手書きノートはタイピングより成績が上がるのか|2014年の実験・追試・メタ分析で割れた結果

授業のノートは、手で書くほうが成績に有利なのか。パソコンで打つほうが速くて量も残せるのに、不利になるという話は、2014年の実験をきっかけに広まりました。ところが追試では同じ結果が出ず、その後のメタ分析ではまた手書きが上回っています。この記事では、三つの研究の中身を順に見て、結果が割れた理由と、自分のノートの取り方に落とし込む目安を整理します。

この記事のポイント

  • 2014年の元実験では、概念を問う問題でノートパソコン使用者の成績が低かった
  • 2021年の追試(145人)では、手書きとタイピングの差は小さく有意ではなかった
  • 2024年のメタ分析(24研究)では、手書きの成績が平均で上回った
  • 差が出る条件は、逐語で写すかどうかと、書いた後に見直すかどうか

結論:手書きに有利な傾向はあるが、差は小さい

先に答えを書きます。複数の研究をまとめた2024年のメタ分析では、手書きのほうが成績は高く出ています。ただし、その差は大きくありません。2021年の追試のように、差が見えなかった実験もあります。「手書きなら必ず成績が上がる」とも「パソコンで打つと必ず下がる」とも言えないのが、2026年10月時点の状況です。

私は最初、手書きが有利だという話を、決着のついた事実だと思っていました。追試とメタ分析を読み比べて、その理解は半分しか合っていなかったと気づきました。決着がついていないのは、「手書きという動作そのもの」の効果なのか、「書き方」の効果なのかという点です。

この記事の数字は、実験心理学の研究と、それを紹介した解説ページから確かめたものです。読者のみなさんが当てはめやすいように、大学の講義でノートを取る学生と、会議や研修でメモを取る社会人の両方を想定して書きます。

2014年の元実験では何を比べたのか

2014年の元実験では何を比べたのか
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広まるきっかけになったのは、プリンストン大学のパム・ミューラーと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のダニエル・オッペンハイマーによる、2014年の心理学雑誌『Psychological Science』の論文です。三つの実験で、手書きとノートパソコンを比べました。参加者の人数は実験ごとに違い、数十人から百五十人ほどです。

動画講義とノートの条件

参加者は、教室に似せた環境で動画の講義を見て、手書きかノートパソコンのどちらかでノートを取りました。ノートパソコンは、注意がそれる影響を除くために、インターネットを切り、ほかのプログラムも使えないようにしてあります。つまり、「ネットで気が散るから成績が下がる」という説明は、この実験には当てはまりません。

講義のあと、参加者は記憶力のテストを受け、続いて講義の内容を問うテストを受けました。問題は2種類です。講義で聞いた事実を答える問題と、学んだ考え方を別の場面に当てはめる概念応用の問題でした。

結果は事実問題と概念問題で分かれた

最初の実験では、事実を問う問題に、手書きとノートパソコンの差はありませんでした。差が出たのは概念応用の問題で、ノートパソコン使用者の成績が有意に低くなっています。

ノートの量も測られています。最初の実験で、タイプした人が書いた語数は平均309語、手書きの人は平均173語でした。

309語÷173語≒1.79なので、タイプした人は手書きの人の約1.8倍の語数を残しています(309と173は原典の平均語数、割り算は編集部の計算)。

量が多いほど有利なら、ノートパソコンの人が勝つはずです。結果は逆でした。ここが、この研究のいちばん面白い点です。

あなたは授業や会議のメモを、主に何で取っていますか?

  1. 手書き(紙のノート・手帳)
  2. パソコンで入力
  3. スマホ・タブレットで入力
  4. ほとんどメモは取らない

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逐語メモが成績を下げるという説明

なぜ、量が多いのに成績が低くなったのか。研究者は、ノートの取り方に二つの効果を想定しました。

ノートが学習に効く二つの経路

エンコーディング仮説

聞いた内容を要約したり言い換えたりして書くと、その処理の最中に理解が深まる

外部保存仮説

ノートが残っていれば、あとで見返して内容を思い出せる。書いたのが誰でも成り立つ

エンコーディング仮説と外部保存仮説

ノートパソコンは速く打てるので、話を聞きながらほぼそのまま写せます。研究者はこれを、頭を通さずに写す「逐語」のメモと呼びました。要約する手間がないので、理解を深める処理が起きにくい、という説明です。

二つ目の実験では、ノートパソコンの参加者に「自分の言葉でノートを取ってください。話をそのまま書き写さないでください」と指示しています。それでも、タイプした人のほうが、講義の言葉をそのまま書いた割合が高くなりました。注意されても、速く打てる道具だと逐語になりやすいということです。私はメカニカルキーボードの打鍵感が好きで、打つ速さには自信があります。その速さが、ここでは不利に働く可能性があるわけです。

復習の10分で差が出た実験3

三つ目の実験は、講義の1週間後にテストをしました。ノートを見返す時間がなかった参加者では、手書きとノートパソコンに差はありませんでした。一方、テスト前に10分間ノートを見返せた参加者では、手書きの人のほうが、事実問題でも概念問題でも成績が高くなりました。

この結果は、量が多いノートのほうが見返すときに有利だという外部保存仮説と合いません。見返す前の理解の深さが違った、あるいは手書きのノートのほうが内容を思い出す手がかりとして働いた、と考えられています。見返す回数や間隔が記憶に与える影響は、忘却曲線の実験と復習間隔の記事で詳しく書いています。

2021年の追試では差が出なかった

有名な研究でも、別の研究者が同じ手順でやり直すと、結果が変わることがあります。2021年に『Psychological Science』に載った追試が、その例です。タフツ大学の学部生145人が、動画の講義を見ながら、手書きかタイピングでノートを取りました。

追試で同じだった点と違った点

追試では、タイプしたノートのほうが語数が多く、講義の言葉と一致する割合も高いという点は、元の実験と同じでした。事実を問う問題に差が出なかった点も同じです。

違ったのは、概念の問題です。元の実験で見られた「タイプすると概念の成績が下がる」という関係は、追試では見つかりませんでした。手書きとタイピングの差は小さく、統計的に有意ではありませんでした。追試を行った研究者は、同じ論文の中で関連する8件の研究をまとめた小さなメタ分析も行っていて、その結果も手書きの効果は有意ではないというものでした。

元の実験の参加者は67人、追試は145人で、145÷67≒2.2なので、追試の人数は約2.2倍です(人数は原典、割り算は編集部の計算)。

大学のゼミで社会調査法を学んだ私は、サンプルが百人に満たないと聞くと、少し身構えます。人数が少ないと、たまたま差が出ることがあるためです。追試が元の2倍以上の人数で行われたことは、結果を見るうえで無視できません。

語数と成績の関係は因果とは限らない

追試では、ノートの語数が多いほど、テストの点が高いという関連が見られました。また、講義の言葉と一致する部分が多いほど、点が低いという関連もありました。「たくさん書き、しかも自分の言葉で書いた人ほど点が高い」と読みたくなります。

ただし、研究者自身が、そう断定できないと書いています。語数が多いことや逐語が少ないことは、学生のやる気、まじめさ、その話題への興味を映しているだけかもしれません。やる気のある人が自分の言葉でたくさん書き、同時に点も取っている可能性があるからです。観察された関連から因果を言えない例は、相関関係と因果関係の違いの記事で整理しています。

2024年のメタ分析では手書きが上回った

追試で差が見えなくなったあとも、議論は終わっていません。2024年7月、『Educational Psychology Review』に、手書きとタイピングを比べた研究をまとめたメタ分析が載りました。大学生を対象にした24の研究を集めたものです。

24研究3,005人の結果

集まった研究の参加者は、あわせて3,005人でした。手書きでノートを取り、見返した学生のほうが、成績は高くなっています。成績の差を表す効果量(Hedges’ g)は0.248でした。一方、ノートの量はタイピングが多く、その差の効果量は0.919です。

0.919÷0.248≒3.7なので、ノートの量の差は、成績の差の約3.7倍の大きさです(二つの効果量は原典、割り算は編集部の計算)。

分析では、テストまでの間隔が短いか長いか、成績の測り方が総合点か事実問題か概念問題かという二つの条件で分けても、手書きの有利さは変わりませんでした。この点は、メタ分析を紹介したラーニング・サイエンティスツのブログにも書かれています。

効果量を偏差値に直すとどの程度か

効果量0.248は、二つのグループの平均の差が、標準偏差の約4分の1だという意味です。数字だけでは大きさが分かりにくいので、偏差値に置き換えてみます。

偏差値は、平均を50、標準偏差を10にそろえた値で、偏差値=50+10×(標準得点)で求めます。

偏差値換算:10×0.248=2.48なので、約2.5点の差です。正規分布を仮定すると、手書きグループの平均的な人は、タイピンググループの上位約40%の位置にいます(標準正規分布で0.248に対応する累積確率は約0.60、編集部の計算)。

偏差値で2.5点は、順位が大きく入れ替わる差ではありません。ただ、同じ講義を受けた集団の平均が少し動く程度の差が、24の研究を重ねると見えてくる、という大きさです。「手書きを選べば成績が一変する」という話ではない、というのが私の読み方です。

研究の結果が割れる理由

元の実験は手書きが有利、追試は差なし、メタ分析は手書きが有利です。三つが食い違って見えるのは、調べている条件が研究ごとに違うからです。

テストの条件と復習の有無

元の実験の三つ目の実験では、見返す時間があったときだけ手書きが有利でした。ラーニング・サイエンティスツのブログは、これまでの研究に、手書きが有利なもの、差がないもの、見返す時間があると手書きの有利さが消えるものが混在していると紹介しています。復習の有無は、結果を左右する条件の一つだと考えられます。

実験室と実際の授業の違い

元の実験と追試に共通しているのは、動画の講義を見て、その後にテストを受けるという設定です。実際の授業は、長い期間の講義、教科書、課題、試験前の勉強が重なります。実験室の結果が、そのまま学期末の成績に当てはまるかどうかは、この記事で紹介した研究からは分かりません。メタ分析の対象も大学生です。小学生や社会人の会議メモに、そのまま当てはめるのは避けたほうがよいでしょう。

手書きとタイピングそれぞれの弱点と注意点

手書きとタイピングそれぞれの弱点と注意点
Photo by Kaitlyn Baker on Unsplash

手書きが有利という結果が出たからといって、手書きに弱点がないわけではありません。タイピングにも、研究から見える利点があります。

タイピングは量が増える代わりに逐語になりやすい

メタ分析では、ノートの量はタイピングのほうが明確に多くなっています。検索や並べ替え、共有ができるのは、パソコンのノートの強みです。弱点は、速く打てるために、聞いた言葉をそのまま写しやすい点にあります。元の実験で、自分の言葉で書くよう指示されても逐語が多かったことは、意識だけでは防ぎにくい可能性を示しています。

手書きは書き残せる量が少ない

手書きの弱点は、書ける量が少ないことです。最初の実験では、手書きの人の平均は173語で、タイプした人の309語より少なくなっています。話の速い講義では、書き漏らしが出ます。ここまでの研究は、量が少ないことで成績が下がるかどうかを、単独では示していません。量と理解の深さが、どちらも効いている可能性があります。

自分に合うノートの取り方と、明日試せること

ここまでの研究を、取り方の目安に整理します。研究が直接示しているのは「逐語で写すより、自分の言葉にするほうがよい可能性」と「書いたあとに見返す時間」です。道具の選び方は、その二つを守れるかで考えるのが現実的です。以下の表は、研究の結果から編集部がまとめた目安であり、研究が個別の状況にそのまま当てはまると示したものではありません。

状況 目安
概念を理解したい講義 手書きで要点を自分の言葉にし、書いたあとに見返す時間を取る
パソコンで取る必要がある 話をそのまま打たず、一文を短く言い換えて打つ。あとから検索や整理に使う
話が速く書き漏らす 講義中は要点だけ書き、終了後に見返して補う
会議や研修のメモ 研究は大学の講義が対象のため、直接の根拠はない。決定事項と担当は、書いたあとに見返して確かめる
※上記は研究結果をもとにした編集部の整理です。出典は記事末尾の参考文献を参照してください。

学生が明日の講義で試せること

一つ目は、聞いたことをそのまま書かず、一文を短くして自分の言葉にすることです。二つ目は、授業の後に10分ほど見返す時間を確保することです。元の実験で差が出たのが、10分の見返しがあった条件でした。この10分は、研究と同じ長さを目安にしたものです。

社会人が会議やセミナーのメモで気をつけること

会議のメモは、大学の講義とは目的が違います。決定事項、担当、期限を正確に残すことが目的なら、逐語に近い記録が役立つ場面もあるでしょう。研究が扱った概念の理解とは別の話だと分けて考えるのが安全です。セミナーや勉強会のように、内容を理解して持ち帰りたい場面なら、要点を自分の言葉にする取り方が、研究の方向とは合います。

よくある誤解

手書きなら必ず成績が上がるのですか

必ずではありません。2021年の追試では、手書きとタイピングの差は小さく、統計的に有意ではありませんでした。2024年のメタ分析でも、効果量は0.248と大きくはなく、偏差値に直すと約2.5点の差です。

ノートパソコンは気が散るから成績が下がるのですか

2014年の元実験では、気が散る影響を除くために、ノートパソコンのインターネットを切り、ほかのプログラムも使えなくしていました。それでも概念問題でノートパソコン使用者の成績は低くなっています。成績の差を、ネットでの気晴らしだけで説明することはできません。

たくさん書いたノートほど役に立ちますか

量が多いだけでは足りません。元の実験では、タイプした人のほうが語数は多いのに、概念問題の成績は低くなりました。追試では、語数が多いほど点が高いという関連と、講義の言葉と一致する部分が多いほど点が低いという関連が、両方見つかっています。多く書くことと、自分の言葉で書くことは、分けて考える必要があります。

まとめ:手書きとタイピングの差は小さく、取り方と見返しで変わる

手書きとタイピングを比べた三つの研究は、2014年の元実験が手書きの有利、2021年の追試が差なし、2024年のメタ分析が手書きの有利と、結果が割れていました。メタ分析の効果量0.248は、偏差値に直すと約2.5点の差です。手書きが有利な傾向はあるものの、大きな差ではありません。

確かなことは二つあります。速く打てる道具だと、聞いた言葉を逐語で写しやすいこと。そして、書いたあとに見返す時間があるかどうかで、結果が変わりうることです。道具を選ぶときは、手書きかパソコンかより先に、自分の言葉にして、書いたあとに見返せるかどうかを基準にしてください。

今日書いたノートを一つ選んで、10分見返し、聞いた言葉をそのまま写した行を自分の言葉に直してみてください。手書きでもパソコンでも、その作業ができているかどうかが、この記事で紹介した研究から読み取れる手がかりです。

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  1. 知っていた
  2. なんとなく知っていた
  3. 初めて知った
  4. 誤解していた

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。