COP31の温暖化会議はなぜ全会一致で決まるのか|多数決の規則が決まらないまま続く理由

COPの決定は、多数決ではなく「異議なし」で決まります。参加国が1か国でも反対を述べれば、議長は原則として採択に進めません。条約には「全会一致で決める」と書いてあるわけではなく、多数決のルールを決められなかった結果として、全会一致が続いているのが実情です。今日のニュース一覧には「高市首相、COP31欠席へ」という見出しが出ていました。首相の出欠は私が一次情報で確認できていないので、この記事では扱いません。まもなく始まるCOP31(国連の温暖化会議)で何がどう決まるのかを、気候変動枠組条約の条文、国連気候変動枠組条約事務局の資料、カーボン・ブリーフの解説、クライメート・ホーム・ニュースの報道で確かめました。2026年11月時点の内容です。

  • COPを毎年開くのは、気候変動枠組条約の第7条4項が決めているからです
  • 決定の規則は草案のままで、多数決を定めた規則42だけは30年近く適用されていません
  • 議長は「異議なし」と宣言して木槌を下ろしますが、押し切られた国が出た年もあります
  • COP31は、開催国トルコと交渉議長オーストラリアが分担する異例の形です
目次

COPの決定は多数決ではなく「異議なし」で決まる

私は、国連の会議なら最後は票を数えて決めるものだと思い込んでいました。条文を読み直すと、COPの決め方はその想像と違いました。

毎年開くのは条約の第7条4項が決めている

気候変動枠組条約の第7条は、締約国会議(COP)を条約の最高機関と位置づけています。国連全体の仕組みは国連の6つの主要機関を扱った記事で書いていますが、COPは国連総会や安保理とは別の、条約ごとの会議です。同じ条の4項は、最初の会合を条約の発効から1年以内に開き、その後の通常会合は、COP自身が別に決めない限り毎年開くと定めています。毎年開かれているのは、この条文が理由です。

全会一致と書いてあるのは、規則を決めるときだけです

条約の第7条2項(k)は、COPが自分の議事規則と財政規則を、コンセンサス(全会一致に近い合意)で採択するよう定めています。ここで書かれているのは、規則を決める手続きのほうです。毎回の決定を全会一致で行え、という条文ではありません。

では、なぜ実際の決定が全会一致になっているのでしょうか。次の章で書くとおり、多数決の規則そのものが決まっていないためです。カーボン・ブリーフに寄稿した研究者のジョアンナ・デプレッジ氏は、全会一致は設計されたものではなく、決められなかったことの結果としてのデフォルトだと説明しています。

見出しの熱と、決め方の冷たさ

「首相欠席」のような見出しは、誰が来るかに目が向きます。温暖化そのものの仕組みは地球温暖化の原因を整理した記事に書きました。ただ、決定文書が採択されるかどうかを左右するのは、出席者の肩書きより「異議を述べる国が出るか」のほうです。見出しの温度と決め方の温度は別のものだと、私はこの条文を読んで考えを改めました。

1995年のベルリンで、規則だけが決まらなかった

各国の旗が並ぶ多国間会議の議場(欧州議会の議場)。COPでも多くの国の代表が同じ議場で決定を採択します
Photo by Nico Ruge on Unsplash

気候変動枠組条約は1992年に署名され、1994年に発効しました。最初のCOPは1995年のベルリンで開かれ、議事規則の採択はその最初の仕事でした。結果は採択できないまま、今に至っています。

草案の規則42には、最後の手段としての多数決が入っていた

デプレッジ氏の解説によると、事務局が用意した草案は、国連の通常の作法に沿っていました。基本は全会一致で決め、あらゆる努力をしても合意できないときの最後の手段として、3分の2の多数決を使えるという内容です。これが草案の規則42で、条約の交渉中も同じ仕組みが置かれていましたが、使われたことはなかったそうです。

石油輸出国は、最後の手段としての多数決も入れないよう求めた

ベルリンのCOP1に向けて、サウジアラビアやクウェートなどの石油輸出国機構(OPEC)の加盟国が、最後の手段としての多数決そのものを入れず、実質的な決定は全会一致だけにするよう主張しました。この主張の背景には、新しい議定書で排出量の削減が強まる前に、決定の入口を狭くしておく狙いがあったと、デプレッジ氏は書いています。解説は、米国のロビイストが助言していたという経緯にも触れています。

資金に関する決定の扱いでも対立がありました。米国やフランスなどの資金を出す国は資金の決定も全会一致を求め、途上国は票決を望みました。OPEC側が「全部の決定を4分の3の多数決で」と逆提案したことも重なり、規則42は決着しませんでした。

決まらなかった規則は、そのまま使われ続けている

解説が書かれた時点で、規則全体は30年近く草案のままです。それでも毎回のCOPで、規則42を除いた草案が、採択されたものとして適用されています。規則42には、全会一致とするか、全会一致に3分の2の最後の手段を足すかという2つの案が、カッコつきで並んだままです。多数決のルールが無いので、決定は全会一致になります。

COP1で票を数えたのは、事務局の場所を選んだときだけです

同じ解説によると、COP1で代表団が実際に票を投じたのは、条約事務局の所在地を決めたときだけでした。会議では「非公式の秘密の意向調査」という名前にして、3回の投票でモンテビデオ、トロント、ジュネーブの順に落とし、ボン(ドイツ)が残りました。規則の議論に触れないための言い換えでしたが、結果として事務局はボンに置かれています。

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議長の「異議なし」と木槌で、決定が成立する

木製の議事用の木槌。COPの議長は「異議なし、そう決まりました」と宣言して木槌を下ろします
Photo by Wesley Tingey on Unsplash

全会一致の実際の作業は、拍手や投票ではありません。議長が全体会合で提案を示し、異議がないかを確かめます。

コンセンサスには、定まった定義がありません

デプレッジ氏によると、気候変動の交渉では、コンセンサスの定義が決まっていません。国連の通例では「述べられた異議が無いこと」を指し、2017年の議長向けの手引きにも同じ趣旨が書かれています。議長が決定を採択するとき、木槌を下ろして「異議はありません、そう決まりました」と宣言する習わしも、この理解から来ています。

異議が出たとき、議長ができること・できないこと

国連気候変動枠組条約事務局の議長向け研修資料は、異議が残ったままなら議長は採択に進めない、と書いています。議長にできるのは、異議を述べた国に取り下げを求める、会議を中断して協議する、次の会合で続きを審議すると提案する、といった手段です。資料は、合意できないことは採択にかける前から分かっていることが多いとも書いています。

決定文書が採択されるまでの流れ

議長が全体会合で決定案を示す
→
異議を述べる国がいないか確かめる
→
異議なしなら木槌を下ろして採択

異議が残る場合は、取り下げの働きかけ、会議の中断、次回会合への持ち越しが選ばれます

押し切られた年と、止まった年が、どちらもあります

デプレッジ氏の解説から、主な場面を表にしました。全会一致を厳密に守っていれば出ない結果が、いくつも出ています。

会議 起きたこと
COP15(2009年コペンハーゲン) 6か国が明確に反対を述べ、コペンハーゲン合意は正式に採択されなかった
COP16(カンクン) 議長がボリビアの異議を退け、「コンセンサスは全会一致ではない。1つの代表団に拒否権はない」と述べた
COP18(ドーハ) ロシアが発言を求めていたが、議長は京都議定書のドーハ改正を木槌で採択した
COP21(2015年パリ) 議長はニカラグアの発言要求に応じないまま、パリ協定の採択を宣言した
COP24(2018年カトヴィツェ) ロシア、サウジアラビア、米国が、IPCCの1.5度特別報告書を「歓迎する」と書くことを拒み、文章が止まった
COP26(2021年グラスゴー) 石炭の「段階的廃止」が、中国、インド、南アフリカの異議をきっかけに「段階的削減」へ変わった
※出典:カーボン・ブリーフ掲載のデプレッジ氏の解説。ドーハ、パリの記述は議長側の対応の一部を抜き出したもの

同じ全会一致の会議で、反対の声を議長が受け付けなかった年と、3か国の反対で文章が止まった年が並んでいます。結果が議長の判断に大きく左右されることが、この表から分かります。

票決で決められることも、条約には書いてある

全会一致一本、というわけでもありません。票決で決まる事項が、条約の条文と議事規則の草案に分かれて書かれています。

条約の改正は、最後の手段として4分の3の多数決を使える

条約の第15条は、条約の改正案について、まず全会一致に向けてあらゆる努力をし、それでも合意できなければ最後の手段として、出席して投票した締約国の4分の3の多数決で採択できると定めています。デプレッジ氏によれば、京都議定書とパリ協定の改正も、条約のこの規定に従います。規則42と違い、条約本体の条文なので、規則が草案のままでも有効です。

議長の判断への異議は、過半数で決められます

草案の規則34では、議長の議事運営の判断に対する異議は、単純な過半数で決められます。議長団などの役員の選挙は、規則22に当たります。ただ、COP本体で票決が行われたことは無いと、デプレッジ氏は書いています。会議の途中で議長が票決を持ち出しても、反対していた国が引き下がる例が多いそうです。

4分の3の壁を、自分で数えてみました

全員が出席して投票した場合、4分の3の多数決が何か国に当たるかを計算してみました。解説に「他の197の締約国」という記述があるので、1か国を足して198か国としています。

198か国×3÷4=148.5。149か国以上の賛成が必要です。反対が49か国なら賛成は149か国で可決、反対が50か国なら賛成は148か国で否決になります。棄権は「投票した国」に数えない扱いなので、この数え方は全員が賛成か反対のどちらかに投票した場合の目安です。

50か国。人数で見れば全体の4分の1ほどの反対で、改正案は止まります。全会一致の厳しさに比べればだいぶ緩い壁ですが、改正の案件でさえ、実際には全会一致を目指す努力が先に求められています。

COP31は、議長が2人いる異例の形で開かれる

今年のCOPには、全会一致とは別の、決め方に関わる特徴があります。

開催するのはトルコ、交渉を仕切るのはオーストラリア

オーストラリア政府の2025年の発表によると、COP30で正式な合意が成立し、COP31はトルコのアンタルヤで開かれます。トルコが会場と世界の首脳が集まる首脳級会合を主催し、オーストラリアが「交渉議長」を務めます。発表は、COP30の終了からCOP31の終了まで、オーストラリアが交渉について「排他的な権限」を持つと書いています。

COPの議長を開催国とは別の国の人が務める例は、過去にもあります。クライメート・ホーム・ニュースによると、COP23は、フィジーが遠く小さいことを理由に、ドイツで開かれました。COP25はチリの社会不安を受けて、スペインで開かれています。COP31は、この「開催」と「交渉」の分担が、最初から決まっている点が違います。

最終判断は誰にあるのか、2つの説明があります

COP31の議長指名者のムラト・クルム氏は、9月の取材で「トルコとオーストラリアは共同議長ではない。COP31の議長はトルコで、オーストラリアは交渉議長だ。協議は続けているが、最終決定はCOP31議長団にある」と話しました。オーストラリア側の発表は「交渉について排他的な権限を持つ」と書いており、2つの説明の言い方は同じではありません。COPで目標にされる「排出ゼロ」の意味はカーボンニュートラルの仕組みの記事にまとめています。分担の細かい運用は、私が調べられた資料では確かめられませんでした。

首脳級会合は3日目と4日目、会議は20日まで続きます

クライメート・ホーム・ニュースが4月に報じた内容では、COP31の会期は9日から20日までで、首脳級会合はその3日目と4日目に開かれます。これまでの首脳級会合は、会議の最初の2日間に開かれることが多く、今年は水曜と木曜になります。クルム氏は、この会合を、政治的な勢いと注目を作る機会だと話しています。

11月9日から20日までは、20−9+1=12日間です。首脳級会合が3日目と4日目に終わったあと、会議は5日目から12日目までの8日間続きます。

首脳が集まる日が会議の前半にあり、そのあと8日間にわたって、各国の交渉官が文書の文言を詰めていくことになります。全会一致で決まる文書は、この後半の期間に姿を見せます。

合意のニュースを読むときの判断のしかた

COPの結果を伝える見出しを見たとき、何を確かめればよいかを、ここまでの内容から整理します。

採択されたのか、持ち越されたのかを見る

議長が「異議なし」と宣言して初めて、決定が成立します。見出しが「合意」や「前進」でも、最終的に採択された文書なのか、次の会合に持ち越された案なのかで、意味は違います。

どの国が異議を述べたのか、どの文言が変わったのかを見る

カトヴィツェでは、「歓迎する」という動詞1つで文章が止まりました。グラスゴーでは、「段階的廃止」が「段階的削減」へ変わっただけで、受け止め方が大きく割れました。全会一致の会議では、結果を決めるのは、最終文書に残った文言と、そこに異議を述べた国です。

主催国と交渉議長を、ひとまとめにしない

COP31では、会場と首脳級会合を主催するトルコと、交渉を仕切るオーストラリアが別です。どちらの国の発言なのかを分けて読むと、誰が何を決めるのかが見えやすくなります。

全会一致のデメリットと、それでも続いている理由

全会一致の弱点は、はっきりしています。反対する国が1つでもあれば、議論が止まります。

1か国の反対でも、文章が止まる

カトヴィツェの例のとおり、3か国の反対で、特別報告書を歓迎するという一文が書けませんでした。全員が同意できる中身へ薄まりやすく、強い内容ほど通りにくくなります。

反対を退ける議長の判断は、強引さと隣り合わせです

カンクンやドーハのように、議長が反対を退けて採択した例があります。決定を前に進める力にはなりますが、採択された国の側が「手続きが不公正だった」と受け止める余地も残します。コンセンサスの定義が無いことが、この曖昧さの根にあります。

非効率なのに、変えられない

多数決なら、決定はもっと速く進むはずです。それでも変わらないのは、多数決の規則を決めるためにも、全会一致が必要だからです。規則を採択するにはコンセンサスが要る(条約の第7条2項(k))ので、規則42に反対する国が1つでも残れば、規則は決まりません。非効率な仕組みを変えるための手続きが、その非効率な仕組みに縛られています。皮肉ですが、全会一致は1つの国に拒否権を与えるのと同時に、どの国の合意も後から覆しにくくします。私は、この硬さがCOPの決定の重さを支えている面もあると考えています。

COPの決まり方に関するよくある誤解

COPは多数決で決めているのですか

いいえ。COPの決定は、原則としてコンセンサスで採択されます。多数決を定めた規則42は草案のまま適用されておらず、条約の改正のような限られた場面だけ、条約本体の条文で最後の手段として4分の3の多数決が認められています。

1か国が反対すれば、必ず決定は止まるのですか

必ずではありません。カンクンでは、議長が「コンセンサスは全会一致を意味しない」と述べて、ボリビアの異議を退けました。ただ、反対が複数の国に広がると、コペンハーゲンやカトヴィツェのように、文書の採択や文言の採用が止まりました。

開催国が、COPの交渉の最終権限をすべて持つのですか

COP31では、そうとは言い切れません。トルコが議長を務め、オーストラリアが交渉議長として交渉を仕切る分担で、権限の言い方も2つの政府で同じではありません。実際の運用は、会議が始まってから見えてきます。

まとめ:COP31のニュースは「異議なし」で読む

COPが毎年開かれるのは、気候変動枠組条約の第7条4項が決めているためです。決定が全会一致になっているのは、1995年のベルリンで多数決の規則42が決まらず、全会一致がそのまま残ったためです。議長が「異議なし」と宣言して木槌を下ろすことで、決定が成立します。

票決で決められるのは、条約の改正のような条約本体に書かれた事項や、議事運営の異議などに限られます。それでも、実際には全会一致を目指す努力が先に求められます。COP31はトルコが開催し、オーストラリアが交渉議長を務める形で、9日から20日まで開かれます。

結果を読むときは、採択されたのか、持ち越されたのかを見て、最終文書の文言と、異議を述べた国を確認します。見出しの肩書きより、そちらのほうが、決定の中身を教えてくれます。会議の最新の状況は、国連気候変動枠組条約事務局や主要な報道機関の発表で確認してください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。