なぜ「安いもやし」は限界なのか|もやし製造13社が5年で消えた理由と、原料・燃料コストの仕組み

もやしは水と暗い場所があれば勝手に育つから安い、と私は思っていました。ところが帝国データバンクの発表を読むと、もやしの製造会社は2022年から2026年の5年間で13件が倒産・廃業していて、2026年10月には埼玉県の大手が事業を止めています。安いのに作り手が減っていくのは、どこかで費用が価格に追いついていないからです。

この記事では、見出しになった「もやし製造13社が5年で消えた」という調査をもとに、もやしがどう作られ、どの費用が上がり、なぜ「売れているのに儲からない」状態になるのかを、原典の数字で整理します。2026年11月時点の内容です。

  • もやしは光を入れない栽培室で7〜9日育てる。水を温める燃料と電気が、毎日かかる費用になる
  • 主原料の中国産緑豆は、業界団体によると30年前の3倍以上。小売価格は30年前より2割以上安い
  • 帝国データバンクは、2022〜26年の5年間で倒産・廃業した製造業者を13件と数えた。判明分だけで、実際はさらに多いとみている
  • 2025年度の業績が分かった約20社のうち、約3割が最終赤字。減益を含めると65%が悪化した
目次

もやしは暗い部屋で7〜9日育てる食べ物

緑豆から育つもやしは、光を入れない栽培室で7〜9日かけて育てる
Photo by David Clode on Unsplash

光を入れない栽培室で、緑豆を育てる

北海道のもやし工場を取材した北海道新聞の記事(2022年8月)によると、原料の緑豆は約70度の湯で滅菌したあと、栽培室で7〜9日間育てます。栽培室は光が一切入らない部屋で、育っている途中に光が当たると葉が出てしまい、商品になりません。

1本が8〜10センチほどに育ったら水で洗い、緑豆から生えたひげ根を取って袋に詰めます。畑のように天候を待つ作物ではなく、室内で日数を決めて育てる工場の仕事です。

水を温めて降らせるので、燃料と電気が毎日かかる

同じ記事では、コンピューターで制御し、決まった時間に20度ほどに温めた地下水を天井から雨のように降らせて、成長を促すと説明されています。つまり、水を温める燃料がかかり続けます。

この工場では、水を温める重油代が2020年に比べて月約120万円、機械を動かす電気代が月約40万円上がり、全体の製造コストは15〜20%上がったとされています。もやしは、原料の緑豆だけでなく、熱と電気にも費用を払って作っている食べ物です。

工場は休みなく動き、年に約6千トンを出荷する

この工場は1日も休まず稼働し、年間約6千トンのもやしを作っています。従業員は約40人です。専務は「実は利益がほとんど出ていません」と話しています。毎日動かす設備と燃料の費用は、売れる量が多くても減りません。

原料の緑豆は30年で3倍、小売価格は2割以上安い

緑豆の価格は30年前の3倍以上になった

工業組合もやし生産者協会は、2021年12月から2022年11月にかけて3回、生産者の窮状を訴える声明を出しました。その中で、原料種子(緑豆)の価格は30年前と比べて3倍以上だと説明しています。中国産緑豆は2010年以降に高騰が何度も起き、特に2015年は記録的な高騰の年でした。

北海道新聞の記事も、財務省の貿易統計から、中国産緑豆の2021年の平均価格は2000年の約3倍だと伝えています。天候不順による不作に加え、緑豆よりトウモロコシや大豆のほうが収入になるため、転作が進んだことも理由に挙げています。

小売価格は30年前より下がっている

同じ協会の声明では、もやしの全国平均の小売価格は、30年前(1995年)と比べて2割以上安いとしています。2015年と2017年の原料高騰のときにわずかに上がりましたが、その後は動いていません。原料は3倍以上、小売価格は2割以上安い、という開きが、作り手の側から見た問題です。

最低賃金は30年前の1.7倍になった

協会は、最低賃金も30年前の1.7倍になったと書いています。原油価格の高騰、海運や輸送の費用、円安による輸入価格の上昇も、費用を押し上げた要因として挙げています。ここまでの数字は生産者側の団体による説明なので、立場がある資料として読む必要があります。

もやしを買うとき、値段をどのくらい気にしますか?

  1. 安さで選ぶことが多い
  2. 特売のときにまとめて買う
  3. 値段より鮮度で選ぶ
  4. ほとんど買わない

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13社が消えたと、帝国データバンクは数えた

5年間で13件、2026年だけで4件

帝国データバンクは2026年11月3日付の調査で、もやし製造業者の倒産と休廃業・解散を、2022年から2026年の5年間で計13件と集計しました。2026年は少なくとも3件で、10月に事業を止めたサイキ食品(埼玉)を加えると4件です。集計期間は2026年10月31日までです。

小規模な事業者も多く、水面下で撤退した会社を含めれば、実際にはもっと多くが市場から姿を消したとみられると、同社は書いています。13件は、確認できた分の数字です。

2025年度は、約20社のうち約3割が最終赤字

もやし製造を主力とする企業のうち、2025年度の業績が分かった約20社では、約3割が最終赤字でした。減益を含めると65%、3社に2社の業績が悪化しています。悪化した企業の割合は2021年度の75.0%をピークに改善が続いていましたが、2025年度は4年ぶりに前年を上回りました。

この調査をもとにしたニュースの見出しには「7割が業績悪化」と書かれたものもありました。私が帝国データバンクの原文で確かめた数字は65%です。見出しだけで覚えず、原典の数字を見たほうが安全だと思います。

「売れているのに儲からない」状態が起きている

同じ調査は、他の野菜の価格が上がるなかでも、節約志向を背景にもやしの需要は底堅く推移していると書いています。天候で値段が跳ねる露地野菜については、ハクサイが1個1000円を超えた長雨と日照不足の記事で仕組みを書きました。そうした野菜と違い、もやしは売れ行きが落ちていません。

しかし、コストの上がり分を価格に十分に転嫁できず、「売れているのに儲からない」状態になる製造業者が少なくないとしています。さらに、利益を出している会社でも、単価の高いスプラウトやカット野菜を一緒に作って、もやし単体の低い収益を補っているケースが目立つそうです。もやしだけでは利益を確保しにくい構造は、変わっていません。

北海道の工場の数字から、1キロあたりの燃料と電気代を計算する

重油代と電気代の上がり分を、年間の出荷量で割る

先ほどの北海道の工場の数字を使って、私が自分で計算してみました。2020年に比べた上がり分は、重油代が月約120万円、電気代が月約40万円です。

月の上がり分:120万円+40万円=160万円。年に直すと160万円×12か月=1,920万円。年間の出荷量は約6千トン=600万キログラムなので、1,920万円÷600万キログラム=1キログラムあたり3.2円。

これは2020年と比べた上がり分だけで、燃料と電気の総額ではありません。また1つの工場の2022年時点の数字で、すべての工場にそのまま当てはまるわけではありません。それでも、利益がほとんど出ていないと専務が話す工場にとって、1キログラムあたり数円の上がり分は軽くない金額です。

この計算で言えないこと

この計算では、原料の緑豆の上がり分は入れていません。同じ工場の原材料費は50〜60%上がり、円安の影響で夏以降は約2倍になる見通しだと記事に書かれています。実際の負担は、ここで計算した3.2円よりも大きかったはずです。

もやしの生産者は、戦後からどのくらい減ったのか

戦後の1000程度から現在の110へ

協会の声明によると、もやしの生産者は戦後に1000程度あり、1995年ごろは550程度、声明の時点では110になっていました。生産者は8割減り、今も減り続けているとしています。7都県では生産者がゼロで、15府県では生産者が1者だけです。

北海道新聞の記事も、1995年に全国で550軒以上あった生産業者は、2022年には100軒程度に減ったと書いています。数え方に少し差はありますが、30年ほどで大きく減ったという点は、2つの資料で一致しています。

地域密着の生産体制で、1社の撤退が供給網に響く

帝国データバンクは、もやしは地域密着型の生産体制が多く、1社の撤退でも供給網に影響を及ぼしかねないとしています。「安くて当然」を前提とした販売構造から抜け出せなければ、生産者の減少は今後も続く可能性があるとも書いています。かつての「このままでは将来、価格が高騰する」という警鐘は、価格の問題にとどまらず、安定供給を維持できなくなる懸念に及びつつあるそうです。

この記事の数字を読むときの注意点

業界団体の説明と、調査会社の集計は分けて読む

協会の声明は、生産者の側から価格の見直しを求める文書です。30年前との比較の数字は、その立場からの説明として読む必要があります。一方、帝国データバンクの13件や65%は、倒産や決算を調べた集計です。この記事では、立場の違いが分かるように、どちらの数字なのかを書き分けました。

古い数字と新しい数字が混ざっている

協会の声明は2021〜22年、北海道新聞の工場取材は2022年8月、帝国データバンクの調査は2026年11月のものです。原料価格や燃料代は、その後も動いています。帝国データバンクは、財務省の貿易統計で、緑豆の輸入単価が2026年1〜8月の平均で前年同期比7.2%上がったと書いています。直近の数字は、各社の発表で確認してください。

よくある誤解

もやしは水をかけるだけで育つから、費用はほとんどかからない?

育てるのは簡単に見えても、工場では約20度に温めた水を使い、7〜9日間、光を入れない部屋を管理します。北海道の工場では、重油代と電気代の上がり分だけで、月に約120万円と約40万円でした。燃料と電気の費用は、無視できない大きさです。

たくさん売れているなら、会社は儲かっているはず?

帝国データバンクは、需要は底堅い一方で、コスト増を価格に転嫁しきれず、売れているのに儲からない製造業者が少なくないと書いています。2025年度は約20社のうち約3割が最終赤字でした。売れる量と利益は、別の数字です。

13社というのは、消えた会社のすべて?

いいえ。帝国データバンクの13件は、倒産と休廃業・解散のうち確認できた分です。小規模な事業者の撤退は、数字に出ていない可能性があるとも書かれています。「少なくとも13件」と読むのが正確です。

もやしの値段を見るときの判断材料

売り場の値段と作り手の費用を並べて、もやしの価格を考える
Photo by Nathan Cima on Unsplash

売り場の値段と、作り手の費用を並べて考える

協会の声明にも帝国データバンクの調査にも、適正な小売価格を円で示す記述は見当たりませんでした。だからこの記事では、適正な値段がいくらかは決めません。確かめられるのは、原料が3倍以上になる一方で、小売価格は30年前より下がっているという開きです。

価格が上がったときに、何が上がったのかを見る

もやしが値上がりしたときは、原料の緑豆、水を温める燃料、電気、包装資材、物流費、人件費のどれが上がったのかを考えると、値上げの理由を読み取りやすくなります。外食チェーンでも、原価の上がりを価格に反映できるかが経営を左右する例があります。たとえばサイゼリヤの値上げと原価率の記事では、客が増えても値上げする理由を、数字で整理しています。

あなたが買う側で確認できること

この記事で確かめられた範囲では、もやしを買うときに何を選ぶべきかまでは言えません。値段の背景を知ったうえで売り場の価格を見る、というところまでが、確かめられたことです。

まとめ:もやしが安い仕組みと、製造13社が消えた理由

もやしは、光を入れない部屋で7〜9日育て、温めた水を毎日降らせて作ります。原料の緑豆は30年前の3倍以上になり、最低賃金は1.7倍になりました。一方で、小売価格は30年前より2割以上安いままです。

帝国データバンクの調査では、2022〜26年の5年間で、もやし製造業者の倒産・廃業が13件ありました。2025年度は、業績が分かった約20社の約3割が最終赤字、65%が業績悪化です。売れているのに儲からない構造が、廃業の背景にあります。

私は、一品足りないときにもやしを選ぶことが多いので、この数字を読んでから売り場の見え方が変わりました。見出しの「7割」ではなく原文の65%を使ったように、これからも原典で確かめた数字だけを書いていきます。

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📊 「なぜ「安いもやし」は限界なのか|もやし製造13社が5年で消えた理由と、原料・燃料コストの仕組み」はこんな人に読まれています

2026年11月4日 〜 2026年12月4日
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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、公表された調査と団体の説明をもとに、もやしの製造と価格の仕組みを整理した読み物です。価格や業績の数字は調査・報道の時点のものなので、最新の状況は各社・各団体の発表でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。