同じホテルの同じ部屋なのに、予約する日によって宿泊料金が大きく違います。私は長いあいだ、これをホテルの気分のようなものだと思っていました。調べてみると、料金を動かしているのは「その日の客室がどれだけ売れそうか」という見通しで、考え方は航空券とほぼ同じでした。
この記事では、観光庁の宿泊旅行統計、日本銀行の企業向けサービス価格指数、信金中央金庫の研究所のレポート、観光庁のモデル宿泊約款をもとに、宿泊料金が日によって変わる理由と、予約するときに見るところを整理します。2026年11月時点の内容です。
- 客室は売れ残っても翌日に持ち越せないので、需要が低い日は料金を下げ、高い日は上げて売上を確保する
- 客室稼働率は施設の種類で大きく違い、2026年9月はビジネスホテルが76.9%、旅館が43.8%
- 信金中央金庫の例では、一律12千円で80室売るより、3段階の料金で110室売るほうが売上は大きい
- 日本銀行の指数で、宿泊サービスの価格は2026年9月に前年比9.7%上がった
- 約款は「料金表による」と書くだけで、金額は各ホテルが決める
同じ客室でも日によって料金が違うのは、売れ残りを翌日に回せないから
売れ残った客室の売上は、あとから取り戻せない
FINANCIAL FIELDの解説は、ホテルの客室を「在庫が持てない商品」と説明しています。今夜空いたままの部屋は、明日まとめて売ることができません。そのため、需要が低い時期は料金を下げて稼働率を上げ、需要が高い時期は料金を上げて収益を最大化する、という考え方になります。
信金中央金庫の研究所は、この手法を「レベニューマネジメント(収益管理)」と呼んでいます。需要を多面的に分析して柔軟に価格を決め、機会損失(売れ残り)を防ぎながら平均単価を引き上げ、総売上を確保するやり方です。同じ手法は、スポーツ観戦のチケットや航空券の販売ではダイナミックプライシングとも呼ばれます。航空券のほうは、航空券の価格はなぜ毎日変わるのかで整理しました。
約款が決めているのは「料金表による」というところまで
宿泊料金の金額も、約款に書いてあるのだろうと私は思い込んでいました。観光庁が公開しているモデル宿泊約款を開いてみると、宿泊契約の申込みで伝える事項に「宿泊料金(原則として基本宿泊料による)」とあり、基本宿泊料は「掲示する料金表によります」と書かれていて、肝心の金額は空欄でした。金額を決めるのは各ホテルで、約款は決め方まで定めていません。
支払う総額の内訳は、基本宿泊料(室料、または室料と朝食などの飲食料)にサービス料を加え、追加の飲食があればその分を足し、消費税と、温泉地であれば入湯税を加えたものです。もう一つ、客室を使える状態にしたあと、客が自分の都合で泊まらなかった場合も宿泊料金は請求される、という定めがあります。売れ残りが取り戻せないのと同じ事情が、契約の側にも書かれています。
客室稼働率はホテルの種類で30ポイント以上違う
客室稼働率は、客室のうち実際に売れた割合です。観光庁の宿泊旅行統計調査は、これを施設のタイプ別に公表しています。2026年9月分(第1次速報)と、比較用に2019年と2025年を並べます。
| 時期(単位:%) | 全体 | 旅館 | リゾートホテル | ビジネスホテル | シティホテル | 簡易宿所 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2019年 | 62.7 | 39.6 | 58.5 | 75.8 | 79.5 | 33.4 |
| 2025年 | 61.6 | 38.2 | 56.9 | 75.3 | 74.1 | 29.6 |
| 2026年9月(第1次速報) | 62.6 | 43.8 | 60.5 | 76.9 | 74.6 | 27.5 |
| ※観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年9月分(第1次速報)の報道発表資料。2019年・2025年は確定値、2026年9月は第1次速報値で、第2次速報で改定される可能性があります。 | ||||||
2026年9月はビジネスホテルが76.9%、旅館は43.8%
ビジネスホテル76.9%から旅館43.8%を引くと33.1ポイントの差です(76.9−43.8で計算)。
ビジネスホテルでは、4室のうち3室が毎晩のように埋まっています。空室が出る前提で料金を考える旅館とは、料金を動かす理由の重さが違うはずです。ただ、各施設がどの程度料金を動かしているかは、この統計からは分かりません。稼働率の違いが料金の動かし方の違いに直結するかどうかは、私が確かめられた範囲を超えています。
シティホテルは2019年の79.5%から、2025年は74.1%
2019年から2025年の変化を計算すると、全体は62.7%から61.6%で1.1ポイント減、ビジネスホテルは75.8%から75.3%で0.5ポイント減、旅館は39.6%から38.2%で1.4ポイント減、シティホテルは79.5%から74.1%で5.4ポイント減です。
2019年はシティホテルのほうがビジネスホテルより稼働率が高く、2025年には逆転しています。シティホテルだけ減り方が大きい理由は、この資料には書かれていません。
同じ月でも都道府県で違う
同じ資料の2026年8月(第2次速報)では、全体の稼働率が最も高かったのは福岡県の75.2%でした。東京都は72.5%、沖縄県は58.4%です。
福岡県と沖縄県の差は16.8ポイントです(75.2−58.4で計算)。
同じ月、同じ全国のホテルでも、需要の厚みは地域によってこれだけ違います。ホテルが自分の地域の需要を見て料金を決めるなら、全国一律の料金にならないのは自然です。
ホテルを予約するとき、前後の日付の料金も比べますか?
- いつも比べる
- 安そうなときだけ比べる
- ほとんど比べない
- 日程が決まっていて動かせない
一律12千円と3段階の料金では、売上がどう変わるか
一律12千円なら、売れるのは80室まで
信金中央金庫の研究所のレポートには、価格を動かす意味を数字で示した例があります。販売価格を一定の12千円にして80室売れたとすると、売上高は「12千円×80室」です。
12千円×80室で計算すると、売上高は960千円です。
レポートは、この例で2種類の取りこぼしを挙げています。需要があるのに低い価格で売ってしまった部屋と、需要があるのに価格を下げなかったために売れなかった部屋です。この取りこぼしをどれだけ小さくするかが、レベニューマネジメントの考え方の根幹だと書かれています。
17千円・12千円・8千円の3段階に分けると、110室で1,450千円
同じ需要の前提で、需要が高いときは17千円、通常は12千円、需要が低いときは8千円で売ったのが、次の表です。
| 客室単価 | 販売客室数 | 売上高 |
|---|---|---|
| 17千円 | 50室 | 850千円 |
| 12千円 | 30室 | 360千円 |
| 8千円 | 30室 | 240千円 |
| 合計(13千円) | 110室 | 1,450千円 |
| ※信金中央金庫 地域・中小企業研究所「産業企業情報 2022-24」の図表。需要曲線どおりに需要があると仮定した例です。 | ||
一律12千円の960千円と比べると、3段階の1,450千円は490千円多く、約51%の増加です(1,450−960=490、490÷960で計算)。
売れた部屋は80室から110室に増え、平均の客室単価は約13千円です。高く買ってくれる人には高く、安ければ泊まる人には安く売る。この組み合わせで売上が伸びる、というのがこの例の主張です。
この計算が成り立つ前提
レポート自身が、「需要曲線通りに需要が存在するという仮定の中ではあるものの」と断っています。実際のホテルでは、高い日に本当に50室が17千円で売れるかは、その日になってみないと分かりません。この表は、実際のホテルの売上の実績ではありません。
もう一つ覚えておきたいのは、稼働率だけを見ても儲かっているかは分からないことです。UWF(米国の大学)の教科書は、RevPAR(販売可能な客室1室あたりの収益)を、平均客室単価に稼働率をかけて求めると説明しています。高い単価だけでは収益性は保証されず、稼働率との釣り合いが必要だとも書かれています。
たとえば平均客室単価が10,000円で稼働率が80%なら、RevPARは10,000×0.8=8,000円です(数字は説明用に私が置いた例です)。
料金を動かす材料は曜日・季節・イベント・残室数・周辺の価格
日付と、残りの客室数
FINANCIAL FIELDの解説は、料金を左右する要因として、曜日(週末は高め、平日は安め)、季節、ライブやスポーツ大会などのイベント、予約のタイミング、客室の残数を挙げています。空室が少なくなるほど料金が上がる、という見方です。
私の読みでは、これらは別々の要因ではなく、すべて「その日に何室売れそうか」の予想を作る材料です。連休もイベントも、売れそうな部屋数を増やす要因として料金に反映されます。
周辺ホテルの価格を見ている
同じ解説は、周辺の施設の価格に合わせて調整することも一般的だとしています。信金中央金庫のレポートも、これまでの宿泊単価は周辺の価格相場をにらんだ担当者の経験や勘で設定されることが多かった、と書いています。同じ地域で同じ日に大きなイベントがあれば、周辺のホテルがそろって値上げするのはこのためです。
経験と勘から、需要を分析して決める方式へ
レポートは、経験や勘に頼る方式の問題点も挙げています。正しい価格設定なのかを検証しにくいこと、繁忙期にも単価を一切変えず機会を逃してきた施設が少なくなかったこと、単価を決めていたベテラン担当者が退職すると同じやり方を続けられなくなることです。近年は、AI技術の進歩もあって、需要の分析を多面的に行う手法が広がり始めている、という書き方です。
「広がり始めている」という表現からは、すべてのホテルが自動で料金を決めているわけではないことが読み取れます。どのホテルがどの方法を使っているかは、公開された資料では確かめられませんでした。
2026年9月、宿泊サービスの価格は前年比9.7%上がった
日本銀行の指数は8月が1.6%、9月が9.7%
日本銀行は、企業どうしで取引されるサービスの価格を企業向けサービス価格指数としてまとめています。2026年9月速報の資料では、「宿泊サービス」の前年比は8月が1.6%、9月が9.7%でした。
8月と9月の差は8.1ポイントです(9.7−1.6で計算)。
1か月で上昇率が大きく動いています。この資料には上昇の理由が書かれていないので、なぜ9月に高くなったのかは私にも分かりません。需要が強かった可能性もありますが、資料から確かめられるのは数字までです。
稼働率は前年同月から0.2ポイント下がっている
観光庁の統計では、2026年9月の全体の客室稼働率は62.6%で、前年同月より0.2ポイント低い値でした。稼働率が横ばいから少し下がるなかで、価格の指数は上がっています。売れた部屋数ではなく、1室あたりの料金で売上を取りにいく動きと整合します。
ただし、日本銀行の指数と観光庁の稼働率は、調べている範囲も対象も違います。2つの数字を並べて因果を言い切ることはできません。宿泊料金は、混んでいるから上がる面と、混んでいなくても上がる面があり得る、と受け取るのが安全です。
予約する前に、同じ宿の日付違いを並べて見る
候補の日を3つ以上並べる
料金が日によって動くなら、泊まりたい宿を1つ決めたあとに、前後の日付も入力して並べてみるのが手早い方法です。FINANCIAL FIELDの解説も、利用者にできることとして、平日に泊まることと早めに予約することを挙げています。
早く予約すれば必ず安いとは限りません。料金は予約のタイミングに加えて残りの客室数でも動くので、人気の日は早く埋まる分、後から高くなる場合もあります。私の見方ですが、日付違いを比べる作業は、1回につき数分で済みます。
公式サイトと予約サイトを見比べる
同じ解説は、価格比較サイトや公式サイトをこまめに確認することも勧めています。ホテルによって、同じ日の同じ部屋に別々の料金プランが付いていることがあります。朝食の有無やキャンセル条件が違う場合も多いので、料金だけでなく条件を横に並べて見る必要があります。
変動料金のデメリットと注意点
繁忙日は割高になり、料金の目安が立てにくい
需要が高い日に料金が上がるのは、この仕組みの狙いそのものです。連休やイベントのある日は、普段の料金を基準に旅行費用を考えていると予算が足りなくなります。旅行の日程を決める前に、泊まる宿の料金を調べておくと、予算の見積もりがずれにくくなります。
安い日を選んだときこそ、キャンセル条件を確認する
モデル宿泊約款には、契約の解除の通知を受けた日と人数に応じて違約金を取る表があります。ただし、その割合はモデルでは空欄で、実際の割合は各ホテルが決めます。約款は、連絡なしに宿泊日の当日になっても到着しない場合、契約が解除されたものとして扱うことがある、とも定めています。
料金が安いプランほど、キャンセル条件が厳しいことがあります。この点は、予約する宿の約款かプランの説明で確認してください。チェックアウトの時刻や延長料金も約款ごとに違います。ホテルのチェックアウト時間は誰が決めるのかで整理しています。予約した部屋が満室で泊まれない場合の扱いは、ホテルのオーバーブッキングの記事で説明しました。
ホテルの宿泊料金のよくある誤解
料金の変動はAIが全部決めているのですか
全部ではありません。信金中央金庫のレポートは、需要分析にAIを使う手法が広がり始めている段階だと書いています。従来は、周辺の価格相場を見た担当者の経験や勘で単価を決める施設が多かったとも書かれています。ホテルによって決め方は違います。
稼働率が高ければ、ホテルは儲かっているのですか
稼働率だけでは判断できません。UWFの教科書は、高い平均客室単価だけでは収益性は保証されず、稼働率と釣り合う必要があると説明しています。信金中央金庫のレポートは、これまでの宿泊業では単価を低めに設定して稼働率の向上を重視する傾向があった、と指摘しています。部屋が埋まっていても、単価が低ければ売上は伸びません。
約款に全国共通の料金表があるのですか
ありません。観光庁のモデル宿泊約款は、宿泊料金を「原則として基本宿泊料による」とし、基本宿泊料は各ホテルが掲示する料金表によると定めているだけです。金額の欄は空欄でした。違約金の割合も同じく空欄で、各ホテルが決めます。
予約の選び方:日程を動かせるかどうかで見る場所が変わる
ここまでの内容を、予約する側の状況別に整理します。
| 状況 | 見るところ | 理由 |
|---|---|---|
| 日程を動かせる | 前後の日付を並べて料金を比べる。平日も候補に入れる | 需要が低い日は料金が下がる設計だから |
| 日程が決まっている | 公式サイトと予約サイトを見比べ、キャンセル条件も確認する | 同じ日でもプランごとに料金と条件が違うため |
| 連休やイベントの日に泊まる | 予算を普段の料金より多めに見て、早めに候補を押さえる | 残室が少ない日は料金が上がりやすいため |
| ※FINANCIAL FIELDの解説と信金中央金庫のレポートを読んだうえでの、私の整理です。料金と条件は各ホテルの公式ページで最新の内容を確認してください。 | ||
ホテル側の事情を知っておくと、料金の差を「高い」「安い」だけで見ずに済みます。需要の低い日の安さは、空室を作らないための値下げです。需要の高い日の高さは、限られた部屋に希望者が集まった結果です。自分の日程がどちら側にあたるかが分かれば、動かす余地があるかどうかも見えてきます。
まとめ:宿泊料金の変動は「その日の売れ行きの見通し」で決まる
ホテルの客室は、売れ残っても翌日に持ち越せません。そのため、需要が低い日は料金を下げ、高い日は上げることで、総売上を確保する方法が使われています。信金中央金庫の例では、一律12千円で80室売るより、3段階の料金で110室売った1,450千円のほうが売上は大きくなりました。ただし、この数字は需要曲線どおりに需要があると仮定した説明用の例です。
実際の稼働率は、2026年9月でビジネスホテルが76.9%、旅館が43.8%と、施設の種類で大きく違います。日本銀行の企業向けサービス価格指数では、宿泊サービスの前年比が8月の1.6%から9月は9.7%に上がりました。理由は資料に書かれていないので、この記事では分かる範囲の数字だけを並べました。
予約するときは、日程を動かせるなら前後の日付を並べ、動かせないなら公式サイトと予約サイトを見比べて、キャンセル条件まで確認します。料金の最新の状況は、泊まる宿の公式ページで確認してください。
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📚 参考文献・出典
- ・観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年9月分(第1次速報)報道発表資料 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002028947.pdf
- ・日本銀行「企業向けサービス価格指数(2026年9月速報)」 https://www.boj.or.jp/statistics/pi/cspi_release/sppi2609.pdf
- ・信金中央金庫 地域・中小企業研究所「産業企業情報 2022-24」(2023年3月28日) https://www.scbri.jp/reports/.assets/industry_20230328.pdf
- ・観光庁「モデル宿泊約款」 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001747987.pdf
- ・FINANCIAL FIELD「同じホテルなのに、予約する日によって宿泊料が大きく違うのはなぜ?「変動料金」の仕組みを確認」 https://financial-field.com/living/entry-496975
- ・UWF「Revenue Management Illustrated: Revenue Management Measurement」 https://pressbooks.uwf.edu/revenuemanagementillustrated/chapter/revenue-management-measurement/










































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