約束手形の交換は2027年3月末でなぜ終わるのか|不渡りと取適法の手形払い禁止

約束手形がなくなる、というニュースを見て、私は法律で手形が禁止される日が決まったのだと思い込んでいました。全国銀行協会(全銀協)や経済産業省の発表を読むと、決まっているのは手形そのものを禁じる日ではありません。銀行どうしが手形を持ち寄って決済する電子交換所が、手形・小切手の交換をやめる日です。経産省の発表では令和9年3月31日、全銀協の発表では2027年度初からの交換廃止と書かれています。

この記事では、全銀協、経済産業省、中小企業庁、でんさいネットの公式ページで確かめた内容をもとに、手形の交換が終わる理由と、不渡りを2回出した会社が2年間銀行取引を止められる取引停止処分の仕組み、2026年1月に始まった取適法の手形払い禁止を順に整理します。2026年10月時点の内容です。

  • 終わるのは手形の禁止ではなく、電子交換所での手形・小切手の交換
  • 不渡りを6か月間に2回出すと、2年間は当座預金と貸出の取引ができない
  • 取適法はすでに手形払いを禁止し、令和9年4月からは対象外の取引にも60日以内の支払いを求める
  • 手形の代わりは、でんさいなどの電子記録債権か、インターネットバンキングの振込
目次

手形が終わるのは禁止ではなく電子交換所での交換

全銀協が決めた「交換の廃止」

全銀協は2025年3月26日、「2027年度初から電子交換所における手形・小切手の交換を廃止する」ことを決めたと発表しました。もとの目標は「2026年度末までに電子交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにする」ことでしたが、2025年3月の中間評価で、これまでの取組みだけでは目標の達成は困難とされています。目標を待つだけでなく、交換する場そのものをなくす形に踏み込んだことになります。

手形は使えなくなるのか

全銀協の発表には注記があり、2027年度初から手形・小切手が使用できなくなるものではない、と書かれています。ただし電子交換所を通さない決済になるため、各金融機関は郵送などによる個別の取立てをしなければならず、金融機関の判断で手形・小切手の取扱いが変更になる可能性があるとしています。

手形が法律上無効になるのではなく、銀行が手形を取り扱う手間と費用を引き受けにくくなる、というのが実際の姿です。紙の手形が突然使えなくなる話ではない一方で、持っていても現金にしにくくなる話でもあります。

節目の日付を並べると

時期 出来事
2021年7月 全銀協の検討会が自主行動計画を策定し、2026年度末の交換ゼロを最終目標にする
2022年11月 電子交換所が稼働し、各地の手形交換所は廃止される
2025年3月 2027年度初からの交換廃止を全銀協が決定する
2026年1月 取適法が施行され、対象の取引で手形払いが禁止される
2026年9月末 多くの金融機関が設けた手形・小切手の最終振出期限
令和9年3月末 電子交換所での手形・小切手の交換が廃止される
令和9年4月 独占禁止法の支払告示が施行され、対象外の取引にも60日以内の支払いを求める
※全国銀行協会、経済産業省、中小企業庁の公表資料をもとに作成

9月末の最終振出期限は、すでに過ぎました。全銀協は2026年6月の発表で、金融機関によっては9月30日に最終振出期限を設定しており、10月1日以降は原則として当座勘定から支払いができなくなると案内しています。手形で払っている、あるいは手形で受け取っている会社は、取引銀行ごとの扱いを確かめる時期に入っています。

手形はなぜ銀行を通して決済でき、不渡りが怖かったのか

手形はなぜ銀行を通して決済でき、不渡りが怖かったのか:書類に署名する手元
Photo by Sollange Brenis on Unsplash

約束手形と手形交換所の関係

約束手形は、振り出した会社が将来の期日(満期日)に決まった金額を支払うと約束する証券です。受け取った会社は、満期日に自分の取引銀行を通じて、振り出した会社の銀行に支払いを求めます。このとき銀行どうしが手形を持ち寄って決済してきた場が、手形交換所です。基本的な流れは、手形・小切手の仕組みの記事にまとめています。

全銀協は2022年11月4日に、この手形交換業務を電子化した電子交換所による決済を始めました。手形のイメージデータを金融機関どうしで送受信するため、手形の搬送が不要になり、各地の手形交換所は廃止されています。

不渡りを2回出すと2年間は銀行取引が止まる

手形が信用されてきた支えは、取引停止処分制度です。全銀協の説明では、6か月間に2回、手形・小切手の不払い(不渡り)を起こした者は、その後2年間、参加銀行との当座預金取引や貸出取引を禁止されます。

取引停止処分までの流れ

1回目の不渡り
不渡報告に載る
→
6か月間に2回目
取引停止処分
→
その後の期間
当座預金・貸出が禁止

手形を振り出す会社にとっては、当座預金が使えなくなれば手形も小切手も振り出せません。貸出も止まります。受け取る側から見れば、この制度があるから、知らない会社の手形でも一定の信用で受け取れたことになります。

交換所がなくなると、この番人も使えなくなる

ここが、私がいちばん意外だった点です。全銀協の資料には、電子交換所での交換を廃止すると、電子交換所における取引停止処分制度が利用できなくなる、と書かれています。手形の不渡りを管理してきた仕組みが、交換所とともに消えるということです。

同じ資料は「ただし同様の制度はでんさいにて利用可能」と続けています。でんさいネットのFAQでは、債務者が6か月以内に2回以上、支払不能のでんさいを生じさせると、2年間、でんさいの利用と参加金融機関との貸出取引が禁止されると説明されています。手形の不渡りとでんさいの支払不能は別の制度のため、回数は合算されません。

取引先との支払いで、手形やでんさいを使うことはありますか?

  1. 手形を使っている
  2. でんさいを使っている
  3. 振込だけで済ませている
  4. どれも使っていない

📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・12票)

どれも使っていない:58%
手形を使っている:25%
でんさいを使っている:17%
振込だけで済ませている:0%

手形をやめる理由は事務負担と資金繰りにある

政府が「5年後の廃止」を打ち出した

きっかけは成長戦略実行計画です。全銀協の報告書によれば、この計画には、産業界と金融界に自主行動計画の作成を求めることで、5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する、と書かれています。全銀協の検討会はこれを受けて、自主行動計画を作りました。

計画の基本方針は、紙による決済をやめて電子的決済サービスへの移行を進め、産業界と金融界の双方で事務負担とコストの削減、リスクの軽減を図る、というものです。

受け取る側の資金繰りの負担

中小企業庁の説明では、手形で支払われると、現金になるまでの期間の資金繰りを、代金を受け取る側の中小企業が負担することになります。電子記録債権やファクタリングによる支払いでも、同じ負担が生じるとしています。手形の問題は紙であることだけでなく、現金化までの待ち時間を受け取る側が引き受けてきた点にあります。

サイトの上限は120日から60日へ

手形の満期までの期間(サイト)は、段階的に短くされてきました。経産省の2024年4月30日の発表によると、中小企業庁と公正取引委員会は1966年以降、繊維業は90日、その他の業種は120日を超えるサイトの手形等を、下請法上の割引困難な手形に当たるおそれがあるとして指導してきました。2024年11月からは、サイトが60日を超える手形等が指導の対象になっています。

上限が120日から60日になったので、その他の業種では、手形を受け取ってから現金になるまでの待ち時間の上限が、120日−60日=60日分だけ短くなった計算です。

取適法で手形払いはすでに禁止されている

2026年1月に何が変わったか

下請法は2026年1月1日から、中小受託取引適正化法(取適法)に変わりました。中小企業庁の説明では、改正前の下請法が禁じていたのは「サイトが60日を超える手形による支払い」でした。改正後は、支払手段として手形払いそのものが禁止されています。

電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なものは禁止です。経産省の2026年9月の発表では、物品等の受領から60日以内に定められる支払期日までに満額を受け取れない場合は使えないとされ、60日を超える満期の電子記録債権や一括決済方式による支払いは原則として禁止されると例示されています。ファクタリングの仕組みは、ファクタリングの仕組みの記事で説明しています。

令和9年4月からは対象外の取引にも60日

経産省の発表によると、令和9年4月1日から、独占禁止法上の支払告示が施行されます。取適法の対象にならない製造委託などでも、給付を受領した日から60日以内に代金を支払わなければならなくなります。中小企業庁と公正取引委員会は2026年9月に、業界団体や金融機関に対して、手形の廃止を踏まえた支払いの適正化を要請しました。

どの取引が取適法の対象になるかは、取引の内容や事業者の区分で決まります。自社の取引が当てはまるかどうかは、公正取引委員会と中小企業庁の公式の案内で確認してください。

交換枚数は2024年も1,967万枚残っていた

目標の61%しか減らなかった

全銀協が2025年3月に公表した調査では、電子交換所で交換された手形・小切手は2024年に1,967万枚でした。同年の削減枚数は501万枚で、目標の822万枚の61%にとどまっています。2023年の削減枚数は690万枚で、減るペースは鈍っています。

2023年の枚数は、1,967万枚+501万枚=2,468万枚と計算できます。1年で501万枚減っても、約2割(501÷2,468≒20.3%)にすぎません。

このペースが続いた場合の試算

全銀協の概要資料には、足もとの削減ペースが続くと、2026年度末時点で月に78万枚の手形・小切手が残るという試算が載っています。

月78万枚を1年に直すと、78万枚×12か月=936万枚です。2024年の1,967万枚の約半分(936÷1,967≒47.6%)になります。ゼロではなく、まだ年間で約900万枚の手形・小切手が回る計算です。

見出しだけを見ると「手形は廃止」ですが、数字を見ると、廃止はまだ終わった話ではありません。私は計算してみて、月78万枚という数が、想像していたより大きいと感じました。全銀協が目標を待つだけでなく、交換を廃止する形に踏み込んだ理由が、数字から分かります。

手形の次はでんさいか振込か

手形の次はでんさいか振込か:ノートパソコンでインターネットバンキングを操作する手元
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全銀協が移行先に挙げる2つ

全銀協の自主行動計画は、移行先として、電子記録債権(でんさい)とインターネットバンキングによる振込の2つを挙げています。

手段 形 不払いのときの制度 取適法との関係
約束手形 紙 取引停止処分(電子交換所の廃止後は利用できない) 対象の取引では手形払いが禁止
でんさい 電子記録債権 支払不能処分制度(6か月以内に2回以上で2年間) 期日までに満額を受け取れない場合は使えない
インターネットバンキングの振込 電子 振込が成立した時点で支払いが済む 期日までに満額が口座に入る形
※全国銀行協会、でんさいネット、経済産業省、中小企業庁の公表資料をもとに作成

どちらを選ぶかは取引先との相談で決まる

でんさいは期日を決めて支払う点で、手形に近い仕組みです。ただし取適法が求める「60日以内に満額を受け取れる」形にするには、でんさいでも満期を短く設定する必要があります。振込にすれば、満期という考え方そのものがなくなります。経産省の2026年9月の要請でも、取適法の対象外の取引について、サイトを60日以内にし、可能な限り現金払いにするよう求めています。

切り替えで起きる注意点とデメリット

支払う側は運転資金が先に必要になる

手形で払っていた会社が振込に変えると、代金を払うタイミングが早まります。その分の運転資金が必要です。全銀協の報告書には、金融機関の取組み例として、手形の廃止で増える運転資金に備えて当座貸越の極度を新しく設定した例や、電子化で増える運転資金に対応する金利優遇の融資商品を出した例が載っています。支払サイトを短くする前に、取引銀行に資金繰りの相談をしておく意味はここにあります。

受け取る側は手形の期日と銀行の対応を確かめる

手元に令和9年4月以降が満期の手形がある会社は、取引銀行の扱いを早めに確かめる必要があります。電子交換所を通さない取立ては、金融機関ごとに対応が分かれる可能性があるためです。紙の手形は印紙税の課税文書にも含まれますが、印紙税の扱いは印紙税の記事で詳しく書いています。

取引先の支払い能力を見る作業は残る

取引停止処分という「番人」は、手形では電子交換所の廃止とともに使えなくなります。でんさいには同じ構造の制度がありますが、制度があっても、取引先の支払い能力を確かめる作業が不要になるわけではありません。手形のときと同じく、会社自身の仕事として残ります。

自社は何を確かめるか:支払う側と受け取る側の判断

支払う側の会社が確かめること

取適法の対象取引で、いまも手形で払っていないか。令和9年4月から支払告示で60日以内の支払いが求められる取引がないか。電子記録債権を使っているなら、満期が受領から60日を超えていないか。この3点を取引ごとに見ます。

受け取る側の会社が確かめること

取引先から手形で代金を受け取っている会社は、次の4点を確かめます。

  • 取引銀行が設定した最終振出期限と、期限後の手形の扱い
  • 手元の手形の満期が令和9年3月末より前か、4月以降か
  • 取引先に、でんさいや振込への切り替えを相談できるか
  • 取引先との取引が取適法の対象で、手形払いが禁止の取引に当たらないか

個人事業主や小さな会社の場合

手形をほとんど使っていない会社には、廃止の影響は小さいはずです。それでも取引先が手形で払ってくる場合は、受け入れるしかないと考えず、取適法の対象かどうかを確かめたうえで、でんさいや振込への切り替えを相談できます。切り替えの費用や手続きは、取引銀行で個別に確認してください。

手形廃止でよくある誤解

手形が法律で禁止されたのですか

手形そのものを禁じる法律ができたわけではありません。取適法が禁止したのは、対象の取引で代金の支払いに手形を使うことです。全銀協が決めたのは、電子交換所での手形・小切手の交換の廃止です。

2027年度に入ると手形は紙くずになりますか

全銀協は、2027年度初から手形・小切手が使用できなくなるものではない、としています。ただし電子交換所を通さない決済になるため、金融機関の判断で取扱いが変わる可能性があります。手形の価値がなくなるのではなく、現金にする手間が増えます。

でんさいにすれば不渡りの心配はなくなりますか

なくなりません。でんさいには支払不能処分制度があり、6か月以内に2回以上支払不能を出すと、2年間、でんさいの利用と参加金融機関との貸出取引が禁止されます。仕組みが似ているため、支払い能力の確認は引き続き必要です。

まとめ:約束手形の交換廃止と取引停止処分を整理する

約束手形の電子交換所での交換は、令和9年3月末(全銀協の表現では2027年度初)に廃止されます。手形が無効になるのではなく、銀行が手形を扱いにくくなる変更です。手形の信用を支えてきた取引停止処分制度は、交換所とともに使えなくなり、同じ構造の制度はでんさいに引き継がれます。

取適法はすでに対象の取引で手形払いを禁止し、令和9年4月からは対象外の取引にも60日以内の支払いを求める支払告示が始まります。2024年に1,967万枚残っていた手形・小切手を、月78万枚の見込みから先へ減らすには、取引先どうしの切り替えが欠かせません。

支払う側は、取適法の対象取引と60日の期限を取引ごとに確かめ、受け取る側は、取引銀行の最終振出期限と手元の手形の満期を確かめる。私はこの2つを、いま会社ができる最初の作業と考えています。切り替えの条件や費用は、取引銀行とそれぞれの公式の案内で確認してください。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は手形・電子記録債権・取適法の制度を紹介する読み物で、個別の取引や契約について助言するものではありません。数字と日付は2026年10月時点の公表資料によるものです。実際の取扱いは取引銀行と公式の案内でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。