売上や株価や河川の長さのような数字を集めて、いちばん左の桁だけを数えると、1から9までがほぼ同じ割合で出てくる。私はそう思っていました。9種類なら、どの数字も100%÷9≒11.1%ずつです。
ところがベンフォードの法則では、先頭の数字が1になる確率は30.1%、9になる確率は4.6%です。この記事では、Wikipedia「ベンフォードの法則」、PRESIDENT Online、Qlik(Talend Studio)のヘルプに載っている数字を確かめたうえで、なぜ1が多くなるのかを対数と複利の計算で説明します。2の累乗を並べて、先頭の数字を自分で数えた結果も載せます。
- 先頭の数字が1になる確率は30.1%で、9は4.6%
- 確率は対数で決まり、1から3までで60.2%を占める
- 2の累乗を1,000個数えると、先頭が1のものは301個だった
- 範囲や額が決まっている数字には当てはまらず、外れても不正の証拠にはならない
先頭の数字は1が3割で、9は5%に届かない
Wikipediaの表で確かめる
Wikipediaの説明では、ベンフォードの法則は、自然界に出てくる多くの(全てではない)数値について、最初の桁の分布が一様ではなく、ある特定の分布になるという法則です。十進数の場合の割合は次の表のとおりです。
| 先頭の数字 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 確率 | 30.1% | 17.6% | 12.5% | 9.7% | 7.9% | 6.7% | 5.8% | 5.1% | 4.6% |
| ※出典:Wikipedia「ベンフォードの法則」(基底が10の場合) | |||||||||
当てはまりやすいデータとして、PRESIDENT Onlineの記事は、企業の売上高、株価、自治体の人口、電気や水道などの公共料金、納税額、河川の長さを挙げています。Qlikのヘルプも、1が先頭になる確率は約30%、2は17%、3は12%と書いています。
件数が少ないと、割合はぴったりにならない
この割合は、件数が十分にあるときの話です。少ない件数を数えても、30%ぴったりにはなりません。件数が少ないと割合がぶれることは、世論調査の支持率が数ポイント動く理由と同じ考え方で、標本誤差と呼ばれます。くわしくは世論調査で内閣支持率45%という数字がどう作られるかの記事にまとめています。
1881年、対数表の1のページだけが擦り切れていた
ニューカムが気づいたこと
Wikipediaによると、この法則の発見は1881年にさかのぼります。アメリカの天文学者サイモン・ニューカムが、計算に使う対数表で、1で始まる数値が載っている最初のほうのページだけが、ほかのページよりずっと擦り切れていることに気づきました。1で始まる数を引く回数がほかより多かったと読めます。
ニューカムは、最初の桁の数をNとすると、その出現確率はlog(N+1)−log(N)になると提案しました。私は電卓アプリしか使わない世代なので、紙の表の擦り切れから法則に気づくという話は、少し想像しにくかったです。
1938年に再発見され、1996年に証明された
この法則は、1938年に物理学者のフランク・ベンフォードが再発見しました。ベンフォードは広い範囲のデータで検証し、法則には彼の名前が付きました。さらに1996年に、テッド・ヒルが、性質の違う複数の分布から集めた数値を混ぜた場合についても法則が成り立つことを証明した、とWikipediaに書かれています。
手元の数字(家計簿や請求書など)の先頭の桁を、数えてみたことはありますか?
- 数えたことがある
- 気になるが数えたことはない
- 考えたことがない
- 数えるほどの件数がない
📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・12票)
先頭の数字の確率は、対数で決まる
先頭がdになる確率の式
先頭がdになる確率は、log10(1+1/d)で計算できます。1のときはlog10(1+1/1)=log10(2)=0.301、9のときはlog10(1+1/9)=log10(10/9)=0.0458なので、約4.6%です。Wikipediaの表と同じ数字になります。
この式の意味は、対数の目盛りで数を並べたときの「幅」です。1,000から1,999までは、1,000の2倍にあたるところまでを含みます。9,000から9,999までは、9,000の10/9倍(約1.11倍)にしか届きません。対数で測ると、前者の幅は0.301、後者は0.046で、この幅の比がそのまま確率になります。
1から3までで6割になる
PRESIDENT Onlineの記事は、1から3で全体の60.2%を占めると書いています。確かめると、1から3のどれかで始まる確率はlog10(4)=0.602で、60.2%です。先頭が4から9になる数は、全体の4割に届きません。
複利で考えると、1で始まる期間が長くなる
年7%で増える売上を例にする
売上が毎年一定の割合で増えるとします。ここでは仮に年7%とします。売上が1,000万円から2,000万円になるまでには、ln2÷ln1.07≒10.2年かかります。先頭が1の期間です。9,000万円から1億円になるまでは、ln(10/9)÷ln1.07≒1.6年です。1,000万円から1億円まで10倍になるのはln10÷ln1.07≒34.0年なので、先頭が1だった期間の割合は10.2÷34.0≒30.1%になります。
計算していて、30.1%という同じ数字が出たのには驚きました。増える割合を7%から3%に変えても、この比はln2÷ln10≒0.301のまま動きません。増え方が一定の数は、桁が上がるたびに、1で始まる期間がいちばん長くなります。
すべてのデータをこの理屈で説明できるわけではない
Wikipediaは、この法則がさまざまな観点から説明されてきたと書いています。PRESIDENT Onlineが挙げる河川の長さや自治体の人口は、複利で増える数とは限りません。性質の違う複数の分布を混ぜても成り立つことは、先に紹介した1996年の証明が示しています。ここで書いた複利の計算は、1が多くなる理由を1つの見方で確かめたものです。
2の累乗を数えて確かめる
計算した結果を並べる
2を何度も掛けて倍にしていく数も、複利で増える数の一種です。2の1乗から100乗まで、さらに1,000乗までの先頭の数字を、Pythonで数えました。
from collections import Counter print(sorted(Counter(str(pow(2, n))[0] for n in range(1, 1001)).items()))
| 先頭の数字 | 2の1〜100乗 | 2の1〜1000乗 |
|---|---|---|
| 1 | 30個 | 301個 |
| 2 | 17個 | 176個 |
| 3 | 13個 | 125個 |
| 4 | 10個 | 97個 |
| 5 | 7個 | 79個 |
| 6 | 7個 | 69個 |
| 7 | 6個 | 56個 |
| 8 | 5個 | 52個 |
| 9 | 5個 | 45個 |
| ※筆者がPythonで数えた結果 | ||
1,000個では1が約3割、理論値と小数点まで同じになった
1,000個のうち、先頭が1のものは301個でした。301÷1000=30.1%で、理論値の30.1%と同じです。9は45個で4.5%、理論値の4.6%に近い数字です。
100個のときは、1が30個、3が13個で、理論値の12.5%より少し多く出ています。件数が少ないと、理論値からのずれが目立つことが、ここでも確かめられます。
経費や売上の不正を調べる場面で使われる
先頭の数字の分布を、理論値と比べる
Wikipediaによると、この法則を会計監査に使って、事務処理の不正を見つけたというニュースもあります。PRESIDENT Onlineの記事も、経費の不正を見抜く方法として紹介しています。
Qlikのヘルプにある例では、売上額のデータで、1で始まる額の通常の出現パターンは30%なのに、分析したデータでは25%でした。ヘルプは、何者かが売上額を変更したか、データの一部が欠けている可能性を挙げ、「不正の可能性が疑われます」と書いています。差は30%−25%=5ポイントです。
実際の不正の発見では2桁目以降も見る
Wikipediaは、不正の発見では、普通は2桁目以降も使うと書いています。2桁目にも偏りがあり、私が計算した値では、2桁目が0になる確率は12.0%、9になる確率は8.5%です。先頭の桁を10から99までの2桁にして、log10(1+1/d)の合計を2桁目の数字ごとに求めた値です。先頭の1桁だけでなく、2桁目以降の偏りも、理論値と比べる材料になります。
当てはまらないデータと、使うときの注意点
範囲が決まっている数字には使えない
Wikipediaは、使えない例を挙げています。イギリスの村の人口は、村の定義が人口300人から999人の集落なので、この範囲の数字には法則を単純に当てはめられません。小額の保険金請求も、定義が50ドルから100ドルの請求だと、同じ理由で当てはまりません。
この理由を広げると、月々の手当や会費のように額が決まっている数字や、上限と下限が近い数字も、先頭の数字に偏りが出ると考えられます。これはWikipediaの例から私が考えたことで、個別のデータについては、定義を確かめてください。
外れても、不正の証拠にはならない
分布が法則から外れた理由は、不正のほかにもあります。範囲が決まっている、件数が少ない、異なる種類の数字が混ざっている、などです。外れた事実と、不正という原因は別の話で、この区別は相関関係と因果関係の違いの記事で書いた考え方と同じです。Qlikのヘルプも、「疑われます」という書き方で、断定はしていません。
最初は魔法のような法則だと思っていました
経費の不正を一発で見抜ける法則だと思っていましたが、調べると、使える条件がかなり限られていて、外れたときも調査の入口にすぎません。大学の社会調査法のゼミで、集計結果が偏ったら、まず設問と回収方法を確かめる習慣を教わったことを思い出しました。
手元の数字で試す手順と判断のしかた
試せるデータか、3つの質問で確かめる
手元の数字を調べる前に、次の3つを確かめます。
- 最小の数と最大の数が、桁がいくつも違うほど離れているか
- 件数が、割合を数えられるくらい十分にあるか
- 人が決めた額や、上限・下限のある額ではないか
表計算での数え方
表計算ソフトでは、先頭の桁を取り出す列を作ります。LEFT関数を使えば、セルの左から1文字を取り出せます。そのあとCOUNTIF関数で1から9までの個数を数え、全体の件数で割って割合にします。小数や負の数が混ざっているときは、先に整えてから数えてください。出てきた割合を、上のWikipediaの表と見比べます。
理論値から大きく外れたときは、その数字が何の集まりなのかを、まず見直します。
ベンフォードの法則のよくある誤解
9で始まる数は、出にくい数なのか
先頭が9になる確率は4.6%で、1の30.1÷4.6≒6.5分の1です。ただし、9で始まる数そのものが出にくいわけではありません。対数で測ったときの、9,000から9,999までの幅が狭いことが理由です。
どんな数字の集まりにも当てはまるのか
当てはまりません。Wikipediaが最初に「全てのではない」と断っているとおり、範囲が決まっている数字には使えません。
法則から外れたら、不正があるのか
外れただけでは言えません。範囲が決まっている、件数が少ない、といった理由でも外れます。Qlikの例のように、調べるべき場所を絞る手がかりとして使うものです。
まとめ:ベンフォードの法則は、対数と複利で読める
先頭の数字が1になる確率は30.1%で、9は4.6%です。この確率は対数で決まり、複利で増える数なら、1で始まる期間が全体の約3割になることを、計算で確かめました。2の累乗を1,000個数えると、1は301個でした。
会計の不正を調べる場面でも使われますが、範囲が決まっている数字には当てはまらず、外れても不正の証拠にはなりません。手元の数字で試すときは、桁の幅、件数、人が決めた額かどうかの3つを先に確かめてください。2026年10月時点の資料と筆者の計算に基づく内容で、最新の情報は各資料でご確認ください。
この記事の内容、読む前から知っていましたか?
- 知っていた
- なんとなく知っていた
- 初めて知った
- 誤解していた
📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・13票)
📚 参考文献・出典
- ・Wikipedia「ベンフォードの法則」(確率の表・1881年のニューカム・1938年のベンフォード・適用できない例) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
- ・PRESIDENT Online「疑わしい”経費の不正”を簡単に見抜く方法 「ベンフォードの法則」を活用」 https://president.jp/articles/-/26317
- ・Qlik Talend Studio ヘルプ「不正の検出」 https://help.qlik.com/talend/ja-JP/studio-user-guide/8.0/fraud-detection
📖 この記事について 本記事は数字の見方を紹介する読み物で、不正の有無を判定するものではありません。数字は2026年10月時点の資料と筆者の計算に基づきます。










































コメントを残す