(UTC)は夏時間の午前3時にあたり、その瞬間に時計が午前2時へ戻ります(UTC+2時間とUTC+1時間の差から計算)。この日の1日は、時計の上では25時間あります。

EU全体の仕組みについては、EUの仕組みを解説した記事にまとめています。夏時間の指令は、加盟国が共通ルールで動く例の一つです。

EUは2018年に廃止を提案し、まだ決まっていない

欧州委員会の提案と、意見公募の84%

欧州委員会は2018年9月12日、季節ごとの時刻変更を終わらせる指令案を出しました。案では、各加盟国が「夏時間のままにする」か「冬時間のままにする」かを自分で選びます。事前の意見公募には4.6 million件の回答があり、84%が時刻変更の廃止に賛成、16%が続けたいという結果でした。

欧州議会は2019年3月26日に第1読会を終えた

欧州議会の手続き記録(2018/0332(COD))には、2019年3月26日に議会が第1読会で決定した、と載っています。続く状態の欄は「理事会の第1読会の立場を待っている」です。理事会は加盟国の政府で構成されます。つまり、議会は決めたが、加盟国側が立場をまとめていない状態が記録に残っています。

見出しの熱と、手続きの記録を開いた私の温度に、少し差がありました。「廃止へ」という話を何度も聞いた気がしていたのに、記録の最後の行は2019年から同じ待ち状態のままです。

2025年に、スペインが再び提起した

2025年、スペインのサンチェス首相は、EUの理事会で時刻変更の廃止を求めると発表しました。エネルギー担当閣僚の会合ではフィンランドとポーランドも発言し、スペインを支持しました。ポーランドは新しい分析が必要だと述べています。エネルギー担当のヨルゲンセン委員は、欧州委員会は廃止に賛成の立場で、新しい分析を行うと説明しました。

議会が決めてから6年たっても、各国がそろって夏時間か冬時間のどちらかを選ぶところまで進んでいません。廃止の最大の論点は、どちらの時刻に固定するかを各国が選べる形にしたときの調整だと、私は手続きの形から読みました。これは出典に書かれた理由ではなく、私の読みです。

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なぜ高緯度ほど夏時間の意味が大きいのか

夏の昼の長さが長い高緯度の都市:北欧の都市の夕暮れ
Photo by Jon Flobrant on Unsplash

夏至の昼の長さを緯度ごとに計算する

夏時間は、日の出が早い夏に早く仕事を始め、早く終えて日の当たる時間を使う、という考え方です。国立天文台の暦Wikiも、この狙いを説明しています。では、緯度によって夏の昼の長さはどれくらい違うのでしょうか。

私は、緯度から昼の長さを求める式で計算しました。夏至と冬至の太陽の傾きを23.44度、日の出と日の入りを太陽の上端が地平線に接する高さ(マイナス0.833度)として、昼の長さ=2×H÷15度、cosH=(sin(−0.833度)−sinφ×sinδ)÷(cosφ×cosδ)で求めています(φは緯度、δは太陽の赤緯)。

都市(北緯) 夏至の昼 冬至の昼 夏と冬の差
那覇(26.2度) 13時間47分 10時間30分 約3.3時間
東京(35.7度) 14時間35分 9時間44分 約4.8時間
札幌(43.1度) 15時間22分 8時間59分 約6.4時間
ロンドン(51.5度) 16時間38分 7時間50分 約8.8時間
ストックホルム(59.3度) 18時間37分 6時間5分 約12.5時間
※筆者が上の式で計算した概算値(大気や標高は考慮していません)。実際の暦は国立天文台などの公表値で確認してください。

差が大きいほど、時計を動かす理由も大きくなる

表を見て、私は少し驚きました。東京は夏と冬で昼の長さが約4.8時間違いますが、ストックホルムは約12.5時間違います。12.5÷4.8=約2.6倍です。冬は午後の早い時間に暗くなり、夏は夜遅くまで明るい土地では、時計を1時間動かす影響も大きくなります。緯度の高い地域の方が、夏時間が定着しやすい理由の一つだと私は考えています。ただし、これは昼の長さの計算から読んだことで、各国が夏時間を導入した理由を調べたものではありません。

夏と冬で昼の長さが変わるのは、地球の軸が傾いたまま太陽の周りを回っているからです。季節による空の変化については、季節で見える星座が変わる理由の記事で、公転との関係を書いています。

日本にも、夏時刻が使われた3年間があった

1948年から1951年までは法律で夏時刻が決まっていた

私は、日本では夏時間が一度も使われたことがないと思っていました。国立天文台の暦Wikiによると、日本でも昭和23年(1948年)から昭和26年(1951年)の間だけ、夏時刻が使われていました。昭和23年4月28日の法律第29号で制定され、昭和27年4月11日の法律第84号で廃止されています。

年 夏時刻の期間
昭和23年(1948年) 5月1日午後12時〜9月12日午前0時
昭和24年(1949年) 4月2日午後12時〜9月11日午前0時
昭和25年(1950年) 5月6日午後12時〜9月10日午前0時
昭和26年(1951年) 5月5日午後12時〜9月9日午前0時
※出典:国立天文台暦計算室「暦Wiki 夏時刻」。午後12時は午前0時のことです。

暦Wikiには、当時はテレビ放送やラジオの深夜放送がなく、5月1日の夜は寝る前に時計の針を1時間進め、9月11日の夜は寝る前に1時間戻していたようだ、とあります。いまのように、スマートフォンが自動で時刻を合わせてくれる時代とは違います。私のスマートフォンも自動で合わせるので、針を手で動かす感覚はもうありません。

日本は日の入りより、日の出の地域差が大きい

暦Wikiは、日本の夏のころは日の入り時刻の地域差が少ない一方、日の出時刻には大きな開きがある、と書いています。理由を私が計算してみました。

根室(北緯43.3度、東経約145.6度)と那覇(北緯26.2度、東経約127.7度)の6月21日ごろの比較です。経度の差は145.6−127.7=17.9度で、15度で1時間なので、根室は那覇より太陽が約1.2時間早く南中します。昼の長さは根室が約15時間24分、那覇が約13時間47分で、差の半分は約0.8時間です。日の出の差は1.2+0.8=約2.0時間になります。

同じ日本標準時の中で、日の出が約2時間違うことになります。東西にも南北にも長い日本では、全国が同じ時刻に時計を進めても、効果は地域でそろいません。欧州のように、狭い範囲に高緯度の国が並ぶ地域とは条件が違うと、私はこの計算から見ました。

夏時間のデメリットと、確かめきれなかったこと

廃止後の時刻は、各国が選ぶことになる

委員会の提案では、廃止後は各国が夏時間か冬時間のどちらかに固定します。夏時間のままの国と冬時間のままの国が隣り合えば、いまは1つの時間帯でそろっている国同士に、時差ができる可能性があります。提案の仕組みから私が推測したことで、実際に何か国がどちらを選ぶかは、出典では確認できませんでした。

省エネ・健康への影響は、この記事では確認できなかった

夏時間をやめたい理由として、省エネ効果が小さいことや、睡眠への影響がよく挙げられます。ただし、数字つきで確かめられる一次資料を、この記事では開いていません。確かめていないので、効果の大小は書きません。ポーランドが新しい分析を求めたことは、判断に使えるデータがそろっていないことの表れだと受け取っています。睡眠そのものの仕組みは、睡眠の仕組みの記事で解説しています。

時計の変更は、年に2回の手間になる

EUでは、時計の変更が年に2回あります。冬時間に戻る日は1日が25時間になる(時計を1時間戻すため)ので、夜間の勤務や交通のダイヤでは、その時間帯の扱いを決めておく必要があります。具体的な運用は各業界で違い、今回は確かめていません。

ニュースを見て、自分で確かめる3つの手順

時差の確認:壁掛けのアナログ時計
Photo by Ocean Ng on Unsplash

手続きの現在地は、欧州議会の記録で見る

「EUが廃止へ」という見出しを見たら、欧州議会の立法観測所(Legislative Observatory)で手続き番号2018/0332(COD)を探します。状態の欄が「理事会の第1読会の立場を待っている」のままなら、法律にはなっていません。

時刻の変わる日は、指令の条文と暦で見る

EUの切り替え日は、毎年、秋と春の最終日曜日です。指令の条文に決まりが書いてあるので、ニュースを待たなくても、カレンダーで日付を確かめられます。2026年の春は、3月29日が最終日曜日にあたります(暦で数えた日付)。

日本との時差は、冬時間で8時間になる

EUの会社とオンライン会議をする人には、実際に役立つ話があります。日本はUTCより9時間進んでいて、日本には夏時間がありません。中欧の夏時間はUTC+2時間、冬時間はUTC+1時間です。9−2=7時間(夏時間のとき)、9−1=8時間(冬時間のとき)で、時差は10月25日の切り替え後に7時間から8時間へ広がりました。

日本の午後9時の会議は、中欧の夏時間では午後2時(21−7)、冬時間では午後1時(21−8)です。EUの会社との定例会議は、切り替えの前後で、日本時間でずらすか、現地時間でそろえるかを、先に決めておくと混乱を防げます。

サマータイムでよくある誤解

EUはもう夏時間の廃止を決めたのですか

決めていません。欧州議会は2019年3月26日に第1読会で決定しましたが、手続きの記録では、理事会の第1読会の立場を待っている状態です。2026年の今年も、指令の定めどおりなら、EUの加盟国は10月25日に時計を動かしました(暦で数えた日付)。

日本では夏時間を使ったことがありませんか

使ったことがあります。国立天文台の暦Wikiによると、1948年から1951年まで夏時刻があり、昭和27年に廃止する法律ができました。

夏時間は欧州全体で、昔から同じ日に切り替えていたのですか

EUで同じ日の同じ時刻に統一されたのは、指令2000/84/ECが適用される2002年以降です。指令は、すべての加盟国で春と秋の最終日曜日の午前1時(グリニッジ標準時)と定めています。

まとめ:サマータイムは緯度と手続きで読む

サマータイムのニュースは、2つの数字で読むと整理できます。1つは緯度による昼の長さの差です。東京の夏と冬の差は約4.8時間、ストックホルムは約12.5時間で、緯度が高いほど夏の夕方の明るさの価値が大きくなります。もう1つは手続きの進み具合です。EUでは、欧州議会が2019年3月に決定しましたが、理事会の立場を待つ状態が記録に残っています。

日本にも1948年から1951年の夏時刻の経験があり、日の出の地域差が大きい国です。この記事の計算は概算で、省エネや健康への影響は確かめていません。最新の状況は、欧州議会と欧州委員会の公表、国立天文台の暦のページで確認してください(2026年10月時点)。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。