ぬい活をする大人が増えたと言われます。11月には「ぬい活は精神的な幼児化の表れ」とする見出しも出ました。ぬいぐるみに愛着を持つことは、心理学ではどう説明されてきたのでしょうか。
私は最初、この話は「大人がぬいぐるみを持つのは普通か、幼いか」という二択で決まるものだと思っていました。資料を読んでみると、研究が答えているのは別の問いでした。見出しにある専門家の発言は全文を確かめられなかったので、この記事では、原典や報道で確認できた研究と調査の数字だけを2026年11月時点で整理します。
- ぬいぐるみに愛着を持つ心理は、心理学で「移行対象」と呼ばれる考え方で説明されてきた
- 2011年の実験では、仲間はずれを経験した人がテディベアに触れると、他の人を助ける行動が増えた
- 青年期になっても移行対象に愛着がある人は幸福感が低い傾向があるという1998年の調査は、原因と結果を分けられない
- ぬい活の経験者は「8割以上」という調査と「約42%」という調査があり、対象が違うため比べられない
- 幼児化と決めつける根拠も、心配ないと言い切る根拠も、いまの研究にはそろっていない
ぬい活は、ぬいぐるみを撮る・連れ歩く・飾る活動です
「ぬい」という言葉は一部の推し活から広がりました
繊研plusが掲載したSHIBUYA109ラボの記事によると、ぬい活は「ぬいぐるみ活動」の略で、ぬいぐるみを推し活やファッションの一環で楽しむことを指します。「ぬい」という言葉は17年ごろから一部の推し活で使われていて、いまは多くの若者の間で使われる言葉になった、と書かれています。
ぬいは三種類に分かれています
同じ記事は、楽しまれているぬいを三種類に分けています。推しの人をぬいにした「推しぬい」、キャラクターもののぬいである「キャラぬい」、雑貨店やカプセルトイなどでも売られている「名前のないぬい」です。遊びに行く場所や服、一緒に行く友達に合わせて連れて行くぬいを選ぶ人もいる、とされています。
同じ記事には、ぬいを持つことで好きなものを間接的に共有でき、コミュニケーションのきっかけになるという説明もあります。自分の顔が写った写真をSNSに載せることに抵抗がある人が、代わりにぬいを写す例も挙げられています。
心理学では、ぬいぐるみは「移行対象」と呼ばれてきました
ウィニコットが提唱した、親から離れる時期を支えるもの
ニューズウィーク日本版の記事によると、移行対象は精神分析家のD.W.ウィニコットが「移行対象と移行現象」という論文で提唱した考え方です。毛布やぬいぐるみが移行対象になることが多く、子どもは移行対象を「自分ではない」ものとして扱いながら、保護者との関係をなぞり、芽生えたばかりの自立心を高めていきます。成長して文化的な関心が育つと、移行対象への愛着は薄れるのが一般的だとも書かれています。
この論文の発表年は、資料によって違います。ニューズウィーク日本版は1951年とし、大妻女子大学の論文はWinnicott(1953)と書いています。どちらが正しいか私は原著で確かめていないので、年は二つ並べておきます。
日本の乳幼児では、所有率が上がっているとされています
大妻女子大学の論文は、乳幼児が移行対象を持つことには個人差と文化差が大きく、日本は欧米より所有率が低いと報告されてきたと書いています。ところが近年は、日本の乳幼児の所有率が急に増えているという別の研究(赤津、2019)も引いています。理由の一つとして、女性の社会進出や核家族化が考えられているものの、これは「一因ではないか」という推測の段階です。
大人の愛着と、移行対象の考え方は同じ話なのか
大人が誰かに感じる安心感の話としては、「愛着スタイル」がよく使われます。乳児と養育者の関係の分類を大人の恋愛関係に当てはめた研究で、夫婦関係に溝ができる仕組みを研究の数字で読んだ記事で詳しく書いています。ただ、愛着スタイルは「人との関係」の型で、ぬいぐるみへの愛着とは別の枠組みです。ぬい活を愛着スタイルだけで説明できる、という研究は今回確認できませんでした。
ぬいぐるみやマスコットを、身近に置いていますか?
- 持ち歩いている
- 家に置いている
- 以前は持っていた
- 持ったことがない
大人への効果は、触感と仲間はずれの実験で見えてきます
2011年の実験:テディベアに触れた人は、他の人を助けやすくなった
英国心理学会(BPS)のResearch Digestは、ケネス・タイらによる二つの実験を紹介しています。参加者の一部に「あなたは将来ひとりになるタイプです」という偽のフィードバックを返したり、グループ作業で「誰もあなたを選びませんでした」と伝えたりして、仲間はずれの気持ちを作ります。その後、80cmのふわふわしたテディベアを「商品」として評価してもらい、抱いて評価する人と、離れて評価する人に分けました。
結果は、仲間はずれにされた人のうち、テディベアに触れた人のほうが、今後の実験に協力すると答えやすく、別の参加者とお金を分ける課題でも気前がよくなりました。仲間はずれにされなかった人では、触れても差が出ませんでした。
2023年の研究とForbes JAPANの整理
Forbes JAPANは、2023年の研究として、テディベアの見た目・匂い・撫でたり抱いたりしたときの感触が合わさって、年齢に関係なく持ち主に癒やしをもたらすという内容を紹介しています。何かを抱きしめる感覚は、対人の信頼度の上昇や、体内のコルチゾール値(ストレスに関わるホルモン)の低下とも関連している、とも書かれています。これは抱きしめる行動一般の話で、ぬいぐるみに限った結果ではありません。
この実験から言えないこと
BPSの記事は、効果の仕組みについて、触れたことで生じた前向きな感情が、人を助ける行動に結びついた可能性を挙げています。オキシトシンの増加やコルチゾールの低下も推測として書かれていますが、直接は測っていません。
私がこの実験を読んで感じたのは、ぬいぐるみは「いつでも癒やす道具」ではなく、仲間はずれのようなつらい状況の後で効いた、という点が大事だということです。毎日ぬいぐるみを抱けば誰でも気持ちが安定する、とまでは、実験は言っていません。
幼児化と言えるのか:1998年の調査が示すこと
愛着が残る人は幸福感が低い傾向があった
ニューズウィーク日本版は、学術誌「Child Psychiatry and Human Development」に発表された1998年の調査を紹介しています。幼少期の移行対象に愛着があると答えた人は、そうでない人より母親とのつながりが強いことが分かりました。一方、青年期になっても移行対象に愛着を持つ人のほうが、精神症状が多く、全般的な幸福感は低い傾向にあったと書かれています。
この数字を「ぬい活は幼児化の表れ」の根拠に使う人がいるかもしれません。私はそう読むのは無理があると考えています。理由は三つあります。
原因と結果は、この調査では分けられない
一つ目は、因果が逆かもしれない点です。幸福感が低いからぬいぐるみに頼るのか、ぬいぐるみに頼るから幸福感が下がるのか、この種の調査では区別できません。実際、先に見た2011年の実験では、つらい状況の後にぬいぐるみに触れた人の行動が前向きになっていました。
二つ目は、調べた対象です。ニューズウィーク日本版の記事は「青年期」と書いていて、いまのぬい活の中心層とは時代も文化も違います。三つ目は、移行対象とぬい活の違いです。ぬい活は写真を撮る、服を着せる、一緒に出かけるといった、他の人と共有する楽しみ方が多く、一人で抱えて安心を得る移行対象とは、使い方が同じとは限りません。
米国の成人の半数以上が、子どもの頃のテディベアを持っていた
Forbes JAPANによると、2017年の調査では、米国の成人の半数以上が、子どもの頃にもらったテディベアをいまも持っていると答えました。大人がぬいぐるみを手元に置くこと自体は、珍しい行動ではないことが分かります。同じ記事は、子どもの頃のおもちゃに依存しすぎるのはよくないが、健全な関係を築くことは可能で、有益でさえある、とも書いています。
ぬい活の経験者は、調査によって「8割以上」とも「約42%」とも出ます
SHIBUYA109ラボの調査:15〜24歳の女性507人で8割以上
SHIBUYA109ラボは、15〜24歳の女性507人を対象にした調査で、ぬい活の経験者が8割以上だったと発表しています。同じ調査で、7割が「お守りを所持しているような感覚である」と答えました。インタビューでは「ぬいは自分の分身」「何かを頑張るときに寄り添ってくれる存在」という声があったそうです。
創作品モールあるるの調査:15〜35歳の女性200名で約42%
システムリサーチが運営する創作品モール「あるる」は、2025年11月28日に、15〜35歳の女性200名を対象にした調査を行いました。「現在している」「過去にしていた」「興味がある」を合わせると約42%です。
なぜ2つの数字は比べられないのか
数字だけを見ると、8割と約42%で倍近い差があります。私も最初は「どちらかが間違っているのでは」と思いました。表で並べると、集計の前提が違うことが分かります。
| 項目 | SHIBUYA109ラボ | 創作品モールあるる |
|---|---|---|
| 対象 | 15〜24歳の女性507人 | 15〜35歳の女性200名 |
| 数えた人 | ぬい活の経験者 | 現在している・過去にしていた・興味がある |
| 結果 | 8割以上 | 約42% |
507人 × 0.8 = 405.6人。「8割以上」は、少なくとも約406人にあたります。
200名 × 0.42 = 84名。「約42%」は、約84名にあたります。
年齢の幅が違い、回答者の集め方も違います。あるるの調査は「興味がある」人まで数えているのに、数字は低くなっています。この二つを並べて「日本の若い女性の何割がぬい活をしている」とは言えません。私は、どちらの調査も「若い女性の中に、ぬい活を経験した人がかなりいる」ことを示す材料として読んでいます。
ぬい活の楽しみ方と、お金の動き
最も多いのは「写真を撮る」
あるるの調査では、ぬい活の楽しみ方(複数回答)は「写真を撮る」が64.3%で最も多く、「一緒にお出かけする」が44.0%、「部屋に飾る・収納を工夫する」が38.1%、「衣装や小物でコーデ」が32.1%でした。リリースは、楽しみ方の割合の分母(回答者のうち誰を対象にした割合か)を書いていません。サンプルの200名全員ではない可能性があるので、順位の目安として読むのが安全です。
衣装・小物の購入や興味は30%超
ぬいぐるみ本体に加えて、衣装や小物などの着せ替え系アイテムは、30%超が購入または興味ありと答えました。アイテムを選ぶときに最も重視されたのは「デザインの可愛さ」で63.1%、次が「ぬいの雰囲気に合うこと」の38.1%でした。リリースは、写真を映えさせたい気持ちが、周辺アイテムの市場を広げる要因になると見ています。
推し活グッズ全体の動きは、カプセルトイ市場を協会の数字で読んだ記事でも書いています。「大人向け」の中心は20〜30代の女性で、推し活グッズが売れ筋に入っていました。ぬい活の周辺アイテムが伸びる流れとも、方向は重なります。
日本では、ぬいぐるみを持ち歩く大人が多い
日本感性工学会の春季大会で、東京大学の大学院生が行った発表の概要には、日本では質の高いぬいぐるみグッズが多く売られ、ぬいぐるみを持ち歩く大人が多いと書かれています。ぬいぐるみの研究は、これまで移行対象として子どもの発育と結びつけられてきたものの、大人とも共存するプロダクトとして、文化の面から考える余地がある、という問題提起です。
ぬい活のデメリットと、研究から言えない部分
大人のぬいぐるみについての研究は、まだ少ない
大妻女子大学の論文は、日本の移行対象の研究は非常に限られていると書いています。この論文自体も、大学生200名程度に質問紙調査を行う計画を述べた段階の資料で、結果は載っていません。ここまで紹介した研究の多くが、子どもか海外の学生を対象にしています。
実験の効果は「つらい状況の後」に出た
2011年のテディベアの実験で効果が出たのは、仲間はずれにされた参加者だけでした。ぬいぐるみに触れる行為そのものが、気分を安定させる万能の方法だとは言えません。
購入費用の話は、調査に金額がない
衣装や小物の購入に興味がある人が30%超いる、と分かっても、いくら使っているかは調査に書かれていません。ぬい活を続けるなら、使う金額は自分で決めておく必要があります。
自分のぬい活を続けるか考えるときの目安
ぬいぐるみを何に使っているかを見る
ここからは、研究から言える範囲を超えた、私の整理です。2011年の実験では、つらい状況の後にぬいぐるみが助けになりました。そのため、疲れた日や緊張する場面で安心を得る道具として使っているなら、研究の方向と合っています。写真を撮る、服を着せる、友達とぬいを見せ合うといった楽しみ方なら、趣味として自然な範囲です。
一人の時間だけに偏っていないかを見る
1998年の調査は原因を断定できないものの、青年期まで愛着が続く人に幸福感の低い傾向がありました。ぬいぐるみがないと外出も眠ることもできない、人と会うのを避ける理由になっている、という状態が続くなら、ぬいぐるみの問題ではなく、気分の落ち込みや不安のサインかもしれません。つらさが続くときは、学校の相談室、職場の産業医、自治体の窓口、医療機関といった専門の窓口に相談してください。
私の部屋にあるのは、ポトスが一鉢だけです。ぬいぐるみを持っていない側の人間として書いているので、ぬい活をしている人の実感は、この記事で扱えていない部分が大きいと思います。
ぬい活の心理でよくある誤解
ぬいぐるみに愛着がある大人は、精神的に未熟ですか
未熟と言える根拠は確認できませんでした。米国の成人の半数以上が、子どもの頃のテディベアを持っているという2017年の調査があります。1998年の調査は幸福感の低い傾向を示しましたが、原因と結果は分けられていません。
移行対象は、子どもだけのものですか
心理学の定義は、乳幼児が肌身離さず持ち歩く最初の「自分ではない所有物」です。ただ、大妻女子大学の論文のように、青年期の女性にとって慰めになる存在が何かを調べる研究もあり、大人まで含めて考える研究が出てきています。
ぬい活をする人は、友人関係に不満があるのですか
SHIBUYA109ラボの記事には、ぬいを持つことで好きなものを共有でき、コミュニケーションのきっかけにしている人がいるとあります。孤独の代わりとは限らず、人との関わりを増やす使い方もあります。ぬい活をする人全体の友人関係を調べた調査は、今回確認できませんでした。
まとめ:ぬい活は幼児化と決められない。研究は、使い方と状況を見る必要があると示しています
ぬいぐるみへの愛着は、心理学では移行対象という考え方で説明されてきました。大人への効果としては、2011年の実験で、仲間はずれにされた人がテディベアに触れると他の人を助ける行動が増えました。ただし、効果が出たのはつらい状況の後だけです。
1998年の調査には、青年期になっても愛着がある人の幸福感が低い傾向がありましたが、原因と結果は分けられません。ぬい活の経験者は、調査によって8割以上とも約42%とも出ますが、対象と数え方が違うため、比べられません。幼児化と決めつける根拠も、まったく心配ないと言い切る根拠も、2026年11月時点の資料にはそろっていません。
自分のぬい活を考えるときは、何のために使っているかと、他の人との関わりが減っていないかを見てください。最新の研究は各資料で確認をお願いします。
この記事の内容、読む前から知っていましたか?
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- なんとなく知っていた
- 初めて知った
- 誤解していた
📚 参考文献・出典
- ・繊研plus(FASHIONSNAP掲載)「Z世代の8割が経験「ぬい活」」 https://www.fashionsnap.com/article/2025-03-16/nui-katsu-shibuya109/
- ・創作品モールあるる(システムリサーチ)「ぬい活の利用実態調査」(ネットショップ担当者フォーラム掲載のリリース) https://netshop.impress.co.jp/r/prtimes/items/000000132.000144334
- ・ニューズウィーク日本版「ルームメイトのブランケットが「ボロボロすぎる…」愛用の「ブランキー」にネット震撼」 https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/55161
- ・Forbes JAPAN「子供の頃のおもちゃ、大人になっても手放せない3つの理由」 https://forbesjapan.com/articles/detail/68756
- ・British Psychological Society Research Digest「Feeling socially excluded? Try touching a teddy bear (seriously)!」 https://bps.org.uk/research-digest/feeling-socially-excluded
- ・西島花音「現代日本における青年期女子の「慰める存在」としての移行対象とその心理的機能」人間生活文化研究 No.34(大妻女子大学) https://journal.otsuma.ac.jp/documents/journal/2024no34/2024_515.pdf
- ・日本感性工学会 第20回春季大会ナイトセッション「ぬいぐるみ感性学の未来」 https://www.jske.org/wp/wp-content/uploads/2025/02/0c28fafb0cd1788a3c05368ad2c69c56.pdf
📖 この記事について 本記事は、心や行動の“仕組み”を知る面白さをお届けする読み物です。心の不調の診断・治療を目的としたものではないため、つらい状態が続く場合は専門の窓口にご相談ください。










































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