千代田区の新築マンション転売5年禁止要請はなぜ難しいのか|引き渡し後の特約と不動産協会の3つの対策

千代田区が三菱地所レジデンスなどに対し、区内で計画する分譲マンションについて、引き渡しから5年間の転売禁止を要請すると報じられました。区が業界団体ではなく、個別の物件に直接求めるのは初めてとされています。

見出しだけを見ると、新築マンションの転売が法律や条例で禁じられたように読めます。実際は違います。今回の転売禁止は、区が事業者に求めた「要請」で、買い主との売買契約に特約として入れてもらう形です。この記事では、特約でどこまで縛れるのか、なぜ引き渡しの後がいちばん難しいのかを、不動産協会の公表資料から整理します。2026年10月時点の報道にもとづいており、要請の細部は今後変わる可能性があります。

  • 千代田区の要請は、個別の物件に対して出された初めてのもの
  • 禁止の根拠は法律ではなく、売買契約に入れる特約
  • 引き渡しの後は、事業者が契約を解除する手段を持たない
  • 不動産協会の対策は、引き渡しまでの売却活動の禁止が中心

千代田区の転売5年禁止は何が初めてか

先に結論を書きます。初めてなのは「5年間の転売禁止」という中身ではなく、要請の相手です。区は2025年に業界団体へ同じ趣旨の要請をしており、今回は個別の分譲計画を持つ事業者に求めました。

2025年7月は業界団体への要請だった

千代田区は2025年7月、不動産協会などの業界団体に「転売制限特約」の導入を要請しました。対象は、補助金の交付や高さ制限の緩和が認められた、公共性の高い再開発事業で供給される新築分譲マンションです。求めた内容は2点で、購入者が引き渡しから原則5年間は転売できないようにすること、一つの物件で同一名義による複数戸の購入をできないようにすること、でした。

不動産協会の資料には、この要請が7月18日付だったと書かれています。

2026年10月は個別の計画への要請

日本経済新聞の報道を伝えるトレーダーズ・ウェブ(Yahoo!ファイナンス)によると、今回の対象は、現在約100戸のマンションを約200戸に建て替える計画です。着工は30年、完成は36年の予定とされています。都の制度で容積率の緩和を受ける物件となるもようで、区は27日にも要請するとしています。

戸数は約100戸から約200戸なので、建て替え後は現在の約2倍です(200÷100で計算)。

項目 2025年7月の要請 2026年10月の要請
要請の相手 不動産協会などの業界団体 三菱地所レジデンスなど(個別の事業者)
対象 補助金や高さ制限の緩和を受けた再開発の新築分譲 都の制度で容積率の緩和を受ける建て替え分譲
転売の禁止期間 引き渡しから原則5年間 引き渡しから5年間
同一名義の複数戸購入 禁止を要請 禁止を要請
※出典:はじめての住宅ローン(2025年8月の解説)、トレーダーズ・ウェブ(Yahoo!ファイナンス)。2026年10月分は報道ベースで、要請の正式な文書は確認できていません。

「個別物件で初」という見出しの熱さに比べると、中身は1年前の要請とほとんど変わりません。私はそこが気になりました。変わったのは、業界全体への「お願い」から、特定の事業者と特定の建物への「お願い」になったことです。

容積率の緩和を受けた物件が対象になる理由

東京の住宅とビルが並ぶ街並み。都心の分譲マンションが建つ地域のイメージです
Photo by Emanuel Odadjiev on Unsplash

報道では、今回の物件は都の制度で容積率の緩和を受けるもようとされています。区が転売禁止を求める相手に「緩和を受けた物件」が選ばれていることは、この要請の考え方を読む手がかりになります。

容積率は敷地に対する建物の大きさの上限

容積率は、敷地の面積に対する、建物の延べ面積の割合です。用途地域ごとに上限があり、この上限が高いほど、同じ敷地に大きな建物を建てられます。仕組みの詳しい説明は、建ぺい率と容積率の仕組みの記事にまとめています。

緩和は行政の許可で受けるもの

新宿区の案内によると、総合設計制度は、市街地の環境の整備改善に資すると認められる場合に、特定行政庁の許可によって容積率制限や斜線制限、絶対高さ制限を緩和する制度です。ただし、今回の物件が「都の制度」のうちどれに当たるのかは、報道では示されていません。ここでは、緩和が行政の判断で認められるものだという一般的な説明にとどめます。

区の2025年の要請は、補助金や高さ制限の緩和を受けた「公共性の高い」再開発を対象にしていました。行政の許可や補助を受けて大きな建物を建てるなら、その住戸が短期の売買の対象になる前に、実際に住む人へ届いてほしい。これが区の考え方だと私は読んでいます。区の資料そのものは確認できていないので、この点は私の読みです。

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転売禁止は契約でどう書かれるのか

書類を前に署名する場面。売買契約書の特約を確認するイメージです
Photo by Gabrielle Henderson on Unsplash

私は最初、「転売禁止」と聞いて、国か自治体が法令で禁じたのだと思っていました。間違いでした。

特約として売買契約に入る

はじめての住宅ローンの解説によれば、千代田区は事業者に対し、転売制限を特約として盛り込むよう求めています。特約とは、売買契約書に追加で書き込む、当事者同士の取り決めです。買い主はその内容に同意して契約します。

区の要請に法的な拘束力はない

同じ解説は、現段階では区から不動産事業者への要請にとどまり、法的な拘束力はないと書いています。区は国や都に対し、短期転売にかかる譲渡所得税の引き上げなどの根本的な抑制策を求めていく方針とされ、制度になるまでには時間がかかると見られています。事業者が要請に応じて契約書に条項を入れた場合に、はじめて買い主が縛られます。

なぜ引き渡しの後は止めにくいのか

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。不動産協会は2025年11月25日付の資料で、会員各社が順次取り組む対策を公表しました。その中で、引き渡し後の対策に限界があることを、はっきり書いています。

引き渡しの前は引き渡さない手が使える

協会の資料は、転売禁止の特約について、引き渡しをして所有権が買い主に移った後では、契約義務違反を把握できたとしても、契約を解除して引き渡しをしないという履行を担保できる手段が事業者にはもうない、と説明しています。裏返すと、引き渡しの前なら、違反が分かった時点で「引き渡さない」という選択肢が事業者の手元にあります。

引き渡しの後は民事訴訟しかない

引き渡し後に違反が見つかった場合、協会は、最悪の場合は民事訴訟に訴えるしかないとしています。建物の名義はすでに買い主のものです。事業者が名義を戻す、売却を止めるといった手段を自力で持っているわけではありません。5年という長さは、この限界をそのまま引き受けることになります。

協会が選んだのは引き渡しまでの3つの対策

そこで協会が会員各社の判断のもとで順次進めるとした対策は、次の3つです。対象は一般公募で販売する物件です。

  • 登録・購入戸数の上限制限(1物件あたりの購入戸数と、1回の販売期に登録できる住戸数を制限する)
  • 契約・登記等名義の厳格化(登録した申込名義で、契約、引き渡し、所有権の登記を行う)
  • 引き渡しまでの売却活動の禁止(売買契約から引き渡しまでの期間について、契約書や重要事項説明書に条項を新設する)

名義の厳格化は、申し込んだ人と登記上の所有者を一致させる取り決めです。登記の見方は不動産登記の仕組みで説明しています。協会の資料は、対象エリアや導入時期、制限戸数などの運用の詳細を、各社が個別に判断するとしています。

協会は、千代田区の要請と「一定期間の転売禁止」「購入戸数の制限」という点では共通すると述べたうえで、区の要請を、実効性なども勘案して現実的に修正・発展させたものだと説明しています。引き渡し後の5年間の禁止そのものは、この3つの対策に含まれていません。

財産権との兼ね合いは今後の論点

協会の資料は、憲法に財産権の保障があることにふれ、自由経済のもとで私的財産の処分に関する権利に制限をかけるのは慎重に考えるべき問題だと書いています。今回の個別要請をめぐっても、報道では、財産権との兼ね合いや、買い手の事情が変わったときの対応が論点として挙げられています。

この点について、どちらが正しいかを私が書くことはできません。購入者が納得して契約する特約と、法律による一律の禁止とでは、論じる前提も違います。ここでは、論点があることだけを押さえておきます。

5年の禁止で購入者が注意したい点

実際にその物件を買う人にとっての影響を考えます。住むために買い、5年以上住み続けるなら、この特約に困る場面は少ないでしょう。困るのは、事情が変わったときです。

転勤や家族の事情で売りたくなったとき

協会の資料自体が、契約後のお客様を取り巻く状況の変化により、短期間で売却を余儀なくされる場合もある、と認めています。そうした場合に特約が例外を認めるのか、認めるならどんな条件なのかは、物件ごとの契約書によります。今回の要請で例外をどう扱うのかは、私が確認できた報道や資料には書かれていません。

禁止が続く期間は完成後の5年間

報道の「完成は36年」が西暦の下2桁だとして、完成の年に引き渡されると仮定すると、5年間の禁止が終わるのは41年ごろです。

36+5=41。完成の年に引き渡しがあるとした場合の、私の計算です。実際の引き渡しの時期が変われば、この年も変わります。

着工の30年まで含めると、今から数えて契約・完成・禁止期間の終わりまで、かなり長い時間がかかります。計画の途中で買い主の家族構成や勤務地が変わる可能性は、決して小さくありません。

契約前に確認したい判断のポイント

この要請が実際の契約書に入るかどうかは、物件と事業者によって違います。もし千代田区内の新築分譲を検討するなら、契約前に次の点を見ておくことをすすめます。

確認する点 見る場所 確認の中身
転売制限の有無 売買契約書の特約条項 引き渡し後に何年間、売却や貸し出しが制限されるか
例外の扱い 特約条項、重要事項説明書 転勤や相続など、やむを得ない事情のときの扱い
違反したときの扱い 特約条項 引き渡し前と引き渡し後で、事業者がとる措置が分けて書かれているか
購入名義 登録時確認書、売買契約書 申込名義と、契約・登記の名義が一致する前提になっているか

売買契約書は、署名する前に写しをもらって読むことができます。細かい文言の意味が分からないときは、事業者の担当者に質問するか、不動産に詳しい専門家に相談してください。新築と中古の違いを比べたい方は、新築と中古マンションの違いも参考になります。

転売禁止についてのよくある誤解

千代田区の条例で転売が禁止されたのですか

いいえ。区が事業者に特約の導入を求めている段階で、法令による禁止ではありません。区からの要請に法的な拘束力はないと、はじめての住宅ローンの解説も書いています。

千代田区のマンションは、すべて5年売れなくなるのですか

いいえ。2025年の要請は、補助金の交付や高さ制限の緩和を受けた再開発の新築分譲が対象でした。今回報じられたのは、特定の建て替え計画に対する個別の要請です。中古で買う場合や、特約のない新築には当てはまりません。

引き渡しの後も、事業者が転売を止められるのですか

協会の資料を読む限り、簡単ではありません。所有権が買い主に移ったあとは、事業者が契約を解除して引き渡しをしない、という手段を使えないためです。違反が分かった場合は、民事訴訟で争うことになると資料は書いています。

まとめ:千代田区の転売5年禁止は要請であって法律ではない

千代田区が三菱地所レジデンスなどに求めた転売5年禁止は、法律でも条例でもなく、売買契約の特約として入れてもらうことを求める要請です。2025年7月の業界団体への要請から、今回は個別の物件へと範囲が移りました。

引き渡しの後に禁止を守らせることは、事業者にとって難しいと、不動産協会自身が書いています。協会が実際に進めるのは、購入戸数の上限、名義の厳格化、引き渡しまでの売却活動の禁止の3つです。5年という期間が実際の契約書に入るのか、例外がどう書かれるのかは、物件ごとの契約書を見るまで分かりません。

見出しの印象と、契約書に書かれる中身は別のものです。もし対象の物件を検討するなら、特約条項、例外、違反したときの扱いの3点を、契約前に確かめてください。最新の状況は、千代田区や不動産協会の公表をご確認ください。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、社会の制度や契約の“仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。個別の法的判断を示すものではなく、制度は改正されることもあります。具体的なケースは専門家や公的機関にご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。