射出成形の仕組み|溶かした樹脂を押し込み、固まるまで押さえ続ける理由

スマートフォンのケースやリモコン、ペットボトルのキャップのような形のそろったプラスチック部品の多くは、「射出成形」で作られています。粒状の樹脂(ペレット)を加熱して溶かし、金属の金型の中に高い圧力で押し込み、冷やして固めてから取り出す。この1回を、機械が自動で何度も繰り返します(射出成形の技術解説サイト各社の説明より)。

私はキーボードだけはメカニカルの茶軸にこだわっていますが、手元のプラスチック部品がどうやってこの形になったのかは、考えたことがありませんでした。調べる前の私のイメージは「溶かして型に流し込むだけ」です。この記事では、成形機メーカーや部品商社が公開している技術解説を読み比べて、仕組みを順番に確かめます。

  • 射出成形は、溶かした樹脂を金型に高い圧力で押し込み、冷やして固める加工法
  • カギは「押し込んだあとも押さえ続ける」保圧。樹脂は冷えると縮むから
  • 射出圧力の目安は50〜200MPa程度。技術解説にある目安の数字
  • ヒケ・ボイド・ウェルドラインなどの不良は、温度・圧力・時間のずれから起きる

射出成形とは何か

射出成形機が並ぶプラスチック成形工場の内部
Photo by RPWORLD on Unsplash

射出成形は、プラスチック原料を加熱して溶かし、金型に圧入して冷却・固化させることで製品を作る加工法です。射出成形機は、原料を入れるホッパー、原料を加熱して混ぜながら送り出すスクリュー、スクリューを包む加熱シリンダー、溶けた樹脂を金型へ送り出すノズル、射出の高い圧力に負けないよう金型を閉じておく型締め装置、そして製品の形を決める金型で構成されています。原料の樹脂そのものがどう作られるかは、プラスチック製造の仕組みで書いています。

最大の強みは、同じ形の製品を短い時間で大量に作れることです。反対に、金型の製作費用が高いため、少ない数だけを作るのには向いていません(吉田SKT「射出成形とは?」)。

「1872年に発明」の先にある話

射出成形の始まりとしてよく挙がるのは1872年です。技術解説サイト「プラスチックス・ジャパン・ドットコム」によると、この年に米国のハイアット(J.W. Hyatt)がセルロイドの加工用にプランジャー式の射出成形機を開発しています。ただ、実用的な射出成形機が出てくるのはその後で、1926年にドイツのエッケルト・ツィーグラー、1931年に米国のHPMが開発し、1933年にはドイツのフランツ・ブラウンが横型のプランジャー式成形機を市販しています。

いまの主流であるスクリュー式については、米国で1946年にヘンドリー(J.W. Hendry)が開発したとされ、1952年には米国のウィラートがスクリュー式射出成形機を実用化した、と同サイトは書いています。日本では1950年代から射出成形技術の導入が始まり、高度経済成長期に急速に広まりました(吉田SKT)。

「1872年に発明され、1946年に完成した」と一直線にまとめたくなりますが、実際にはいくつもの国で何十年もかけて改良が重なっています。

1回分の成形は7つの工程

射出成形の1サイクル

型締め
→
射出
→
保圧
→
冷却(この間に次の分を可塑化)
→
型開き
→
取り出し

射出成形の専門サイト(injection-molding.jp)は、1回分の成形を次の順番で説明しています。

  1. 型締め:金型を閉じて、しっかり密着させる
  2. 射出:溶けた樹脂を、速度を調整しながら圧力をかけて金型の中に注入する
  3. 保圧:樹脂に一定の圧力をかけ続け、縮みながら冷えていく成形品に、溶けた樹脂を少しずつ補充する
  4. 冷却:樹脂が固まるまで、圧力をかけたまま金型の中で冷やす
  5. 可塑化:ペレットを加熱シリンダーの中で200〜300℃に加熱して溶かし、次の成形のために溜めておく
  6. 型開き:金型を開く
  7. 取り出し:突き出し装置(エジェクターピン)で成形品を押し出す。傷がつかないよう、通常は自動の取り出しロボットなどを使う

意外だったのは、可塑化(次の1回分を溶かしておくこと)が、冷却のあとに並んでいることでした。今の1個を金型の中で冷やしている間に、スクリューはもう次の1個分の樹脂を溶かして前に溜めています。待ち時間を作らないための並べ方です。

「流し込む」のではなく「押し込んで押さえ続ける」

調べる前の私は、射出成形を「溶かしたプラスチックを型に流し込むもの」だと思っていました。工程を並べてみると、この言い方がずれていたことに気づきます。樹脂は冷えると縮みます。だから、型を満たしたあとも圧力をかけ続けて、縮んだ分を補わないと、表面がへこんだり中に空洞ができたりします。これが保圧です。

射出成形でいちばん大事なのは「入れること」ではなく「固まるまで押さえ続けること」でした。間違っていたのは、流し込むという動詞のほうです。

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品質を決める成形条件の数字

同じ金型と同じ材料を使っても、温度・圧力・時間の設定しだいで出来が変わります。部品商社ミスミの技術解説(meviy)は、代表的な条件の目安を次のように挙げています。

条件 目安 ずれると起きること
シリンダー温度 一般的に200〜300℃程度(材料で異なる) 低すぎると溶け残りで充填不足、高すぎると樹脂が熱分解
金型温度 15〜90℃ 冷える速さが変わり、外観や寸法の精度に影響
射出圧力 一般に50〜200MPa程度 低いと樹脂が奥まで届かない(ショートショット)、高いとバリや型開き
保圧力 射出圧力の50〜80%程度 ヒケやボイドを防ぐ。高すぎると詰め込みすぎや内部のひずみ
保圧時間 5〜30秒程度 長すぎると1回の成形時間が延びる
スクリュー回転数 一般に50〜120rpm程度 遅いと溶け方が足りず、速いと摩擦熱で樹脂や繊維が傷む

出典:ミスミ meviy「射出成形を徹底解説!成形条件や材料をわかりやすく紹介」

200MPaはどれくらいの力か

数字だけでは想像しにくいので、単位を直してみました。1MPaはおよそ1cm²あたり10.2kgの力なので、200MPaは1cm²あたり約2,040kgです(200×10.2で計算)。……1cm角の面に、約2トン。

これだけの圧力で押し込むので、金型は型締め装置で強く閉じておかないと開いてしまいます。技術解説には、型を閉じる力が足りないとバリの原因になり、逆に強すぎると金型を変形させることがある、とも書かれています。

金型の仕組み

旋盤で金属を精密に加工している様子
Photo by Sven Daniel on Unsplash

製品の形を決めるのは金型です。吉田SKTの解説によると、射出成形の金型は主に次の部分でできています。

  • キャビティ:製品の外形を作るへこんだ部分
  • コア:製品の内側を作る出っ張った部分
  • パーティングライン:キャビティとコアの境目
  • スプルー:ノズルから溶けた樹脂が最初に流れ込む部分
  • ランナー:溶けた樹脂が流れる通り道
  • ゲート:樹脂が製品の空間に流れ込む入口

金型には、2枚の型板でできた最も一般的な「ツープレート金型」、3枚の型板でランナーを自動で切り離せる「スリープレート金型」、ランナーを加熱して固まらないようにする「ホットランナー金型」などの種類があります。

金型が決める制約

金型から製品を抜き取るために、製品の側面にはわずかな傾き(抜き勾配)が必要で、これが設計の制約になります。スプルーやランナーの中で固まった樹脂は製品にならないので、材料の無駄も出ます。そして金型の製作費用が高いので、少量生産には向きません(吉田SKT)。大量に作るほど1個あたりの金型代が下がる、という構造です。

不良品が生まれる仕組み

ミスミの技術解説(meviy)は、保圧から冷却の段階で起きやすい不良として次のようなものを挙げています。

ヒケ

凸形状の裏側などで、部品の表面が本来の形よりへこむ不良です。冷えるときに樹脂が縮むことで起きます。保圧が足りない、金型の温度が高い、などが原因で、保圧を高くしたり、凸形状の根元に丸み(隅R)をつけて段差をゆるやかにしたりして防ぎます。

ボイド(巣)

樹脂の中に空洞(巣)ができる不良です。ヒケと同じく、冷えて縮むことが関係しています。表面がへこむか、中に穴が残るかの違い、と考えると分かりやすくなります。

ウェルドライン

穴のまわりなどで、いったん分かれた樹脂の流れが再び合流する場所にできる線です。技術解説によると、合流する時点で樹脂の温度が十分なら見た目に線が出るだけですが、流れの先端の温度が下がっていると、うまく融合せずに強度が落ちます。

ショートショットとバリ

射出の圧力が低いと、樹脂が金型の奥まで届かないまま固まり、形の一部が欠けます(ショートショット)。逆に圧力が高すぎたり、型を閉じる力が足りなかったりすると、合わせ目から樹脂がはみ出して、薄いひれのような突起(バリ)ができます。不良の多くは、先ほどの条件表の数字が、どちらかにずれたときに起きています。

よくある誤解

誤解1「型に流し込めば、あとは固まるのを待つだけ」

流し込んだあとが本番です。樹脂は冷えると縮むので、固まるまで保圧をかけ続けて、縮んだ分を補います。保圧が足りないと、表面がへこむヒケや、中に空洞ができるボイドの原因になります。

誤解2「金型さえあれば、どんな形でも作れる」

金型から抜き取るための傾き(抜き勾配)が必要で、設計には制約があります。形によっては、そのままでは型から抜けません。

誤解3「射出成形は少量でも安く作れる」

逆です。金型の製作費用が高いので、少ない数だけを作ると1個あたりの費用が高くなります。射出成形がいちばん力を発揮するのは、同じ形を大量に作るときです。

まとめ:2026年9月時点の射出成形の仕組み

射出成形は、溶かした樹脂を金型に高い圧力で押し込み、冷えて縮む分を保圧で補いながら固め、取り出す加工法です。1回の成形は、型締め・射出・保圧・冷却・可塑化・型開き・取り出しの流れで、冷やしている間に次の1回分を溶かして溜めておきます。

数字で見ると、シリンダー温度は一般的に200〜300℃程度、射出圧力は50〜200MPa程度が目安です。自分で単位を直してみると、200MPaは1cm²あたり約2トンの力でした。

「流し込むだけ」だと思っていた私にとって、いちばん印象に残ったのは、押し込んだあとも押さえ続ける保圧でした。成形条件の目安は材料や製品で変わるので、実際の設計や発注では、材料メーカーや成形メーカーの最新の資料を確認してください。

📊 「射出成形の仕組み|溶かした樹脂を押し込み、固まるまで押さえ続ける理由」はこんな人に読まれています

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。