なぜ生活保護では車の保有が原則認められないのか|厚労省が検討するひとり親・未就学児の緩和

厚生労働省が、生活保護を利用する人の車の保有について、未就学児を育てるひとり親世帯を対象に要件をゆるめる方向で検討に入った、と2026年10月に報じられました。報道によると、車がなければ就労や子育てが難しい地域が対象で、都市部など公共交通機関の利用が適切と判断される場合は対象から外す方向です。早ければ年内にも運用を見直す考えで、これから自治体と調整するという段階です。

私は、生活保護を受けると車を持てないのは「法律で禁止されているから」だと思っていました。調べてみると、根拠は生活保護法の資産活用の原則で、車の細かい扱いは厚生労働省の課長通知と問答集に書かれていました。今回の見直しも、法律の改正ではなく運用の変更として検討されています。数字と制度は2026年10月時点で公開されている資料で確認しました。

  • 車が原則持てない理由は、生活保護法第4条の「利用できる資産は最低限度の生活のために活用する」という原則にある
  • 例外は通勤用・障害者の通院用などで、条件は課長通知と問答集で決まっている
  • 2024年12月に、認められた車を日常生活に不可欠な買い物などに使うことが先に認められた
  • 今回の検討はまだ報道の段階で、対象は未就学児のひとり親世帯、車がないと就労や子育てが難しい地域に絞られる見通し
目次

なぜ生活保護では車が原則持てないのか

根拠は「資産を活用してから保護を受ける」という原則

厚生労働省の資料は、生活保護の基本的な考え方を次のように書いています。保護は、生活に困窮する人が、利用できる資産や能力などあらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われます。これが生活保護法第4条第1項の定める補足性の原理です。土地や家屋は原則として売却し、預貯金は原則として収入として扱い、自動車については原則として保有を認めないとされています。制度全体の流れは、生活保護の仕組みの記事で整理しています。

車は、売れば生活費に回せる資産でもあります。だから「持ったまま保護を受ける」ことが、制度の出発点では想定されていません。ここまでは、財産を先に使うという一貫した考え方です。

細かい扱いを決めているのは課長通知と問答集

では、どんな車ならよいのかは、どこに書いてあるのでしょうか。福井県の行政不服審査の裁決書は、保有が認められる場合として、厚生省社会局保護課長通知の次の三つを挙げています。

  • 通勤用の自動車(課長通知第3の9)
  • 保護を始める時点で失業や傷病で就労を中断している場合の通勤用自動車(第3の9-2)
  • 障害者が通院などのために自動車を必要とする場合の自動車(第3の12)

課長通知を解説する形で出されているのが、厚生労働省社会・援護局保護課長の「生活保護問答集について」です。ここでは、生活用品としての自動車は、日常生活の便利に使うだけなら、地域の普及率にかかわらず保有を認める段階には至っていない、と答えています。ただし保有を認めなければならない事情がある場合は、実施機関が県の本庁と厚生労働省に情報を出したうえで判断するとも書かれています。

例外として車が認められるのはどんな場合か

公共交通機関の利用が著しく困難な地域とは:水田のあいだの道路を走る車
Photo by Bobby Youstra on Unsplash

私は、車の例外は「障害がある人」だけだと思っていました。問答集を読むと、障害の有無とは別に、地域の交通事情を理由にした例外があります。

公共交通機関の利用が著しく困難な地域の通勤

通勤用の車の例外には、公共交通機関の利用が著しく困難な地域に住む場合が含まれます。問答集の問3-16は、この「著しく困難」に一律の基準は示せないとしたうえで、駅やバス停までの所要時間、公共交通機関の1日あたりの運行本数、その地域の低所得者世帯の通勤実態などを見て、車によらずに通勤することが現実に可能かどうかを実施機関が総合的に判断する、と書いています。

基準が数字で決まっていないので、同じような場所でも福祉事務所によって判断が分かれる余地があります。バスの本数については、路線バスの仕組みの記事でも触れています。

保育所への送迎は、かなり厳しい条件がつく

今回の検討に近い話が、問3-17です。自宅から勤務先までは公共交通機関で通えるものの、子どもを保育所に預けていて、送迎をしながら勤務するには車しか方法がない場合に、通勤用の車を認めてよいかという問いでした。

回答は、まず公共交通機関で通える保育所への転園や、転職を検討すべきだとしています。そのうえで、次の二つをどちらも満たす場合に限って認めるとしています。公共交通機関で通える保育所が自治体内に全くないか、あっても転園がきわめて困難であること。そして、転職するより今の仕事を続けるほうが自立の助長に有効だと認められることです。条件が二つ重なるため、朝日新聞が報じるとおり、保育所の送迎のために通勤用の車を持てる例は、ほぼないのが実情です。保育所の入所選考の仕組みを見ても、希望の園に入れるとは限りません。

障害者の通院などは、維持費の扱いまで決まっている

障害者が通院や通所のために車を持つ場合については、問3-19が維持費にも触れています。維持費を援助できる扶養義務者などがいないときは、障害者加算の範囲で賄えるなら、保有を認めてよいという扱いです。逆にいえば、障害者以外の車の維持費は、保護費のやりくりの中で賄う前提になります。

生活保護と車の保有の関係について、これまでにどのくらい知っていましたか?

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今回の検討で何が変わりそうか

ひとり親世帯の送迎に車が必要とされる理由:車の窓から外を見る母と子
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報じられている対象と、対象外になる場所

朝日新聞の報道によると、緩和の対象として検討されているのは、未就学児を育てるひとり親世帯です。条件は、車がなければ就労や子育てが難しい地域に住んでいることです。反対に、都市部などで公共交通機関の利用が適切と判断される場合は対象にしない方向だとされています。

見出しだけを見ると「車の保有が解禁される」ように読めますが、中身は地域と世帯を絞った運用の見直しです。私は車を持たず、本数の多い電車が走る地域に住んでいます。私の暮らしが車なしで成り立つのは、運行本数という条件があるからで、この条件が違う地域の話を同じ物差しで考えると、ずれが出ると感じました。

まだ決まっていないこと

報道で確認できるのは、検討に入ったこと、年内にも運用を見直す考えがあること、これから自治体と調整することの三点です。通知の文面、対象となる子どもの年齢の線引き、地域をどう判定するかは、報道の時点では示されていません。条件や時期は変わる可能性があるため、実際に申請を考える場合は、福祉事務所に最新の扱いを確認してください。

2024年12月の通知で、買い物などへの使用は先に広がっている

国会で確認された「送迎や買い物」の範囲

赤旗の報道によると、厚生労働省は2024年12月に、保有を認めた自動車を「日常生活に不可欠な買い物等」で利用することを認める通知を出しました。通勤や通院で認められた車に、新しい用途を追加する内容です。国会では、子どもの学校行事や塾、習いごとの送り迎え、郊外のショッピングモールへの買い物も使ってよいのかが質問され、厚生労働省の社会・援護局長は「指摘の用途に使用することも認められる」と答えたと報じられています。

ここで分けて考えたいのは、保有が認められること(車を持ってよいか)と、使い道が広がること(持っている車を何に使ってよいか)の二つです。2024年12月の通知が動かしたのは後者で、今回検討されているのは前者の入り口だと整理できます。

バイクや原付は条件つきで持てる

問答集の問3-23には、あまり知られていない扱いがあります。総排気量125ccを超えるオートバイは自動車に準じて保有が認められません。一方、125cc以下のオートバイや原動機付自転車は、次の四つをすべて満たすと保有を認めてよいとされています。

  • 最低生活の維持のために実際に活用され、処分するより保有しているほうが生活維持と自立の助長に役立っている
  • 保有を認めても、その地域の一般世帯との均衡を失わない
  • 自動車損害賠償責任保険と任意保険に加入している
  • 保険料を含む維持費を捻出できると判断される

車は難しくても、原付なら条件つきで持てる場合があります。これを知らずに「乗り物は全部だめ」と思い込んで申請を諦めるのは、もったいない話です。

数字で見る:受給を始めると車の保有率はどう変わるか

NPO調査では、利用中の人の保有率だけが低かった

NPO法人ひとり親家庭サポート団体全国協議会は、全国のひとり親世帯1967人へのアンケートと27人へのインタビューの結果を公表しました。調査期間は2025年9月から2026年2月です。生活保護の利用状況別に車の保有率を見ると(N=1831)、次のようになっています。

利用状況 車の保有率
未利用で、利用を考えたことのない人 81.3%
利用を検討したが行動に至らなかった人 82.2%
窓口で申請を断念した人 85.2%
過去に利用した人 76.2%
現在利用中の人 31.2%
※弁護士JPニュースの報道による。自己回答のウェブアンケートで、全国のひとり親を代表する調査ではない。

窓口で申請を断念した人(85.2%)と現在利用中の人(31.2%)の差は、85.2−31.2=54.0ポイントです。

この表を見て、私は声が出ました。申請を諦めた人の85.2%が車を持っているのに、利用中の人は31.2%まで落ちます。……この差は大きい。もちろんアンケートの回答者の集まり方に偏りはありますが、受給が始まると車が手元から減る方向に働いている、という見方とは整合します。同じ調査では、福祉事務所に出向いて申請に至らなかった人のうち48.9%が、車の保有ができないと説明されたと答えています。

都道府県別の相関と、厚生労働省の見方

赤旗の報道によると、辰巳孝太郎議員は国会で、都道府県ごとの世帯あたりの自動車保有台数と母子世帯の生活保護率には強い相関がある(決定係数0・74)と指摘しました。厚生労働省は当初、別のデータを示して高い相関はないと答えたものの、辰巳議員が厚生労働省自身の分析(決定係数0・528)を示すと、上野厚生労働大臣は「相関係数が高い」と認め、「もう少し勉強はさせていただきたい」と答えています。

一方で、厚生労働省は、車の保有が少ない都市部では、ひとり親が仕事を求めて流入するケースが多く保護率が高まる、地方は持ち家率が高いため保護率が低いのではないか、とも答えたと報じられています。相関があることと、車の制限が原因であることは別の話で、この点は議論が分かれています。

見直されても残る課題と注意点

対象が絞られるほど、線の外側の人が出る

未就学児のひとり親世帯に絞ると、子どもが小学校に上がった時点で対象から外れるのかどうかが、まず気になります。NPO調査では、車の利用目的は子どもの中学・高校・部活動の送迎が78.9%、子どもの通院が73.1%と、未就学の時期以外にも広がっています。ふたり親世帯や、子どものいない世帯は今回の検討の対象外です。

基準が判断者に委ねられる部分は残る

公共交通機関の利用が著しく困難かどうかは、先に見たとおり問答集でも一律の基準がなく、実施機関が総合的に判断する仕組みでした。今回の緩和も、地域の判定を自治体と調整するとされています。NPO調査には、北海道でバスが1日3本しか走らない地域に住み、車が通勤のみに限定されているため、子どもの急な発熱で病院に行くのに使えなかったという体験談も載っています。運用の差が、そのまま利用者の負担の差になりえます。

維持費は保護費の中から出す

車を持てることと、維持できることは別です。障害者の通院用のように加算で賄う扱いが明記されているケースを除くと、保険料や燃料代などの維持費は、保護費のやりくりの中で賄う前提です。車を残すと決めた場合は、毎月の収支に入る額を先に確認しておく必要があります。

車を持っている人が確認すること|判断の基準

申請の前に、福祉事務所で聞いておく三つのこと

  • 自分の車の使い道が、通勤・通院・買い物など、認められる用途のどれに当たるか
  • 住んでいる地域が、公共交通機関の利用が著しく困難な地域と判断されるか(駅やバス停までの時間、運行本数)
  • 今回報じられた緩和の対象になりそうか、実施の時期はいつごろか

車の保有を理由に申請をやめる前に、窓口で自分の場合の扱いを聞いてください。NPO調査では、窓口に出向いて申請に至らなかった人の48.9%が、車の保有ができないと説明されたと答えていました。説明を聞いて諦めた場合も、通知や問答集の文面を示して確認してもらうことができます。

家族や支援する側が知っておくこと

親族や支援者として相談を受ける場合は、「車は持てない」と言い切らないことが大切です。例外の条件も、緩和の検討も、地域と使い道で結論が変わります。申請を考えている本人と一緒に、福祉事務所へ確認する形にしてください。

よくある誤解

「生活保護を受けると、車は絶対に持てない」は本当ですか

正確ではありません。通勤用、障害者の通院用、公共交通機関の利用が著しく困難な地域の通勤などは、課長通知と問答集で例外として定められています。また、125cc以下のオートバイや原動機付自転車は、四つの条件を満たせば保有を認めてよいとされています。

「車の禁止は法律に書いてある」は本当ですか

根拠は生活保護法第4条の資産活用の原則で、車についての具体的な扱いは課長通知と問答集で定められています。法律の改正を待たなくても、通知や問答集の運用を変えれば扱いは変わります。今回の検討が運用の見直しとして報じられているのは、そのためです。

「緩和が決まったので、ひとり親ならすぐ車を持てる」は本当ですか

まだ決まっていません。報じられているのは、厚生労働省が検討に入ったという段階で、自治体との調整のあと、早ければ年内にも運用を見直す考えだとされています。対象は未就学児のひとり親世帯で、車がなければ就労や子育てが難しい地域に限られる見通しです。

まとめ:生活保護の車は、法律の禁止ではなく通知の運用で決まっている

生活保護で車が原則持てないのは、利用できる資産を先に生活のために使うという第4条の原則があるためです。例外と使い道は課長通知と問答集で決まっていて、2024年12月の通知で買い物などへの使用が先に認められました。今回の検討は、そこから一歩進めて、未就学児のひとり親世帯で、車がなければ就労や子育てが難しい地域に絞って保有を認める方向の話です。

判断に使える点は三つです。法律の改正ではなく運用の見直しなので、実際の扱いは福祉事務所に確認すること。対象は地域と世帯で絞られる見通しなので、自分の場合に当てはまるかを聞くこと。そして、決まっていない部分(時期、年齢の線引き、地域の判定)は、今後の通知を待つことです。内容は2026年10月時点の報道と公開資料にもとづいています。最新の扱いは厚生労働省と自治体の案内で確認してください。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、制度の仕組みを知っていただくための読み物で、個別の申請の可否や法的判断を示すものではありません。具体的なご相談は、お住まいの自治体の福祉事務所や弁護士などの窓口、最新の公式案内に従ってください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。