Suicaのペンギンはなぜ飛べないのに泳げるのか|翼と骨の仕組みと27.6分の潜水記録を資料で確かめる

Suicaのペンギンが2026年度末に「卒業」すると、JR東日本が2025年11月に発表しました。ペンギンは2001年のSuica導入から使われてきたキャラクターです。毎朝の中央線で改札にかざしてきた私は、卒業と聞いて急に、ペンギンのことをよく知らない自分に気づきました。鳥なのに飛べず、なぜか泳ぎは上手です。この記事では、仙台市八木山動物公園の解説、国際的な骨の研究、東京大学の潜水記録を読み比べて、ペンギンの翼と骨の仕組みを整理します。2026年10月時点の内容です。

  • ペンギンは飛べなくなったのではなく、翼を水中で使うように変わった鳥です
  • 翼は太く短く、骨は空洞が小さく詰まっていて、体は重くなっています
  • 東京大学の記録では、エンペラーペンギンは27.6分の潜水を行いました
  • 長く潜れるのは、潜る深さに合わせて空気の量を調節しているためと考えられています
目次

ペンギンは飛ぶのをやめて、水中に特化した鳥です

「飛べない」と聞くと、できなくなったことに目が行きます。まず、資料がどう説明しているかを確認します。

祖先は飛べて、水にも潜れたと考えられています

仙台市八木山動物公園の「教えて!飼育員さん!」では、ペンギンの祖先は海辺で暮らす鳥で、空を飛ぶことも、水面に浮かぶことも、水中に潜ることもできたと考えられている、と説明しています。同じ暮らしをする種が増えると、すみかや食べ物の取り合いになります。そこで、それぞれの種が生き残る工夫をしてきました。ペンギンの場合は、それが「水中に特化する」という工夫だった、というのが飼育員さんの答えです。

私は、ペンギンは進化の途中で飛べなくなった鳥だと思っていました。資料を読むと、飛ぶ能力を失った話というより、使い道を水中に絞った話でした。

Suicaのペンギンの卒業は、2026年度末です

きっかけになった報道も整理します。秋田魁新報が配信した共同通信の記事によると、JR東日本は2025年11月11日に、Suicaのペンギンを2026年度末に卒業させると発表しました。Suicaの機能を2026年秋から充実させるため、新しいキャラクターに交代するという説明です。Suicaの仕組みそのものは、交通系ICカードの記事で書きました。この記事では、キャラクターではなく、ペンギンという鳥のほうを扱います。

翼は太く短く、水をかくために作り変わっています

水中を泳ぐペンギン。翼は太く短く、水をかくために作り変わっています
Photo by fan yang on Unsplash

ペンギンの翼は、遠くから見ると小さな腕のようです。仙台市の解説にある特徴を表にします。

空を飛ぶ鳥の翼と、ペンギンの翼を比べます

部分 空を飛ぶ鳥 ペンギン
翼 長い羽が生えている 長い羽が生えていない。太く短く頑丈
脚 資料に比較の記載なし 水かきがついている
体の重さ 軽くするための構造が必要 その必要がなく、重い体で潜れる
※仙台市八木山動物公園「教えて!飼育員さん!」より作成

表のとおり、飛ぶための条件を満たす必要がなくなったことが、体の作りを変える自由につながっています。同じ資料は、皮下脂肪を蓄えることで寒い地域でも暮らせる、とも書いています。

水中では、翼を羽ばたかせて進みます

学術誌Physics of Fluidsに2023年に載った研究は、ペンギンの翼の水中での動きを調べています。報道によると、ペンギンは水中で揚力を使った羽ばたきで進み、翼の角度を細かく変える「フェザリング」で推進力を得ている、という結論です。南極周辺にすむジェンツーペンギンは、水中で最高時速35kmに達するとされています。

空で羽ばたく代わりに、水の中で羽ばたいているわけです。飛ぶのをやめたというより、飛ぶ場所が空から水に変わったという言い方のほうが、資料の内容に合っていると私は感じました。

水族館や動物園で、ペンギンを見たことはありますか?

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骨は空洞が小さく、中身が詰まっています

鳥の骨は軽いと習った人は多いと思います。ペンギンはその逆で、翼の骨が詰まっています。

空を飛ぶ鳥の上腕骨は空洞で、ペンギンは密です

研究者らがJournal of Anatomyで発表した骨の組織の研究は、現生のペンギンと化石のペンギンの骨を調べています。調べたのは現生2種類と化石8標本です。論文は、一般的な鳥に見られる空洞の上腕骨から、ペンギンの密な上腕骨(骨が詰まった状態)に変わったと説明しています。変化は二つの段階に分けられています。

  • 一つ目は、骨の中心の空洞(髄腔)が小さくなったことです
  • 二つ目は、骨の内側の組織が圧縮され、骨の壁が詰まったことです

論文は、ペンギンの骨が重いのは内側の組織が圧縮されたことによる、としています。

骨の変化は、飛べなくなったあとも続きました

同じ論文によると、上腕骨の変化は、飛ぶ能力を失ってからも、化石の時代をまたいで長く続いていました。飛べなくなった時点で骨がすぐに完成したわけではないことになります。

なぜ詰まった骨になったのかという理由については、今回読んだ資料では確かめきれませんでした。「骨が重いから潜りやすい」と言い切らず、資料が書いている範囲にとどめます。

水中で長く息を止める記録と、その仕組みです

泳ぎが上手なだけでなく、ペンギンは長く潜ります。東京大学の資料に、野外で記録された数字があります。

東京大学の記録では、27.6分の潜水が確認されています

東京大学大気海洋研究所の佐藤克文准教授らの研究では、体重27.5kgのエンペラーペンギンが27.6分間の潜水を行いました。資料は、鳥類の潜水時間として最長の記録としています。調べたペンギンは10羽で、最大深度は358mから514mでした。

最大深度の幅は、514−358=156mです。潜水の最長時間27.6分を、エンペラーペンギンが血液中の乳酸を急に増やし始める目安の5.6分で割ると、27.6÷5.6≒4.9倍です。

5.6分を過ぎると乳酸が増えるのに、潜り続けています

肺で呼吸する動物は、息を止めている間、潜る前に体内に蓄えた酸素を使います。酸素が足りなくなると、酸素を使わない方法でもエネルギーを作りますが、この方法は効率が悪く、乳酸という物質が増えます。資料は、過去の実験で潜水が5.6分を超えると血液中の乳酸が急に増えることが分かっていて、この限界を「有酸素潜水限界(ADL)」と呼ぶ、と説明しています。運動で息が上がる仕組みと似た話で、有酸素運動と無酸素運動の違いの記事で書いています。

ところが野外では、5.6分を超える潜水が全体の10.1%あり、実験の環境でも12.6%ありました。長く潜った直後に、水面で長く休むとは限らなかったことも、資料は意外な点として挙げています。

潜る深さに合わせて、吸う空気の量を調節しているようです

資料によると、ペンギンは深く潜る前ほど、多くの空気を吸い込んでいたと考えられています。浮上の途中で翼の動きを止め、滑空するように水面へ上がる行動も確認されています。この間の泳ぐ速さの変化から、体内に保持している空気量が推定されました。

体内に蓄える酸素の総量は、肺・血液・筋肉の合計で、1kgあたり58mlから68mlまで増えたと推定されています。ただし、250mまでは深く潜るほど吸い込む空気の量が増えたのに、それより深くなると推定の空気量が減ったとも書かれています。なぜ減るのかは、資料では「今後の課題」にされています。

酸素の増え方は、68−58=10mlで、58mlに対して10÷58≒17%です。

潜水記録の数字が資料で違うのは、調べた個体と方法が違うためです

ほかの資料を見ると、数字が少しずつ異なります。オーストラリア南極局は、エンペラーペンギンの最深記録を565mとし、ほとんどの潜水は100〜200m、潜水時間は平均で3〜6分、最長は22分と紹介しています。東京大学の記録(27.6分)と、オーストラリア南極局の記録(22分)の間にも差があります。

数字の違いは、記録した個体や研究の方法が違うために起きていると考えられます。最長時間を書くときは、27.6分は東京大学の資料、22分はオーストラリア南極局の資料、のように出どころを分けて読む必要があります。

飛べなくなって得たものと、まだ分からない点です

ここまでの内容には、確かめられない部分もあります。注意点を三つ整理します。

骨が詰まった理由は、今回の資料では確かめられていません

骨の構造がどう変わったかは論文に書かれています。一方で、その変化が潜水にどう役立つのかは、今回読んだ資料の範囲では数字で確かめられませんでした。資料に書かれていることと、書かれていないことを分けて読むほうが安全です。

250mより深い潜水の空気の量は、まだ分かっていません

東京大学の資料は、250mを超えると推定の空気量が減る理由について、今後の課題としています。「深く潜るほど空気を多く吸う」とだけ覚えると、500m近い潜水の説明には合わなくなります。

長く潜ったあとは、長い休息が必要でした

27.6分の潜水のあと、ペンギンは腹ばいで5.9分間の深呼吸をし、立った状態で20分間休んでから歩き始めました。次の潜水が始まったのは8.4時間後です。資料は、体内にたまった乳酸が解消されるのに長い休息が必要だったのだろう、と推測しています。

深呼吸と休息の合計は、5.9+20=25.9分です。8.4時間は、8.4×60=504分です。

水族館でペンギンを見るときの判断のポイント

翼を広げて歩くペンギン。水族館では翼の動きと体の太さを見ます
Photo by Cornelius Ventures on Unsplash

資料で確かめた内容を、見学のときに使える形にします。見て確かめられることに絞ります。

水中を泳ぐ場面では、翼の動きを見ます

水中を飛ぶように泳いでいる場面では、翼を細かく動かして進んでいるかを見ます。翼が小さく見えても、水中では推進力を作る部分です。

体の太さを見ます

空を飛ぶ鳥と比べて、ペンギンの体はずんぐりしています。骨が詰まり、体が重いことと関係があると資料は説明しますが、見た目だけで骨の中身は分かりません。

浮上のときに翼を止めるかを見ます

大型のペンギンでは、浮上の途中で翼の動きを止め、滑るように水面へ向かう行動が記録されています。水槽でもそのような動きが見られるか、確かめてみるのも一つの見方です。

ペンギンについてのよくある誤解

飛べないのは、進化が足りないからですか

いいえ。仙台市の解説は、ペンギンが水中に特化する工夫をしたと説明しています。飛べなくなったのは、水中で暮らす道を選んだ結果です。

詰まった骨は、病気や異常ですか

いいえ。Journal of Anatomyの研究は、空洞の骨から密な骨への変化を、ペンギンの進化の過程で起きた変化として説明しています。

長く潜れるのは、肺が大きいからだけですか

肺だけではありません。東京大学の資料では、潜る深さに合わせて吸い込む空気の量を変え、体内に蓄える酸素の総量も増やしていると推定されています。

まとめ:ペンギンの翼と骨を知ると、水族館の見え方が変わります

ペンギンは、飛ぶ能力を捨てて、水中で使う体に変わった鳥です。翼は太く短く、骨は詰まり、体は重く、そのぶん深く長く潜れます。東京大学の記録では、エンペラーペンギンが27.6分潜りました。一方で、骨が重い理由や、250mより深い潜水の仕組みには、まだ分からない点が残っています。

Suicaのペンギンの卒業は、2026年度末の予定です。改札で見かける機会が少なくなる前に、水族館などで本物の翼の動きを一度見ておくのも、判断の材料になると思います。最新の発表内容はJR東日本の公式情報でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。