緊急地震速報はどうやって揺れる前に鳴るのか|P波検知から警報発報までの仕組み

緊急地震速報は、地震を予知しているわけではありません。震源の近くで先に届いた小さな揺れ(P波)を地震計がとらえ、気象庁のシステムが数秒で震源や揺れの強さを計算し、強い揺れ(S波)がまだ届いていない場所へ電気信号で知らせています。地震波の速さは秒速数km、電気信号は秒速約30万km。この速さの差が、あの警告音から揺れまでの時間を生んでいます(気象庁「緊急地震速報のしくみ」)。

2004年10月23日の新潟県中越地震のとき、私は長岡の小学3年生でした。長岡市は震度6強を観測した地震です。あの日の揺れは今も覚えています。一般向けの緊急地震速報(警報)が始まったのは、その3年後の平成19年10月1日でした。

私は長いあいだ、緊急地震速報は揺れを先回りして「予測」する高度な仕組みだと思っていました。この記事では、気象庁と消防庁の公開資料だけを使って、鳴るまでの流れを順番に確かめます。途中で、その思い込みがどうなったかも書きます。

  • 緊急地震速報は予知ではなく、先に届いたP波を電気信号で追い越して知らせる仕組み
  • P波は秒速約7km、S波は秒速約4km。この差が猶予を生む
  • 震源から100km離れていても、P波とS波の到達の差は約11秒(自分で計算)
  • 解析と伝達に数秒かかるため、震源に近い場所では原理的に間に合わないことがある

緊急地震速報とは何か——Jアラートとの違い

通知が表示されたスマートフォンを手に持っている様子
Photo by Jamie Street on Unsplash

緊急地震速報には「警報」と「予報」の2種類があります。テレビやスマートフォンで私たちが目にするのは、主に「警報」のほうです。

警報が出る条件

気象庁によると、緊急地震速報(警報)は、地震波が2点以上の地震観測点で観測され、最大震度が5弱以上、または最大長周期地震動階級が3以上と予想されたときに発表されます。警報のうち、震度6弱以上、または長周期地震動階級4が予想される場合は「特別警報」に位置づけられています(震度の基準は平成25年8月30日から、長周期地震動階級4は令和5年2月1日から)。

Jアラートは「届ける仕組み」

名前が似ていて混ざりやすいのがJアラートです。消防庁の説明では、Jアラート(全国瞬時警報システム)は、弾道ミサイル情報、緊急地震速報、大津波警報など、対処に時間的余裕のない情報を、緊急速報メールや市町村の防災行政無線などを通じて、国から住民まで瞬時に伝えるシステムです。特に急ぐ情報は、市町村の防災行政無線を自動で起動させます。

つまり、緊急地震速報は気象庁が出す「情報の中身」で、Jアラートはそれを含む緊急情報を住民まで「届ける仕組み」のひとつです。

P波とS波——速さの差がすべての出発点

地震が起きると、揺れは波になって地中を伝わっていきます。気象庁の説明では、地震波には主に2種類あり、速いP波と、それより遅いけれど揺れの強いS波があります。地震が起きる仕組みそのものとは別に、緊急地震速報はこの2つの波の「速さの差」だけを使っています。

波 伝わる速さ(気象庁) 揺れ
P波 秒速約7km 先に届く・比較的小さい
S波 秒速約4km あとから届く・揺れが強い

出典:気象庁「緊急地震速報のしくみ」。実際の速さは地下の構造によって変わります。

震源からの距離ごとに計算してみた

速さが分かれば、震源から何km離れた場所で、P波とS波の到着に何秒の差ができるかを計算できます。ここは実際に計算しました。

震源からの距離 P波が届くまで S波が届くまで 差
20km 約2.9秒 約5.0秒 約2.1秒
30km 約4.3秒 約7.5秒 約3.2秒
50km 約7.1秒 約12.5秒 約5.4秒
100km 約14.3秒 約25.0秒 約10.7秒
200km 約28.6秒 約50.0秒 約21.4秒

計算:到着までの時間=距離÷速さ(P波は秒速7km、S波は秒速4kmとして計算)。差=S波の時間−P波の時間。

100km離れていても、差は約11秒です。しかもこの11秒は「P波が届いてからS波が届くまで」の時間で、ここから地震計の検知、計算、配信、スマートフォンに届くまでの時間が引かれます。……思っていたより、ずっと短い。

緊急地震速報が鳴ったとき、すぐに行動できると思いますか?

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鳴るまでの流れ——予知ではなく伝言リレー

技術者がポータブル計測機器でデータをモニタリングする様子
Photo by Mohanad Fors on Unsplash

気象庁の説明を順番に並べると、緊急地震速報の流れは次のとおりです。

  1. 地震が起きて、震源付近の地震計がP波を検知する
  2. 地震計のデータが気象庁に送られ、震源、地震の規模、予測される揺れの強さを計算する
  3. 計算した規模や予測震度が発表基準に達すると、警報や予報を発表する
  4. テレビ・ラジオ・携帯電話などを通じて、S波がまだ届いていない場所へ伝わる

気象庁は、これらの処理は全て自動で瞬時に行われると説明しています。人が判断してボタンを押しているわけではありません。

地震波より電気信号のほうが圧倒的に速い

気象庁の資料には、この仕組みの核がそのまま書かれています。地震波が伝わる速さは秒速数km程度。一方、情報を伝える有線・無線の電気信号は、原理的には光の速度(約30万km/秒)で伝わる。だから、震源の近くの地震計で揺れをとらえ、それを電気信号で気象庁に送り、地震波が伝わってくる前に「これから揺れる」と伝えることができる。

ここで、冒頭の思い込みがひっくり返りました。緊急地震速報は、まだ起きていない揺れを占っているのではありません。先に揺れた場所から、まだ揺れていない場所へ、揺れより速く伝言を走らせているだけです。間違っていたのは仕組みの難しさの見積もりではなく、私の「予知」という言葉の選び方でした。

地震計は気象庁と防災科研の両方

気象庁によると、緊急地震速報には全国約690か所の気象庁の地震計・震度計に加え、防災科学技術研究所の地震観測網(全国約1,000か所)を利用しています(令和8年3月12日現在)。観測点が多いほど、地震が起きたことを素早くとらえられます。

少ない観測点から素早く震源を割り出すために、1つの観測点のP波のデータから震源やマグニチュードを推定する手法も使われています。さらに、巨大地震でも精度良く震度を求めるための「PLUM法」という予測手法も導入されています。

震源に近いと間に合わない理由

気象庁は、解析や伝達に一定の時間(数秒程度)がかかるため、内陸の浅い場所で地震が起きた場合などは、震源に近い場所への緊急地震速報が強い揺れの到達に原理的に間に合わない、と明記しています。

先ほど自分で計算した表と並べると、理由がよく分かります。震源から30kmの場所では、P波とS波の差は約3.2秒しかありません。計算と伝達に数秒かかれば、その差はほとんど残りません。震源のすぐ近くでは、警告音と揺れがほぼ同時か、揺れのほうが先に来ることがあるのはこのためです。

逆に言えば、「鳴らなかった」「鳴ったときにはもう揺れていた」という経験は、仕組みが壊れていたというより、震源との距離の問題であることが多いということです。

2025年の警報は13回——一覧を数えてみた

気象庁は、これまでに発表した緊急地震速報(警報)を一覧で公開しています。発生日時、震央、マグニチュード、そして実際に観測された最大震度が並んでいます。この一覧を、年ごとに数えてみました。

年 警報の回数 観測された最大震度が4以下だった回
2024年 33回 10回
2025年 13回 6回

集計:気象庁「緊急地震速報(警報)発表状況」の一覧(特別警報を含む)から、発生日が2024年・2025年の行を数えた(2026年9月時点で掲載されているもの)。

警報は「最大震度5弱以上」を予想したときに出るものです。2025年の13回のうち6回は、実際に観測された最大震度が4以下でした。半分近くは、予想より小さく済んだことになります。

「また外れた」と言いたくなる日もあると思います。外れる警報は迷惑です。迷惑。でも、気象庁の説明を読むと、この仕組みは「予想が下がったら取り消す」作りになっていません。取り消すのは、落雷など地震以外の現象を地震と誤認した誤報だけで、震度5弱の予想が震度3以下の予想に変わったような場合は取り消さないとされています。鳴ったあとに揺れが小さかったのは、仕組みが慌てたからではなく、予想より小さく済んだということです。私はこの13回と6回を、外れの多さではなく、警報の性格として読んでいます。

鳴ったら何をするか——気象庁の手引き

気象庁は、緊急地震速報を見聞きしてから強い揺れが来るまでの時間は数秒から数十秒しかないとして、場面ごとの行動の例を示しています。基本は「周囲の状況に応じて、あわてずに、まず身の安全を確保する」ことです。

場面 気象庁が示している行動
家庭 頭を保護し、丈夫な机の下など安全な場所に避難する。あわてて外に飛び出さない。無理に火を消そうとしない
人が大勢いる施設 係員の指示に従う。あわてて出口に走り出さない
自動車の運転中 あわててスピードを落とさない。ハザードランプを点灯して周りに注意を促す。急ブレーキはかけず緩やかに減速し、大きな揺れを感じたら道路の左側に停止する
鉄道・バス つり革や手すりにしっかりつかまる
エレベーター 最寄りの階で停止させて、すぐに降りる
街中 ブロック塀の倒壊、看板や割れたガラスの落下に注意する。丈夫なビルのそばなら、ビルの中に避難する
山やがけの付近 落石やがけ崩れに注意する

出典:気象庁「緊急地震速報を見聞きしたときは」

「地震が来たら、まず火を消す」と覚えている人もいると思います。気象庁の手引きは逆で、無理に火を消そうとしないように書かれています。数秒しかない場面で優先するのは、火ではなく頭です。

気象庁は、警告音をすぐに聞き分けられるように、報知音を覚えておくことも勧めています。

よくある誤解

誤解1「緊急地震速報は地震を予知している」

予知ではありません。すでに起きた地震のP波を震源の近くでとらえ、S波が届く前に知らせています。揺れより速い電気信号で伝言を先回りさせている、というのが正確なイメージです。

誤解2「予想より揺れが小さければ、取り消される」

気象庁は、取り消すのは落雷など地震以外の現象を地震と誤認した誤報だけとしています。震度の予想が下がっただけでは取り消されません。

誤解3「震源の近くでも、鳴れば必ず間に合う」

間に合わないことがあります。解析と伝達に数秒かかるため、内陸の浅い地震などでは、震源に近い場所で警報が強い揺れに原理的に間に合わない場合があると気象庁は説明しています。

まとめ:2026年9月時点の緊急地震速報

緊急地震速報は、先に届くP波を地震計がとらえ、気象庁のシステムが自動で計算し、揺れより速い電気信号で「これから揺れる」と伝える仕組みです。予知ではなく、伝言リレーです。

自分で計算してみると、震源から100km離れていても、P波とS波の差は約11秒でした。そこから計算と伝達の時間が引かれます。気象庁の一覧を数えると、2025年の警報は13回で、そのうち6回は実際の最大震度が4以下でした。

長岡の揺れを覚えている私にとって、11秒は短いけれど、ゼロではありません。机の下に入るには十分な時間です。揺れのあとに地面で起きることについては、液状化現象の仕組みと対策で書きました。最新の発表基準や行動の手引きは、気象庁の公式サイトで確認してください。

📊 「緊急地震速報はどうやって揺れる前に鳴るのか|P波検知から警報発報までの仕組み」はこんな人に読まれています

2026年9月24日 〜 2026年10月24日
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この記事について

この記事は緊急地震速報の仕組みについての一般的な情報提供を目的としています。実際の避難行動は、気象庁・消防庁・お住まいの自治体の最新の情報に従ってください。地域ごとのハザードマップや避難情報は自治体の公式サイトでご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。