天ぷらを家で揚げると、揚げた直後から衣が重く、油っぽくなる。天丼にすると、たれをかけた数分後にはもう衣がやわらかい。そう感じたことはありませんか。白月ハルカです。私は土鍋で炊いたごはんにはうるさいほうですが、その上にのせる天ぷらの衣となると、サクサクの理由を説明できませんでした。
そこで日本調理科学会誌の論文と、日本調理科学会・日本家政学会の研究発表の要旨を読みました。天ぷら専門店の店主の手順を測定した論文や、衣に使う水の硬度、レモン果汁、揚げたあとの温蔵保管を調べた研究です。この記事では、そこに書かれた数字だけを使って、天ぷらの衣がサクサクになる仕組みと、天丼のように時間がたつとべちゃっとする理由を整理します(2026年10月時点の内容です)。
- 衣のサクサク感は、揚げている間に衣の水分が抜けて油と入れ替わることで生まれる
- 専門店の衣は、冷水10℃で卵を水の10分の1に減らし、粘りを抑えている
- 油の温度は170〜180℃。入れる温度のばらつきと、引き上げる秒数が仕上がりを分ける
- 揚げたあとは水分と油が染み出し続けるため、天丼のように時間をおくと衣はやわらかくなる
天ぷらの衣はなぜサクサクになるのか
衣の水分が抜けて、油と入れ替わる
衣の材料は小麦粉と水(と卵)だけで、揚げる前はぬれたペースト状です。これが高温の油に入ると、衣の中の水分が蒸発して抜け、かわりに油が入ります。日本家政学会の研究発表の要旨は、この変化を「高温の油で揚げることにより衣の脱水と吸油が起こり、サクサクとした食感が生じる」と説明しています。
つまり、サクサクの正体は「衣から水分が抜けた状態」です。逆に、水分が衣に残ったり、いったん抜けた水分がもどったりすると、食感は重くなります。この見方は、このあとの揚げ油の温度や、天丼のべちゃっと感を考えるときにも使います。
衣の中には、デンプンとグルテンの骨組みと気泡がある
日本調理科学会誌の論文は、揚げた衣を薄い切片にして顕微鏡で調べています。専門店の衣では、デンプンとグルテンでできた基本構造がよくつながっていて、気泡が大きく、気泡のまわりをデンプンが囲んでいました。フィルム状の均質な衣だったと書かれています。
これに対して、同じ材料・同じ手順で揚げた非熟練者の衣は、基本構造が太くてつながりが悪く、気泡が小さい密で厚い衣でした。グルテンは小麦粉に水を加えて混ぜると粘りを持つたんぱく質で、混ぜすぎるとぼってりした衣になる原因です。小麦粉の種類ごとのグルテンの量は、強力粉と薄力粉の違いの記事で整理しています。
専門店の衣はどこが違うのか
水は10℃、卵は水の10分の1
論文は、東京の天ぷら専門店の店主の手順を、アスパラガスの天ぷらで測定したものです。専門店の衣は、冷水(10℃)に全卵を割り入れ、卵と水の割合は1:10でした。小麦粉と卵水の比は、重さで1:2(容積で1:1)です。
著者が一般の調理書25冊を調べると、薄い衣の小麦粉と卵水の比は重さで1:1.6〜2.0で、卵と水の比は1:3が多いと書かれています。粉と卵水の比はほぼ同じで、違いは卵の量にありました。
私は衣を「混ぜすぎない」のが一番の決まりだと思っていたので、手順を読んで意外でした。卵と冷水は20秒ほど激しくかき混ぜ、上に浮いた泡は全部捨てます。粉を加えるのはそのあとで、4回に分けて、粘り気が出ないようにざっくり混ぜます。論文によれば、均質な卵液から均質な衣を作ることで、火の通りをそろえる狙いです。
粘度を測ると、卵が多い衣はかなり粘る
この3種類の衣のバッター(衣の液)の粘度を測った結果が次の表です。
| 衣の配合(卵:水) | バッターの粘度 | 揚げ上がりの脂質 |
|---|---|---|
| 1:10(専門店) | 97.5mPa・s | 7.4% |
| 1:3(一般の調理書に多い) | 362.5mPa・s | 8.1% |
| 1:2 | 475.0mPa・s | 11.6% |
| 出典:峯木・石川「プロの技より解析するてんぷら調理」日本調理科学会誌。脂質はアスパラガスの天ぷらの測定値 | ||
362.5÷97.5で約3.7倍、475.0÷97.5で約4.9倍です。専門店の衣は、卵が多い衣の約5分の1から4分の1の粘度ということになります。
私はこの数字を見て、卵を足すと「しっかりした衣になる」程度の差だと思っていたので驚きました。粘度が3倍以上違えば、種にからむ衣の量も厚さも変わります。論文は、卵の量が多いと衣が厚くなって吸油量が増える可能性があると述べています。
天ぷらや天丼の衣がべちゃっとして、残念に感じたことはありますか?
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揚げ油の温度と時間が仕上がりを分ける
入れるときの温度は170〜180℃
専門店は、材料を入れる前に油の温度を確かめ、170〜180℃で揚げます。論文によれば、この温度は一般の調理書よりやや高めで、材料を入れると油温が下がることを見込んでいます。店主は手をかざして油の温度を確かめ、加熱中もこまめに火力を調整していました。
同じ材料と手順で、非熟練者は材料を入れるときの温度が160〜200℃の範囲に散らばりました。専門店は5回揚げて175℃±5℃の範囲でした。
引き上げは、中心温度と秒数が違う
アスパラガスに熱電対を差し込んで内部温度を測ると、専門店は79.3℃、加熱時間91秒±10.7秒で引き上げていました。非熟練者は88.4℃、116秒±10.5秒です。論文は、専門店は引き上げたあとの余熱で火が通ることを見込んでいて、非熟練者は引き上げの時機を逃しやすく、食材が加熱されすぎると述べています。
116−91で25秒、88.4−79.3で9.1℃。この差は小さく見えますが、野菜の食感を左右するぶんの加熱時間です。
粉を先にまぶし、衣は流して付ける
専門店は、種に先に小麦粉をまぶしてから薄い衣をつけます。論文によると、この下地の粉の量は種の重さの0.4%で、非熟練者は2.5%でした。バッターの粘度が低いので、粉をまぶさないと衣が剥げ落ちて均一につかなかったと書かれています。素早く放つように油に入れると、衣が傷つかず、衣と種のあいだに余分な油が入らず、種は蒸される状態になるとも述べられています。
天丼がべちゃっとなるのはなぜか
揚げたあとも水分と油は染み出し続ける
同じ論文には、揚げた天ぷらをろ紙にのせて、染み出した油と水分の量(離液量)を測った結果もあります。
| 揚げてからの時間 | 専門店(1本あたり) | 非熟練者(1本あたり) |
|---|---|---|
| 1分 | 0.085g | 0.042g |
| 10分 | 0.120g | 0.033g |
| 30分 | 0.212g | 0.053g |
| 出典:峯木・石川「プロの技より解析するてんぷら調理」日本調理科学会誌 | ||
専門店の天ぷらは、1分から30分で染み出す量が0.212÷0.085で約2.5倍に増えています。
論文は、専門店の天ぷらからの離液量は意外に多く、非熟練者のほうが少なかったと書いています。理由は、非熟練者のほうが加熱が長く温度も高かったため、中の水分と油の置換が進んだからだと考察されています。そのうえで、どちらの場合も加熱後に放置すると離液量は増えるので、早めに食べることも必要だと述べています。
たれをかけた天丼は、衣が水分を受け取る状態になる
論文が引用している文献には、卵を使った衣は表層が脱水されてからりと乾くため、吸湿しやすいという記述もあります。これは天ぷらに限った測定ではなく、衣が湿気を吸いやすいという一般的な性質の説明です。
ここからは私の読みです。天丼はたれのかかった天ぷらをごはんの上にのせる料理なので、衣が水分を受け取りやすい条件がそろっています。揚げてすぐに食べる天ぷらと、たれとごはんの湯気にふれ続ける天丼とでは、衣の水分の増え方が違うはずです。この部分を直接測った資料は見つけられていないので、断定はしません。
水・レモン・粉の種類で衣の食感は変わるのか
硬度1468の水で揚げた衣のほうが評価が高かった
2010年の日本調理科学会大会の研究発表は、衣に使う水の硬度を比べています。薄力粉60gに15℃の水90mlを加えて15回かき混ぜ、硬度20の軟水と硬度1468の硬水で衣を作り、170℃で4分揚げました。評価は20歳代の大学職員・学生による官能評価です。
結果は、放置時間0分でも15分でも、硬水のほうが食感・味・総合評価の点が有意に高く、衣の破断強度も硬水のほうが低い値でした。要旨は「もろく軽い食感であることを示した」としています。水の硬度の違いは、軟水と硬水の違いの記事で解説しています。
この実験の粉と水の比は、90÷60で水が粉の1.5倍です。専門店の配合(重さで粉1に対して卵水2)よりも水は少なめです。
この実験の水は硬度20と1468の2種類で、被験者も20歳代の大学職員・学生です。家庭の水道水で同じ結果になるとは言えません。
レモン果汁は衣を軽くするが、油は多い傾向があった
2012年の日本家政学会の研究発表は、衣の液体を水から13%レモン果汁に替えた場合を、小麦粉1に対して調味液1.5の割合、180℃で調べています。レモン群は、生衣の付着量が少なく、粘りが少ないという結果でした。揚げた衣は水分が少なく、油の量は多い傾向で、サクサク感の評価は高かったと書かれています。
著者は、レモン果汁に含まれるクエン酸が小麦粉のグルテンの形成を妨げたと考えています。ここで注目したいのは、サクサクでも油が少ないとは限らない点です。レモン群の油は多い傾向でした。この研究は、サクサク感と吸油量を別の話として見る必要があることを示しています。
家庭で試すなら、どこから変えるか
手順ごとに、論文が示す根拠
| 変える点 | 論文に書かれていること |
|---|---|
| 卵の量を減らす | 卵と水の比を1:10にすると、粘度は97.5mPa・sで、脂質は7.4%だった |
| 水を冷やす | 専門店は10℃。調理書の氷水や15℃と大差ないとされている |
| 粉をまぶしてから衣をつける | 粘度が低い衣は、下地の粉がないと剥げ落ちる |
| 油温を確かめる | 入れるときは170〜180℃。入れると下がることを見込む |
| 揚げたら早く食べる | 放置すると染み出す油と水分が増える |
論文は最後に、この分量と方法であれば、薄力粉一等粉でもサラダ油でも、軽くて吸油量の少ない天ぷらが家庭でできると述べています。揚げ油は精製ゴマ油と焙煎ゴマ油を混ぜたものですが、サラダ油でも揚げ重量・揚げ時間・吸油量に差はなかったと書かれています。
作り置きや弁当の天ぷらは、蒸気で温め直す方法が調べられている
大量調理では、揚げてから温蔵(保温)して出す天ぷらが問題になります。2019年の日本調理科学会大会の研究発表は、170℃のフライヤーで揚げてから2時間温蔵した天ぷらを、スチームコンベクションオーブンで再加熱して比べました。条件は、180℃・湿度100%で5分、同2分、150℃・湿度100%で5分の3通りです。教員7名による官能評価で、えびとさつまいもは180℃・湿度100%・5分の評価が高く、えびは全員が天ぷらとしての品質を保っていると答えました。なすは5分の食感だけが高評価で、2分と150℃では油っぽさが改善されませんでした。
この結果は専門の調理設備での実験なので、家庭の電子レンジやトースターで同じになるとは言えません。ただし、揚げたあとの水分と油の動きを、再加熱で調整できる可能性を示した研究です。
実験の条件から見える注意点
測定は、アスパラガスなどの限られた種で行われている
主に取り上げた論文の測定はアスパラガスの天ぷらで、比べた非熟練者は実験者3名(代表1名のデータ)です。えびやなすなど水分や油の吸い方が違う種で、同じ数字になるとは限りません。2019年の研究でも、なすだけは結果が分かれました。
専門店の粉は、箸では混ざりにくい
論文によると、専門店が使う特選薄力粉は粒子が細かく、冷水に混ざりにくいため、泡立て器で粉を4回に分けて混ぜます。一般的な薄力粉一等粉で作る場合は、箸でざっくり混ぜる調理書が多いと書かれています。特選薄力粉を箸で混ぜるとよく混ざらなかったという記述もあり、粉によって混ぜ方を変える必要があります。
数字は実験の条件つきの値です
粘度や油温、離液量は、論文の条件(10℃の水、26cmのフライパン、アスパラガス)で得た値です。自宅のコンロや鍋、油の量で同じ秒数と温度になるとは限りません。論文の数字は目標値として使い、自分の鍋で油温を測りながら調整することになります。
目的別の選び方:どの工夫から試すか
とにかく衣を軽くしたい人
卵を減らして水を冷やすのが、論文で最も数字が出ている変更です。卵と水の比を1:10にしたとき、粘度は1:3の衣よりかなり低い値でした。
揚げてから少し時間がたつ人(弁当・持ち寄り・天丼)
衣は揚げたあとも水分と油が染み出し続けます。時間をおく前提なら、再加熱で水分を飛ばす方法を考えます。2019年の研究は、180℃・湿度100%・5分の再加熱が、えびとさつまいもに評価が高かったと報告しています。
衣の水を替えて実験したい人
レモン果汁を加えるとサクサク感は上がる傾向でしたが、揚げ衣の油は多い傾向もありました。食感と油の量のどちらを優先するかで決めることになります。
小麦粉に加える物質で食感が変わる例は、天ぷら以外にもあります。中華麺のかん水は、小麦粉のたんぱく質と反応して麺のコシと色を変えます。
よくある誤解
氷を入れた水のほうが、必ずよい衣になる?
論文では、専門店の水は10℃で、一般の調理書の氷水や15℃と「大差ない」と書かれています。氷水かどうかより、粉を混ぜすぎないことと、卵の量を減らして粘度を下げることが数字で確かめられています。
卵をたくさん入れるほどおいしい衣になる?
卵が多い衣は、粘度が高くなり、衣が厚くなって吸油量が増える可能性があると論文は述べています。卵と水の比が1:2の衣は、アスパラガスの天ぷらの脂質が11.6%で、専門店の衣の7.4%より高い値でした。
サクサクの衣は、油が少ない衣?
レモン果汁を使った研究では、サクサク感の評価が高い衣のほうが、油の量は多い傾向でした。サクサク感と吸油量は別の指標です。
揚げたあとは、衣の状態は変わらない?
専門店の天ぷらは、揚げてから1分、10分、30分と時間がたつほど染み出す油と水分の量が増えました。論文は、おいしく食べるためには早めに食べることも必要だと述べています。
まとめ:天ぷらの衣と天丼の食感を決める要素
天ぷらの衣のサクサク感は、高温の油の中で衣から水分が抜けて油と入れ替わることで生まれます。専門店の手順を測った論文では、卵を水の10分の1にして粘度を97.5mPa・sに抑え、170〜180℃の油に入れ、91秒ほどで引き上げていました。
天丼のように時間がたつと衣がやわらかくなるのは、揚げたあとも水分と油が染み出し続けることと、衣の表面が吸湿しやすいことが関係していると考えられます。ただし、たれやごはんの湯気が衣に与える影響を直接測った資料は、今回は確認できませんでした。
家庭で試すなら、まず卵を減らして水を冷やし、油の温度を確かめて、揚げたらすぐ食べる。この順で変えると、論文が示す数字に近づけられます。レモン果汁や硬水は、条件つきの研究結果として参考にしてください。
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📚 参考文献・出典
- ・峯木眞知子・石川由花「プロの技より解析するてんぷら調理」日本調理科学会誌 49(2) https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/49/2/49_172/_pdf
- ・日本調理科学会大会研究発表要旨集「天ぷら衣調製時に使用する水の硬度が衣の食感に及ぼす影響」(2010年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajscs/22/0/22_0_80/_article/-char/ja/
- ・日本家政学会研究発表要旨集「レモン添加が天ぷらの衣の物性に与える影響」(2012年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/kasei/64/0/64_180/_article/-char/ja/
- ・日本調理科学会大会研究発表要旨集「温蔵保管した天ぷらの提供前加熱処理による食味向上に関する調査」(2019年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajscs/31/0/31_165/_article/-char/ja/










































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