電線に止まる鳥はなぜ感電しないのか|電位差の計算と、人が感電する条件

電線に止まった鳥が感電しないのは、鳥の体の両側が同じ1本の電線につながっていて、体の中を電気が流れるだけの電圧の差がほとんどないからです。電気を流すのは電圧そのものではなく、2点の間の電圧の差です。

子どものころ、電線に並ぶ鳥を見て「あれは痺れないのかな」と思ったことがあります。大人になって調べてみると、答えは簡単でした。ただ、私は「同じ電線だから電位が同じで、電流はゼロ」と覚えていて、その「ゼロ」を疑ったことがありませんでした。この記事では、九州電力送配電の講話資料、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」、東京電力パワーグリッドの案内などをもとに、鳥が平気な理由と、人は同じようにいかない理由を確かめます。2026年11月時点の情報です。

  • 鳥が感電しないのは、体の両端に電圧の差がほとんどなく、電流が体を流れないから
  • 鳥でも、電圧の違う別の電線に触れると感電する
  • 人は電線と地面の間に体が入るため、同じ理由では守られない
  • 電線の近くで困ったら、触らず近づかず、電力会社に連絡する
目次

鳥が感電しないのは、体の両端に電圧の差がないからです

鳥が感電しないのは体の両端に電圧の差がないから:電線に並んで止まる鳥の群れ
Photo by Joe Lavigne on Unsplash

鳥が電線の上で平気な理由は、電圧の差にあります。サイエンス雑誌 BBC Science Focus は「死に至るのは電圧そのものではなく、電気が流れるために必要な電圧の差だ」と説明し、例として35,000ボルトの電線を挙げています。1本の電線に止まる鳥には、体の中に電圧の差がありません。

電流は、電圧の高いほうから低いほうへ流れます

鉄道ライターの恵知仁さんは、電気は電圧の高いほうから低いほうへ流れる性質があり、電圧の高低差がなければ流れないと書いています。

鳥の体と電線は、並んだ2つの通り道になっています

同じ記事では、A点とB点を結ぶ架線の途中に鳥が止まった場合を考えています。電気が通れる道は、架線をまっすぐ通る道と、鳥の体を通る道の2つです。このとき電気は鳥の体には流れず、架線をまっすぐ通ります。鳥の体より架線のほうが電気抵抗が低いからです。

電柱の上には、電圧の違う電線が並んでいます

九州電力送配電の資料によると、家庭など一般のお客さまには、電柱の上の変圧器で電圧を100Vや200Vに下げて供給しています。それより上の高圧の電線は6,600Vです。電柱の上には、電圧の違う電線が通っています。電柱そのものの構造は、電柱が台風でも折れない理由の記事に書きました。

電線にも抵抗があり、足の間にごくわずかな電圧が生じます

ここからが、私が「ゼロ」と思い込んでいた部分です。電線は金属でも、電気抵抗がゼロではありません。電線に電流が流れていれば、鳥の両足の間の電線にも、ごく小さな電圧が生じます。その大きさを、前提を置いて計算してみます。

計算に使う前提は4つです

前提は、銅の電線(断面積22mm²)、足の間隔5cm、電線を流れる電流100A、鳥の体の抵抗を10,000Ωとすることです。10,000Ωは、九州電力送配電の資料にある人の手のひらの表皮の抵抗(10,000〜50,000Ω)の下限を、鳥の体の代わりに借りた数字です。実際の電線や鳥の体の値ではなく、桁を見るための仮定です。

足の間の電圧と、鳥の体を流れる電流を求めます

銅の抵抗率1.72×10⁻⁸Ω·mを使うと、足の間の電線の抵抗は 1.72×10⁻⁸×0.05÷(22×10⁻⁶)≒3.9×10⁻⁵Ω です。100Aが流れると、足の間の電圧は 100×3.9×10⁻⁵≒3.9×10⁻³V、つまり約3.9mVです。この電圧を鳥の体の10,000Ωにかけると、流れる電流は 3.9×10⁻³÷10,000≒3.9×10⁻⁷A、約0.39μAになります。

人が感じ始める電流と比べます

厚生労働省の資料では、人が「ピリッと」感じる最小感知電流は0.5mA〜1mAです。0.5mA(5×10⁻⁴A)を0.39μAで割ると、5×10⁻⁴÷3.9×10⁻⁷≒1,280倍になります。仮定の置き方で桁は動きますが、ゼロではなくても、感じ取れないほど小さいことは分かります。

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鳥でも、電圧の違う場所に触れると感電します

鳥が安全なのは、電線に止まっている間だけです。恵さんの記事は、鳥も同じで、架線にとまっているときに何かの拍子で別の電線に触れると感電すると書いています。

翼を広げて、別の電線に触れた場合

BBC Science Focus は、鳥が翼を広げて電圧の違う別の電線に触れると感電すると説明しています。そして、電力会社が電線の間にたっぷり間隔を取るのは、そのためだとしています。

鳥が電線を使う習性は広く見られます

週刊女性PRIMEの雑学記事(2025/6/30)では、国内で133種の鳥が電線を利用していることが分かっていると紹介されています。見通しがよく、危険にすぐ気づけるからです。足の指の構造から電線に止まれないツルや、電線のない高山にすむライチョウのような例外もあります。

人が感電するのは、電線と地面の間に体が入るからです

人間も、1本の電線にぶら下がって、ほかに何にも触れていなければ感電しないと、恵さんは書いています。ところが身体が地面に触れるなどすると感電します。ここが鳥との大きな違いです。人は地面に立っているので、電線に触れた瞬間に、電線と地面の間をつなぐ形になります。

電線と地面で、電圧が違います

九州電力送配電の資料は、人体が電路に触れると回路の一部となって感電すると説明しています。電気が入る部分を入電部、出ていく部分を出電部と呼び、電圧がかかった電線と大地の間に体が入ると、その間を電流が通ります。

釣り竿が架線に触れた事故があります

恵さんの記事(2014年)が取り上げた熊本県の事故は、持っていた釣り竿が架線に接触して感電したものです。架線と地面という電圧が異なるもの同士を、釣り竿を持った人間がつないでしまったためと説明されています。電線の近くでは、持ち物の先端がどこまで届くかも、感電に関わります。

高圧線に触れた足場の事故では、命に関わります

九州電力送配電の資料には、平成28年7月の雨の日に、8階建てビルの外壁工事で足場を組み立てていた作業員が、隣の高圧自家用引込線(交流6,600V)に接触して感電し、死亡した事例が載っています。電線に直接触れる行為だけが危険なのではなく、金属の足場や道具を通じて触れる場合も同じです。

人の体の抵抗は、皮膚の状態で大きく変わります

同じ電圧でも、体に流れる電流は体の抵抗で決まります。九州電力送配電の資料にある数字を整理します。

乾いた皮膚は高く、体の内側は低い抵抗です

同じ資料によると、手のひらの表皮は10,000〜50,000Ωです。体の内部は100〜500Ωと低くなります。皮膚が電気を通しにくい層になっていて、そこを越えた先は電気が流れやすいわけです。

汗をかくと1/12、濡れると1/25以下になります

資料には「汗ばむと1/12に減じ、水に濡れると1/25以下になる(400〜2000Ω)」とあります。厚生労働省の資料も、皮膚が水や汗で濡れていると電気抵抗が更に小さくなり、危険性が高まると説明しています。先ほどの足場の事故も、雨の日に起きています。

流れた電流の大きさで、体の反応が変わります

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」は、人体への通過電流値と影響を次のように整理しています。

電流 人体への影響
0.5mA〜1mA 最小感知電流。「ピリッと」感じる。人体に危険性はない
5mA 悪影響を及ぼさない最大の許容電流値。相応の痛みを感じる
10〜20mA 離脱の限界。筋肉の収縮が続き、握った電線を離せなくなる
50mA 痛み、気絶、心臓の律動異常。心肺停止の可能性もある
100mA 心室細動の発生、心肺停止。極めて危険な状態
※出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「感電」

同じ資料は、危険度が電流の大きさに加えて通る時間にも左右されると説明し、電流と時間の積で50[mA・s]、日本では30[mA・s]を基本としています。漏電遮断器は、30[mA]、0.1[s]の機種が一般的に採用されています。家庭での漏電遮断器と接地の仕組みは、延長コードの3ピンと2穴の不一致で起きる感電事故の記事でも書いています。

電線の被覆があっても、近づいてよいとは限りません

街の電線は、表面が絶縁の膜で覆われているものが多く、鳥に限らず被覆を見て安心したくなります。ただ、その膜は壊れることがあります。

鳥がついばむと、被覆に傷がつきます

関西電力送配電京都支社の事例を伝えた京都新聞の記事(2020年)によると、電線の表面は絶縁の膜で覆われていますが、カラスがついばんだりすると傷が付きます。傷の部分にハンガーや雨にぬれた枝が接触すると、漏電して停電に至ると説明されています。

カラスの巣が、駅の停電の原因になりました

同じ記事では、2020年3月27日に京都駅の構内で停電が起き、約1,200軒が影響を受けたとされています。原因は、京都駅南側の電柱の上にカラスが作った巣が漏電で燃えたことでした。京都配電営業所は2018年度に561か所の巣を撤去しましたが、同年度に起きた136件の停電のうち5件、3%は巣が原因でした。電線の上の作業では、6,600Vの電流が流れているため、感電を防ぐ特殊な服を着ていたと記事は書いています。

カラスの営巣は3月から6月です

記事によると、カラスの営巣時期は3〜6月です。11月の今は営巣期ではありませんが、電線の近くにハンガーなどを放置しないことが、市民にできる対策として挙げられています。

感電を防ぐ決まりは、近づけない工夫と素早く切る工夫です

電線の近くで作業する人は専用の備えをする:高所作業車で電柱の電線を扱う作業員
Photo by American Public Power Association on Unsplash

厚生労働省の資料は、感電防止の基本を2点にまとめています。充電部を露出させないこと、露出した充電部にむやみに近づかないことです。

感電による死亡災害は、1970年代の200件超から10〜20件まで減りました

同じ資料によると、感電による死亡災害は1970年代に毎年100数十件から200件以上ありました。1972年に労働安全衛生法が施行され、労働安全衛生規則で漏電遮断器の設置が一部義務化されるなどの対策が進み、現在は概ね10〜20件です。ただし、休業4日以上の死傷者に占める死亡者の割合は10%強で、致死率の高い災害だと説明されています。

工事の前に、電線防護を申し込めます

九州電力送配電の資料は、作業現場の近くに電線がある場合に、防護管を取り付ける連絡を呼びかけています。そのうえで、防護管を過信せず、接触させないようにすることを求めています。足場や高所作業車を使う工事では、着工前に電力会社へ連絡する手順があります。

電線の近くで迷ったときの判断の目安

鳥の話から学べるのは、電気は電圧の差があるところに流れるという原則です。この原則から、身の回りの判断を整理します。

切れて垂れ下がった電線は、触れず近づかず連絡します

東京電力パワーグリッドの案内は、台風などの強風で飛来物が電線を傷つけ、断線することがあると説明しています。切れてたれ下がっている電線には、絶対に手を触れないでください、お近くで発見された場合は絶対に近づかず電力会社に連絡してください、としています。電線に樹木や看板、アンテナなどが接触している場合もたいへん危険です。

長い物は、電線の下で立てて持たないようにします

釣り竿のような長い物は、電線と地面を結ぶ形になりかねません。電線の真下や近くでは、先端が電線に届かないかを先に確認します。電線に近い場所で作業するときは、前の節のとおり電力会社へ相談します。

濡れた手や雨の日は、さらに慎重にします

抵抗は濡れると1/25以下になるため、雨の日は同じ接触でも電流が大きくなります。

注意点:鳥の話から人の安全を決めないでください

この記事の計算は、仮定を置いて桁を見るためのものです。実際の電線の太さや流れる電流、鳥の種類や体の状態で結果は変わります。

電線の被覆は、感電を防ぐ保証ではありません

被覆は傷つきます。電線の外側を見ただけで安全かどうかは判断できません。

数字には資料ごとの幅があります

厚生労働省の資料は電流時間積の安全限界を50[mA・s]と30[mA・s]の両方で紹介しています。体の抵抗や感じ始める電流も、人や状態で幅があります。電気工事や高所作業は、電気工事士や電力会社などの専門家に任せてください。

よくある誤解

鳥は電気に強い体だから平気なのですか?

鳥の体が特別に電気に強いからではありません。1本の電線に止まっていれば、体の両端に電圧の差がなく、電流が体を流れません。電圧の違う別の電線に触れれば、鳥も感電します。

1本の電線なら、人も触って大丈夫なのですか?

人間も、1本の電線にぶら下がってほかのどことも接触していなければ感電しません。ただし身体が地面に触れるなどすると感電します。地面に立つ人が高圧線に触れる行為を試してよい理由にはなりません。

被覆された電線なら、触れても感電しませんか?

被覆は鳥がついばむだけでも傷つきます。傷のある電線に雨にぬれた枝などが触れると漏電します。被覆の有無で判断せず、電線には近づかないでください。

まとめ:電気は電圧の差があるところに流れます

電線に止まる鳥が感電しないのは、体の両端に電圧の差がほとんどなく、電流が体に流れないからです。電線に抵抗があるため足の間にごく小さな電圧は生じますが、私の仮定の計算では、人が感じ始める電流の約1,280分の1でした。

鳥でも翼を広げて別の電線に触れれば感電しますし、人は地面に立っているため、電線に触れると電線と地面の間をつなぐ形になります。台風や雪のあとに切れた電線を見つけたら、触れず近づかず、電力会社に連絡してください。電線の近くで工事をする場合は、着工前に電力会社に相談できます。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、電気が流れる仕組みを一般的に解説するもので、電線や電気設備の近くでの作業や対処の手順を示すものではありません。切れた電線や電線への接触を見つけたときは、近づかず、お住まいの地域の電力会社と必要に応じて消防・警察に連絡してください。数値は資料ごとに幅があります。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。