台湾周辺の海底ケーブルをめぐる報道が続いています。最近のニュース一覧にも、台湾周辺の敷設ルートで調査船が減速や停船を繰り返した、という見出しが並んでいました。そのたびに「ケーブルが切れたら通信はどうなるのか」という声が出ますが、私が気になったのは、そもそも海の底でケーブルが切れる自然の原因は何なのか、という点でした。
この記事では、台湾南部沖で2006年に起きた地震による切断と、1929年の大西洋の事例、2024年の能登半島地震後の検討をもとに、海底ケーブルが地震や台風で切れる仕組みを確かめます。鍵になるのは「混濁流」という、海底の斜面を泥まじりの水が流れ下る現象です。報道の中身には踏み込まず、自然の側の仕組みだけを扱います。内容は2026年11月時点です。
- 台湾とフィリピンの間の海底には、多数のケーブルが通っている
- 切断の原因は漁と錨が大半で、地質に関わるものは約7%
- 地震や台風で起きる混濁流は、秒速5〜16メートルで300キロ以上流れた記録がある
- 1929年にケーブルが順番に切れた記録から、混濁流の存在が確かめられた
台湾沖の海底は、ケーブルが集まる場所
ルソン海峡を多数のケーブルが通っている
ガヴィー氏らが2017年に海洋地質学の専門誌Marine Geologyへ発表した論文によると、台湾とフィリピンの間にあるルソン海峡では、高屏(ガオピン)峡谷とマニラ海溝にまたがって、多数の海底通信ケーブルが横切っています。ケーブルの中身が光ファイバーであることは、光ファイバーが速い理由を書いた記事で説明しました。
論文の著者らは、この海域で2006年から2015年の間に、ケーブルを切る大きな出来事が4回あったと報告しています。まず、地震や台風が起きたときに海底で何が起きるのかを見ていきます。
故障は年に約200件、地質が原因なのは7%
国際ケーブル保護委員会(ICPC)などによる2025年の集計では、世界の海底ケーブルの故障は年に平均約200件です。原因の内訳は、漁と錨が86%を占めています。そのうち、漁が28%、錨が14%、漁か錨のどちらかと疑われるが特定できなかったものが44%です。地質に関わる出来事(地震や海底の地すべりなど)は7%、摩耗が4%、設備の故障が3%でした。
年に約200件のうち7%は、200×0.07=14件です。地震や台風が原因の切断は、全体から見れば少数です。それでも一度に何本も切れるため、通信への影響が大きく出ます。
混濁流は、海の底を流れ下る泥まじりの水
堆積物が斜面で動き出し、流れになる
私は海底ケーブルを、海の底の平らな泥の上に置いてあるだけのものだと思っていました。実際の海底には、陸の山と同じように斜面や谷があります。斜面には、川から運ばれた砂や泥が積もっています。
米国のAGI(アメリカ地質科学協会)が発行する雑誌「Earth」は、混濁流を次のように説明しています。海底の地すべりが斜面を雪崩のように下り、途中でさらに堆積物を巻き込んで速さを増す現象で、広い範囲の海底を削り、発生源から数百キロメートル離れた場所に堆積物の扇状地をつくることもあります。
流れが止まると、粗い粒から順に沈む
混濁流が運んだ堆積物は、流れが弱まると粒の大きい順に沈みます。同じ記事によると、下に礫や砂、上に細かい泥という、縦に粒の大きさがそろった層ができます。この層は「ブーマ層序」と呼ばれています。海底の地層にこの並びが残っていれば、過去にそこを混濁流が通った証拠になります。
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2006年の地震で、22か所のケーブルが切れた
台湾南部沖で起きたM7.0の地震
2006年の夜、台湾南部の恒春の西南西約22.8キロの沖でM7.0の地震が起きました。論文では「屏東(ピントン)地震」、通信業界の資料では「恒春(ヘンチュン)地震」と呼ばれます。地震の仕組みそのものは地震のメカニズムを解説した記事にまとめています。
通信業界のニュースサイトSubmarine Networksによると、この地震と余震で8本の海底ケーブルが切れました。台湾最大の通信会社・中華電信は、香港と東南アジア向けのインターネットが100%止まり、中国本土向けも74%が止まったと報告しています。一方で、日本と米国へ向かう北向きの通信には影響がありませんでした。
流れは最大460キロメートル、秒速5〜16メートル
先ほどの論文は、この地震が最大3つの別々の混濁流を生み、そのうちいくつかは最大460キロメートル流れた、と分析しています。ケーブルが切れた時刻の記録から、流れの速さは秒速5〜16メートルと見積もられています。時速にすると、5×3.6=18、16×3.6=57.6で、およそ時速18〜58キロメートルです。深い海の底を、自動車が街中を走る程度の速さで泥の流れが進んでいたことになり、この数字には驚きました。
2006年の切断数は、ほかの出来事より多かった
論文は、2006年の地震が最大の堆積物の流れをつくり、22か所の切断を起こしたと述べています。そのほかの3回(台風2回と地震の群れ1回)は、いずれも6〜9か所の切断でした。22÷9≒2.4、22÷6≒3.7で、2006年の切断数はほかの出来事の約2.4〜3.7倍です。
流れの速さにも場所による違いがあります。高屏峡谷の0.4〜1.0度の斜面では秒速7〜20メートルとばらつきが大きく、傾斜が0.3度のマニラ海溝では主に秒速5〜8メートルでした。論文は、流れは走る距離が伸び、傾斜がゆるくなり、水路の幅が広がるほど遅くなる傾向がある、とまとめています。
地震がなくても、台風で混濁流は起きる
川の洪水が引き金になる流れ
論文は、2009年の台風モーラコットでも2つの堆積物の流れが生まれたと報告しています。1つ目は、川の洪水で土砂を含んだ水が海へ流れ込む「ハイパーピクナル」な流入が引き金でした。2つ目は、その3日後に起きています。高屏峡谷の上流部に積もったばかりの洪水の堆積物が崩れたことが原因ではないか、と推測されています。
2015年の台風ソウデロアでは、高屏川がつくった流れが、水深2,600メートルより浅い場所のケーブルは切らず、それより深い場所で少なくとも6本を切りました。同じ流れでも、場所によって被害が違っています。
小さな地震の連続でも起きた
2010年には、ML6.4の甲仙(ジャーシェン)地震の後に続いたML3〜5の地震の群れの間に、混濁流が1回起きました。大きな揺れが1回あったかどうかだけでは、流れが起きるかどうかは決まらないことが分かります。
頻発の背景は、はっきり分かっていない
論文によると、2006〜2015年のようにケーブルを傷める流れが続く時期は、過去二十年かそれ以上の間では初めてです。地震活動や人間活動が増えた証拠は見つかっておらず、著者らは、台風の強まりと、川から海へ流れ込む土砂の増加が背景にある可能性を挙げています。ただし、これは「可能性」としての記述で、原因が確定したわけではありません。
1929年に、切れた順番から混濁流が見つかった
十二本のうち、六本は地震と同時に切れた
混濁流が世の中に知られたきっかけは、1929年にカナダ東部のニューファンドランド島沖で起きたM7.2のグランドバンクス地震です。Earth誌によると、震源はカナダ南東岸から約280キロメートル沖でした。大西洋を横断する十二本の電信用ケーブルが切れ、そのうち最初の6本は地震と同時に切れました。
残りの6本は、水深が深くなる向きに、浅い側から順番に切れていきました。かかった時間は13時間17分です。ケーブルを持つ電信会社が、切れた正確な時刻を記録していました。
順番に切れたことが手がかりになった
1952年、コロンビア大学のモーリス・ユーイングと大学院生のブルース・ヒーゼンは、この記録を突き合わせて分析しました。大陸棚に敷かれた多数のケーブルは1本も壊れず、斜面から深い海底にあるものだけが順番に切れていたことから、断層のずれによる切断ではなく、地すべりが生んだ混濁流が原因だと結論しました。
Earth誌は、この混濁流の速さを時速60〜100キロメートル、運んだ堆積物の量を100〜150立方キロメートルと紹介しています。時速60〜100キロメートルは、2006年の台湾沖の推定(前に計算した時速およそ18〜58キロメートル)より速い数字です。切れた時刻の記録から逆算した推定値で、場所や傾斜が違えば速さも変わります。
資料によって、数え方が違う
1929年の切断について、東京大学の研究会資料(野徹雄氏らの発表)は、13時間以上にわたって350海里(約650キロメートル)以上流れ、28か所のケーブルを破断させたと推定されている、と書いています。Earth誌の「十二本が切れた」「順番に切れた6本は約500キロメートルにわたる」という書き方とは数字が違います。本数は切れたケーブルの数、28は切断箇所の数のように見えますが、元の論文を確認できていないため、ここでは両方を併記するにとどめます。
日本周辺でも、地震による切断は起きている
日本周辺で地震が原因とみられる切断は18件
先ほどの東京大学の資料は、Pope氏らの2017年の研究を引いて、日本周辺で地震が原因と推定されるケーブル破断は、1990年から2015年までに18件あったと書いています。場所は茨城沖から房総沖、紀伊半島沖、父島沖で、すべて太平洋側です。日本海側では、2024年に報告されるまで、地震が原因のケーブル破断が公になった例は、調べた範囲ではなかった、とも書かれています。
能登半島地震の後、富山湾の海底で何があったか
2024年1月1日に能登半島北部を震源とするMJ7.6の地震が起きた後、日本海に敷かれたケーブルの故障が、KDDIのケーブルシップに乗る藤原空氏によって報告されました。故障が起きた場所は、富山深海長谷(ふかうみながたに)と呼ばれる海底の谷の付近でした。
資料によれば、柳澤氏らは、本震の約50秒後に富山湾で海底地すべりが起きて津波が生じたと推定しています。この地すべりは、地震の前後の海底地形の比較からも確かめられていて、場所は富山深海長谷のいちばん陸寄りの最上流部でした。野氏らは、富山トラフのどこかの地すべりが混濁流を生み、谷に沿って北へ流れ下ってケーブルの故障に影響した可能性がある、としています。資料はこの検討を「暫定的」と書いており、結論はまだ出ていません。
ケーブル障害のニュースを読む判断の目安
原因が分かっているかを先に見る
漁と錨が故障の86%を占めるので、ケーブルが切れたという報道だけでは、自然が原因なのか、人の活動が原因なのかは分かりません。報道を読むときは、誰がいつ原因を確認したのか、という点を見るのが無難です。地震や台風の直後であれば、この記事で見たように、斜面の地すべりや混濁流が通った可能性を調べる流れになります。
どの経路が切れたかで影響が変わる
2006年は、同じ地震で切れたケーブルの中でも、日本と米国へ向かう北向きの通信は影響を受けませんでした。切れた本数より、どの経路が切れ、代わりの経路が残っていたかで、利用者への影響が決まります。私の読みですが、家庭の回線の側は、光回線が家まで届く仕組みのとおり、国内の設備が止まっていなくても、海外へ出るケーブルの影響を受けることがあります。
数字の違いは、数え方の違いを疑う
この記事でも、2006年の切断は、論文では22か所、通信業界の資料では8本のケーブルが切れたと別の形で書かれています。1929年も十二本と28か所が並んでいます。ニュースの数字が資料によって違うときは、本数か箇所か、どの期間を数えたかを見ると、食い違いの理由が見つかることがあります。
混濁流の研究の限界と注意点
速さは推定値で、直接測ったものではない
1929年も2006年も、流れの速さはケーブルが切れた時刻の記録から求めた推定値です。海底の流れを、そのまま測ったわけではありません。論文も、場所によって7〜20メートルという大きなばらつきがあると書いています。
原因の特定には限界がある
混濁流がケーブルを切ったとみられる場合でも、切れた時刻と場所が分かるだけで、流れそのものの姿は見えません。能登半島地震の例のように、切れた場所と地すべりの位置が近いというところまでは言えても、因果関係は暫定的な検討にとどまります。台風が混濁流の背景にあるという説明も、論文が「可能性」として述べている段階です。
よくある誤解
海底ケーブルは地震の揺れで切れる、は正しい?
揺れだけが原因とは限りません。2006年の台湾沖では、地震が引き起こした海底の地すべりと混濁流が、切断の原因とされています。1929年にも、地震と同時に切れた6本と、あとから順番に切れた6本があり、切れ方は一つではありませんでした。
ケーブルが切れる原因は、ほとんど地震や台風?
違います。2025年の集計では、漁と錨が86%、地質に関わる出来事は7%です。地震や台風の被害は目立ちますが、頻度で見ると少数です。
混濁流は、地震のときにだけ起きる?
違います。台湾南部の例では、2006年は地震、2009年と2015年は台風、2010年は地震の群れが引き金でした。川の洪水と大雨が引き金になる場合もあります。
まとめ:海底ケーブルと混濁流の関係
海底ケーブルが地震や台風で切れるのは、揺れそのものより、斜面で起きた地すべりが混濁流になって谷を流れ下るためです。台湾南部沖では、2006年の地震で22か所が切れ、流れは最大460キロメートル、秒速5〜16メートルで進んだと報告されています。1929年のグランドバンクス地震では、ケーブルが順番に切れた記録が、混濁流の発見につながりました。
一方で、全体の故障の86%は漁と錨で、地質に関わるものは7%です。ケーブルの切断を報じるニュースを読むときは、原因が確認されているか、どの経路が切れたか、数字は本数か箇所かを見ると、判断の目安になります。能登半島地震の検討のように、研究が途中の話は暫定の結論として読むのが妥当です。最新の状況は、通信事業者や公的機関の発表で確認してください。
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- 初めて知った
- 誤解していた
📚 参考文献・出典
- ・Gavey ら「Frequent sediment density flows during 2006 to 2015, triggered by competing seismic and weather events」Marine Geology 384(2017年・要旨) https://nora.nerc.ac.uk/id/eprint/516195/
- ・Earth(AGI)「Benchmarks: November 18, 1929: Turbidity currents snap trans-Atlantic cables」 https://www.earthmagazine.org/article/benchmarks-november-18-1929-turbidity-currents-snap-trans-atlantic-cables/
- ・Submarine Networks「Cables Cut after Taiwan Earthquake in Dec 2006」 https://www.submarinenetworks.com/en/nv/news/cables-cut-after-taiwan-earthquake-2006
- ・Submarine Networks「Statistics on Subsea Cable Fault and Repair」(ICPC・SubOptic 2025の集計) https://www.submarinenetworks.com/en/nv/insights/statistics-on-subsea-cable-fault-and-repair
- ・野徹雄ほか「能登半島地震と海底ケーブル故障」に関する地球科学的な問題の検討(海底ケーブルの科学利用と関連技術に関する将来展望 第8回) https://seasat.iis.u-tokyo.ac.jp/CableWS/WS20251205/%E5%85%AC%E9%96%8B%E8%B3%87%E6%96%996-%E9%87%8E.pdf









































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