子どもの「夢」を叶えるはずのSNSが、いつの間にか“収益装置”に
なっていた

「ギジェルメ、君はブラジルのMrBeastになれる」
そう言われた14歳の少年は、今日もTikTokに動画を投稿し続けている。
TikTok・Instagram・KwaiあらゆるSNSを駆使し、再生数とフォロワーを積み重ね、今や月収15万円を稼ぐ。その金額は、ブラジルの成人平均収入をも超えている。
この少年、ギジェルメさんは、ただの「人気者」ではない。プラットフォームにとっても、広告主にとっても、「稼げる資産」なのだ。
だが、ここで一つの大きな疑問が浮かぶ。
14歳が、自ら稼いだ金を合法的に受け取れるのか?
16歳未満の労働は違法。なのに稼げてしまう仕組みとは

ブラジルでは、16歳未満の子どもが収入を得るには「裁判所からの芸術労働許可」が必要だ。映画や演劇、そしてソーシャルメディアもこの「芸術労働」に含まれる。
しかし、ギジェルメさんは就労許可を取得していなかった。
それでも収益化は実現できていた。なぜか?
理由は簡単。「プラットフォームが年齢確認も就労許可も求めていなかった」からだ。
TikTokはこの件が報道されたあと、彼のアカウントを報酬対象外とし、収益化機能を停止したが、これはあくまで“後手”の対応にすぎない。Kw※も同様にアカウントを閉鎖したが、なぜ最初から防げなかったのか、という根本的疑問は残る。
「働いてる自覚すらない」子どもたち:搾取か? 自己実現か?

ギジェルメさんのようなキッズインフルエンサーは、いまやブラジル全体で急増中だ。
- 9〜17歳のうち、実に83%がSNSやWhatsAppを日常的に利用
- 中には自分でマーケティング講座を販売したり、商品レビュー動画で収益を上げているケースも
例えば13歳のヴァネッサさんは、Instagramでデジタルマーケティング講座を売り、1万3000人のフォロワーを抱える。
14歳のファブリシオさんは、動画編集チュートリアルの投稿で一気に13万人のファンを得た。
2人に共通するのは、「自分の自由時間の多くをSNS活動に充てている」ことだ。
彼らは自らの活動を「遊び」とは捉えていない。
むしろ、「努力して、自分の夢を叶える手段」だと考えている。
この姿勢に、大人はどう向き合えばいいのだろうか。
「搾取ではない」という幻想“見えにくい構造的リスク”

キッズインフルエンサーを巡る最大の問題は、「見えにくい搾取」だ。
例えば:
- マネージャーが無償で支援していると語っていても、のちに収益分配トラブルが発生する可能性
- 投稿内容に無意識のうちに広告を組み込まれ、子ども自身も“宣伝ツール”と化す
- 保護者が協力的とされるが、実態として子どもの「職業的努力」を当然とする構図
Rest of Worldの記事では、ファブリシオさんの父親が「子どもは働かないと非生産的だ」と語っていたが、それは労働か育成か、判断が極めて難しい。
加えて、DeepLabのレポートでは「Instagramが非公式な労働市場として機能している」実態が報告されており、“遊びながら稼ぐ”が、すでに一種の労働環境として定着しつつあるという。
企業の「モラル」と国家の「介入」が試されている

この問題の本質は、単なるSNSの規約違反ではない。
- 年齢確認の形骸化
- 報酬分配の透明性欠如
- 労働法が追いつかない速さで進化するマーケティング手法
インフルエンサーマーケティング市場全体で見れば、2025年には世界で約250億ドルの市場規模に達するとされている(Influencer Marketing Hub 調べ)。
この中で「子ども」が果たす役割の大きさに対して、プラットフォーム、政府、社会全体が追いついていないのだ。
TikTokは罰金を科され、控訴したが、それは「制度を正す」ための対話のきっかけになるべきであって、「責任回避」のための抗弁であってはならない。
まとめ:この“稼げる夢”に、私たちはどう向き合うべきか?

「億万長者になるにはどうすればいいの?」
その答えが、今の子どもたちにとって「TikTokでバズること」なのだとしたら、私たちはまず、その夢の“土台”を見つめ直すべきだ。
- それは本当に“本人の意思”なのか?
- 社会が仕掛けた“稼げるフレーム”に無自覚なまま乗せられていないか?
- そして、その「努力」が正当に守られているのか?
夢を持つことは悪ではない。
だが、その夢が「誰かの広告枠」になった瞬間、すでに搾取が始まっている可能性がある。
子どもたちが安心して夢を追いかけられるために──
“法の壁”と“社会の盲点”の両方に目を向ける必要がある。