なぜ東大は授業料を値上げできたのか|国立大学の標準額535,800円と20%増の上限の仕組み

東京大学の学部の授業料は、2025年度以降の入学者から年額53万5800円が64万2960円になりました。東大の新学部に学生有志が撤回を求めたと報じられ、授業料の値上げもあらためて話題になっています。ここで引っかかるのは、国立大学の授業料は国が決めているはずなのに、なぜ東大は値上げができたのかという点です。結論は、国が決めているのは「標準額」で、実際の授業料を決めるのは各国立大学であり、標準額の20%増までなら上げられる仕組みになっているからです。この記事では、省令と文部科学省の資料、旺文社教育情報センターの調べで確かめ、2026年11月時点の内容で整理します。

  • 国立大学の授業料の標準額は、省令で年53万5800円と定められています
  • 授業料の年額を決めるのは国立大学法人で、特別の事情があれば標準額の20%増まで上げられます
  • 東大の64万2960円は、標準額の20%増ちょうどの上限額です
  • 標準額そのものは2005年度から据え置かれていて、上がったのは各大学の設定額です
目次

東大の授業料64万2960円は、標準額の20%増で上限いっぱいです

まず金額を確かめます。東京大学は2024年9月に、教育・学修環境の改善などを目的として、2025年度以降の学部入学者の授業料を年額53万5800円から64万2960円に引き上げると決めました。同時に、世帯収入600万円以下の日本人学部生を対象に授業料を全額免除するなど、支援の拡充も発表しています。集英社オンラインの記事に、この経緯が書かれています。

53万5800円の20%増が64万2960円です

計算してみます。535,800円×1.2=642,960円です。差額は642,960円−535,800円=107,160円で、標準額に対して20%の増加です。

報道の見出しにある「年10万円超」は、この107,160円のことだと読めます。私は最初、東大が独自に決めた金額だと思っていましたが、計算してみると標準額のちょうど1.2倍で、端数まで一致します。東大は自由に金額を決めたのではなく、決められる範囲の一番上を選んだことになります。

「値上げ」と言っても、動いたのは標準額ではありません

見出しの印象では、国が授業料を上げたようにも読めます。ただ標準額は後の章で見るとおり、2005年度から53万5800円のままです。変わったのは東大の設定額で、国立大学全体の仕組みが変わったわけではありません。ここが、見出しの温度と仕組みの数字の違うところだと私は思います。

国立大学と私立大学の違いを学費や受験の面から比べたい方は、国公立大学と私立大学の違いを整理した記事もあわせて読んでください。

国が決めているのは「標準額」で、授業料を決めるのは各大学です

国が決める標準額と各大学が決める授業料を考える、大学のキャンパスの建物の前を歩く人たちの写真
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国立大学の授業料は、文部科学省令の「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」に定められています。この省令は、国立大学法人法22条4項に基づいて定められたものです。

省令は「標準として」と書いています

省令2条は、授業料の年額、入学料、検定料を、表に掲げる額を「標準として」国立大学法人が定めると書いています。大学の学部の授業料の年額は53万5800円、入学料は282,000円です。条文の主語は国立大学法人で、金額は「標準」と位置づけられています。

文部科学省も同じ説明をしています。平成22年度の調査結果では、授業料、入学料、検定料は、省令に定める「標準額」を踏まえつつ、各国立大学法人が「一定の範囲内」でそれぞれ定めることになっていると書かれています。

平成22年度は、ほとんどの大学が標準額と同額でした

この調査では、86の国立大学法人のうち81大学が標準額と同額で、5大学が一部の区分で標準額と異なる額にしていました。異なる5大学も、大学院の一部の区分を標準額より1万5000円低い520,800円にしたもので、標準額を超えた大学はありませんでした。「全国どこの国立大学でも同じ」という印象は、この時期の実態から来ていると考えられます。

私も、国立大学の授業料は全国一律だと思っていました。省令を読み直すと、一律なのは「標準」であって、法人が自分で決める余地がもともと書かれています。

2004年度の法人化で、授業料を決める主体が変わりました

旺文社教育情報センターによると、国立大学の入学金と授業料は2004年度の法人化以降、文部科学省が標準額を定め、各大学が標準額の20%増(2004年度から2006年度は10%増)までの範囲で決める形になりました。法人化の前後で、上げられる上限も10%から20%へ広がっています。

大学の学費について、いちばん気になることはどれですか?

  1. 授業料の金額
  2. 入学料などの初期費用
  3. 免除や奨学金の条件
  4. 4年間の総額

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上限の20%増は、省令10条の「特別の事情」が条件です

では、どんなときに標準額を超えられるのでしょうか。省令10条は、国立大学法人が授業料の年額などを定めようとする場合に、特別の事情があるときは、2条などに規定する額にそれぞれ百分の百二十を乗じて得た額を超えない範囲内で定めることができると書いています。

条文に書かれているのは上限の計算式です

条文が示しているのは、標準額に百分の百二十を乗じた額という上限です。授業料の年額なら、53万5800円の20%増の64万2960円が上限額になります。入学料も同じ式が当てはまるので、282,000円に20%を足した額が上限です。

「特別の事情」の中身は条文に書かれていません

私が条文で確かめた範囲では、10条は「特別の事情」が何を指すのかを定めていません。各大学が値上げの理由として公表しているのは、教育環境の整備や国際化の推進などです。この条件が個別の大学でどう判断されているかは、省令の文面だけでは分からず、この記事では推測で補いません。

標準額を超えている国立大学は、東大だけではありません

東大の値上げが注目されましたが、標準額より高い授業料を設定している国立大学は、他にもあります。旺文社教育情報センターが2025年3月と2026年8月にまとめた資料から、確認できたものを表にしました。

大学(改定年度) 授業料(年額) 大学が挙げている改定の理由
千葉大学(2020年度) 642,960円 学部・大学院生の全員留学を目指した留学支援体制の強化など
東京大学(2025年度) 642,960円 教育学修環境改善に活用する
東京科学大学(旧東京医科歯科大学・2020年度) 642,960円 教育体制・教育内容の向上と教育環境の整備
東京科学大学(旧東京工業大学・2019年度) 635,400円 国際化の推進、教育環境等の整備など
東京藝術大学(授業料2019年度) 642,960円 実技指導の重点強化など(入学金も338,400円)
東京農工大学(2024年度) 642,960円 教育・修学環境・修学支援等の改革
一橋大学(2020年度) 642,960円 社会科学分野の教育研究拠点づくりに必要な改革
※出典:旺文社教育情報センター(2025年3月13日)。標準額は535,800円。2026年度の資料では、このほかに熊本大学が594,600円と記載されています。

ほとんどの大学が、上限の642,960円を選んでいます

表の7校のうち、6校が642,960円で、上限額と同じです。旧東京工業大学だけが635,400円でした。2026年度の資料では、授業料が635,400円なのは東京科学大学、594,600円なのは熊本大学で、他の大学は上限の642,960円と書かれています。

熊本大学の594,600円は、標準額より594,600円−535,800円=58,800円高く、58,800円÷535,800円で約11%の増加です。旧東京工業大学の635,400円は、635,400円−535,800円=99,600円高く、99,600円÷535,800円で約19%の増加です。

上限の範囲内で、各大学が増額幅を変えている例です。「標準額の20%増まで」は目安ではなく上限で、上限より低い額を選ぶ大学もあります。

改定する大学は、いまも続いています

旺文社教育情報センターの2026年8月の資料では、2026年度に授業料を改定した国立大学は4校で、2027年度も検討中を含めて4校とされています。東大の値上げは、続いている改定の一例です。

標準額は1975年度の3万6000円から14.9倍になり、2005年度から動いていません

標準額が据え置かれてきた国立大学の授業料を考える、大学の階段教室で話す学生たちの写真
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授業料の標準額は、いつ、どのくらい上がってきたのでしょうか。旺文社教育情報センターの2025年3月の資料によると、1975年度の国立大学の入学金は5万円、授業料は3万6000円でした。入学金は2002年度に、授業料は2005年度に現在の金額になり、以降は据え置かれています。

1975年度と比べると、授業料は14.9倍です

同じ資料で、1975年度と比べた倍率は、入学金が5.6倍、授業料が14.9倍とされています。

535,800円÷36,000円=約14.88で、約14.9倍です。資料の数字と一致しました。

文部科学省は、平成28年に標準額を上げていないと説明していました

文部科学省高等教育局は平成28年3月4日の資料で、授業料の標準額について、最近の10年間において引上げは行っておらず、平成28年度予算案でも前年度と同額の53万5800円としていると説明しています。同じ資料には、毎年授業料を引き上げて40万円も値上げすることは考えていないとも書かれています。

国立と私立の差は、5.1倍から1.8倍に縮まっています

旺文社の同じ資料のグラフには、私立大学の授業料を国立大学の授業料で割った倍率が示されています。1975年度は5.1倍、2023年度は1.8倍です。

グラフの数字から確かめると、私立大学の授業料は1975年度の182,677円から2023年度の959,205円へ、959,205円÷182,677円で約5.3倍になっています。国立大学の標準額が約14.9倍になったので、倍率は縮まります。

私は、国立大学は安いままで私立との差が開いていると思い込んでいました。数字で見ると逆で、1975年度から2023年度にかけて差は縮まっています。ただし2023年度でも、私立大学は国立大学の標準額の約1.8倍です。

東大の新学部への反発は、授業料の使い道をめぐる議論です

集英社オンラインの記事によると、東京大学は2027年9月に約70年ぶりとなる新学部「価値創造学部」を開設します。授業はすべて英語で行い、学士と修士5年一貫の教育課程です。

学生有志は、2024年の値上げとの整合性を問題にしています

東京大学文学部学生有志会議は、「今からでも遅くはない、撤回を」とX(旧Twitter)に投稿しました。記事は、2024年に決まった学費値上げとの整合性や、既存学部の定員削減などが問題視されていると伝えています。

是非はここでは判断しません

新学部の設置や値上げが妥当かどうかは、この記事では判断しません。確かめられるのは、値上げの理由として東大が公表していたのが教育・学修環境の改善などであり、授業料の使い道が議論の中心になっているという点です。

値上げで、4年間の負担はいくら変わるのか

授業料の差額を、受験生や保護者の目線で計算してみます。国立大学の学費は、授業料のほかに入学料が必要です。

初年度は標準額の大学より高くなります

入学料282,000円と授業料の合計で比べます。標準額の大学は282,000円+535,800円=817,800円です。授業料が642,960円の大学は282,000円+642,960円=924,960円で、差額は107,160円です。

4年間の授業料の合計でも差が出ます

授業料が4年間変わらないと仮定した場合です。標準額の大学は535,800円×4=2,143,200円、642,960円の大学は642,960円×4=2,571,840円で、差額は107,160円×4=428,640円です。

実際の負担は、授業料免除や奨学金で変わります。東大は世帯収入600万円以下の日本人学部生の授業料を全額免除すると発表しており、免除の対象かどうかで負担は大きく違います。免除や奨学金の制度は、奨学金制度の仕組みを解説した記事で確認できます。

授業料の記事を読むときの注意点

授業料のニュースを読むときに、確かめておきたい点が3つあります。

金額は大学・学部・入学年度ごとに違います

この記事の金額は、昼間部の学部の授業料です。夜間部や大学院は標準額が別に定められています。2025年度以降の入学者が対象という報道もあるので、在学中の人と入学する人で金額が違う可能性があります。志望校の金額は、大学の公式ページや募集要項で確認してください。

高校の授業料は別の制度です

国立大学の標準額は省令で決まりますが、高校の授業料の負担は就学支援金など別の制度で決まります。高校の話は、高校無償化で私立の授業料が45万7200円までになる理由を解説した記事にまとめています。

この記事が確かめていないこと

東大の改定を決めた会議の議事や、東大の公式発表の原文は、今回の調査では開けませんでした。東大の金額と支援策は、集英社オンラインの記事と旺文社教育情報センターの資料で確かめています。他大学の増収額や使い道の内訳も、確かめていないので書いていません。

志望校の授業料を確かめる順番と判断の基準

授業料の情報は、次の順で確かめると迷いません。

1. 志望校の入学年度の授業料を確かめる

標準額は53万5800円ですが、その大学が標準額のままとは限りません。入学する年度の募集要項か、大学の学費のページで、授業料の年額を確認します。

2. 入学料などを足して、初年度と4年間を計算する

授業料のほかに入学料が必要です。この記事の計算のように、初年度の合計と、4年間の合計を自分で出します。

3. 免除や奨学金の対象かどうかを確かめる

授業料の免除は、世帯収入などの条件が大学ごとに違います。大学の学生支援のページで、自分の世帯が対象になるかを確認します。

よくある誤解

国立大学の授業料は、全国どこでも同じですか

同じではありません。省令が定めるのは標準額で、授業料の年額を決めるのは各国立大学法人です。特別の事情があれば、標準額の20%増までの範囲で標準額より高くできます。

授業料を上げたのは、国ですか

標準額は2005年度から53万5800円のままで、国が引き上げたわけではありません。東大や千葉大学など、授業料を上げたのは各大学です。

東大の値上げは、上限をこえた特別な金額ですか

こえていません。東大の64万2960円は標準額の20%増で、省令が認める上限と同じ額です。千葉大学、東京農工大学、一橋大学なども同じ金額を設定しています。

まとめ:東大の授業料は、国が決めた標準額の20%増という上限の額です

国が省令で決めているのは授業料の標準額で、2005年度から年53万5800円のままです。授業料の年額は各国立大学法人が決め、特別の事情があれば標準額の20%増まで上げられます。東大の64万2960円は、その上限と同じ金額です。

標準額を超えている国立大学は、東大のほかにもあります。上限より低い額を選ぶ大学もあるので、志望校ごとに入学年度の金額を確かめる必要があります。初年度は標準額の大学と比べて107,160円、4年間では428,640円の差が出ます。免除や奨学金の対象になるかどうかで負担は変わるため、金額と一緒に確かめてください。

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📚 参考文献・出典

この記事について 本記事は、国立大学の授業料を決める制度の仕組みを紹介する読み物で、個別の大学の学費や免除の可否を示すものではありません。金額や制度は2026年11月時点の公表資料によるもので、改定されることもあります。志望校の学費や免除の条件は、各大学の公式ページや募集要項でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。